「我々は第2段階が終わり、今、第3段階が始まった。これからワールドカップに向けての準備が始まる。このチームの意欲をできるだけ大きなものにし、勇敢に戦えるようにしたい」
8月31日のオーストラリア戦(埼玉)で悲願の6大会連続世界切符を獲得したヴァイッド・ハリルホジッチ監督が、いち早く見据えているのがロシア・ワールドカップ本大会だ。9月5日の最終予選ラストマッチのサウジアラビア戦(ジェッダ)はその重要な第一歩。世界切符を死に物狂いで取りに来るサウジに対し、日本は高温多湿の完全アウェーの地で勇敢な戦いを見せる必要がある。
「まだどのチームで臨もうかというのは決定的に決めたわけではない」と前日会見で語った指揮官だが、すでに長谷部誠(フランクフルト)と香川真司(ドルトムント)が離脱しているだけに、メンバー構成は前回と入れ替えざるを得ない。守備陣はGK川島永嗣(メス)や吉田麻也(サウサンプトン)らこれまでの基本メンバーを引き続き起用しそうな雲行きもあるが、攻撃陣はガラリと陣容が変化しそうだ。
■攻撃陣は大きく変貌?
ケガ明けの大迫勇也(ケルン)はムリをさせたくないことから、1トップは岡崎慎司(レスター)の先発が有力。今季プレミアリーグ開幕2戦連続ゴールと絶好調の男はやる気満々だ。今回の最終予選は9試合中3試合しか先発しておらず、ゴールも3月のタイ戦(埼玉)の1点のみと、本人の納得できる結果は残せなかった。その悔しさを晴らすべく、今回のサウジ戦では果敢にゴールを狙いに行くはずだ。
両サイドに関しては右に本田圭佑(パチューカ)、左に原口元気(ヘルタ・ベルリン)が濃厚。彼ら2人は6月のイラク戦(テヘラン)で揃ってスタメン出場しているが、勝利に貢献できなかった。本田はパチューカ移籍後、右足負傷で新天地デビューが遅れ、8月22日(日本時間23日)のベラクルス戦でようやく初出場。ゴールも決めた。ただ、まだ2試合の出場時間数が90分に満たないため、ゲーム体力がどこまで持続できるか気がかりだ。オーストラリア戦で値千金の先制弾を挙げた浅野拓磨(シュツットガルト)、最終予選後半に目覚ましい成長を見せた久保裕也(ヘント)というリオデジャネイロ五輪世代の若手も同じポジションに控えている。そのため、今回のサウジ戦で存在感を示せないと、彼自身が集大成と捉えているロシア行きに暗雲が漂うことにもなりかねない。
「ケガも治りましたし、全てにおいてパワーアップしたい。努力の仕方を変えて、また新しい形で今まで挑戦しなかった挑戦をして、新たにパワーアップした本田圭佑をみなさんに見せたい」と彼は意気込んでいる。イラク戦後には山口蛍(セレッソ大阪)が「やっぱり一番存在感があったと思う」と話したように、数々の修羅場をくぐってきた分、大きな力を発揮できるのが本田だ。走力やスピードでは若手には及ばないだろうが、戦術眼や緩急をつけるゲームメイクやタメを作る動きなどサッカーを熟知した選手らしい円熟味を見せられる。その長所をどうチームの勝利に生かしていくのか。以前のようにゴールという形でインパクトを残せれば最高だ。
左の原口も最終予選前半戦では日本新記録の4試合連続ゴール。苦しむチームを先陣切ってけん引してきた。オーストラリア戦の功労者は浅野と井手口陽介(ガンバ大阪)かもしれないが、最終予選を通して見れば、彼の貢献度の高さは絶大だった。しかしながら、所属のヘルタにおける去就問題が引き金となって定位置を失ったことで、代表でもスタメン落ちの屈辱を味わうことになった。
「コンディションのいい選手が出るっていうのが(ハリル)監督の考え方なんで。全然納得はしてないけど、理解もリスペクトもしてる。自分もヘルタで勝ち切らないと代表でも出られないと思う。仮にサウジ戦で出番が訪れたら、チームとしても個人としても新たなトライをしたい。常に100パーセントでやっていい結果を求めるだけじゃなく、もっと効率よくやることを考えたい」と原口はメリハリをつけた戦い方を模索していくつもりだ。
■柴崎は代表のリズムに適応できるか
彼ら前線3枚を生かすも殺すも、攻撃的中盤に入るであろう柴崎岳(ヘタフェ)と井手口陽介の動き次第と言っていいかもしれない。今回は逆三角形の中盤か、正三角形の中盤かまだ分からないところがあるが、前者であれば柴崎・井手口のインサイドハーフの後ろに山口蛍が陣取り、後者であれば柴崎がトップ下、井手口と山口がダブルボランチの形になるだろう。井手口と山口が機動力溢れるパフォーマンスを出せるのはすでにオーストラリア戦で実証済み。そのリズムに柴崎がいち早く慣れて、自らタクトを振るえるようになるのが理想的だ。
柴崎が代表のピッチに立つのは2015年10月のイラン戦(テヘラン)以来、約2年ぶりとなる。肉弾戦の欧州となったアザディ・スタジアムでの一戦で、柴崎は球際や当たりの部分でことごとく負け続け、デュエルの弱さという課題を露呈してしまった。これを問題視したハリルホジッチ監督は柴崎を代表から外すことを決断。そこから長い月日が経過してしまった。それでも昨年末のFIFAクラブワールドカップ、レアル・マドリー戦でのゴール、スペイン移籍後の冷静沈着なプレーなど、彼自身も明らかに成長の跡が感じられるようになった。
「スペインに行っただけじゃなく、日本でもいろんな経験をさせてもらいましたし、目に見えるところだけではなく、精神的なところも向上していますので、さまざまな面で今の自分を表現したい。代表で競争に勝ち抜く自信? それはあります」と本人も以前に比べてハッキリと意思を前面に押し出すようになった。そういうメンタリティーであれば、年下の井手口を効果的に動かすのはもちろんのこと、本田や岡崎といったベテランにも的確な指示を出せるはず。タクトを振るう人間というのはそのくらい堂々としていなければならない。柴崎にそんな変化が見られれば、攻撃陣は確実に活性化するだろう。
ベテランは生き残りを、復帰組・新戦力は代表定着をかけて、それぞれにアピールをしなければならない。そういう中でも勝利のために一丸となれる日本が見られれば、サウジ撃破のみならず、ロシアに向けても希望が見えてくる。この一戦は単なる最終予選ラストマッチだけではない意味を持つ。とにかく本田、岡崎、原口、柴崎の攻撃陣の一挙手一投足を見極めつつ、重要なゲームを見たい。
文=元川悦子


