単なる親善試合に過ぎないとはいえ、1人の選手の人生を変えてしまう試合がある。プレシーズンに中国で行われたミラン対バイエルン・ミュンヘンの一戦はおそらく、FWパトリック・クトローネのキャリアの分岐点となっただろう。
バイエルンのような強豪チームに対し、ドッピエッタ(1試合2得点)を決めることは誰もができることではない。DFフアン・ベルナト、DFダビド・アラバ、DFラフィーニャ、そして世界王者のDFマッツ・フンメルスらそうそうたる選手の揃う守備陣を相手に尻込みすることなく勝負を挑んでいく。
ミランは今夏、大型補強で注目を集めた。頼れるスター選手が数多く加わり熱気に沸いたが、1998年生まれの若者もチームにおいて存在感を示し、貢献していく準備はできている。
■キャリアのスタート
1998 年、コモに生まれたクトローネ。幼少期に地元のパラディエンセでサッカーの世界へ飛び込むと、のちにミランに加入した。ミランは彼にとって第2の家族と呼べる存在となる。彼はここで真のサッカーを学び、セリエAでプレーする偉大な選手をすぐ近くで観察しながら成長していった。チームスタッフもすぐに彼の素質に気づき始めたが、名前が初めて響き渡ったのは、2012年のガエターノ・シレア・トーナメント(U-14の国際大会)においてのことだった。ミランは決勝に駒を進めるも、最強軍団バルセロナに2-3で屈した。だがドッピエッタ(1試合2得点)を記録したミランの若きストライカーのパフォーマンスは皆の心に刻まれた。
ミランにおいて、クトローネは下部組織の各年代のカテゴリーでゴールを量産。プリマヴェーラだけでも67試合に出場し43得点を記録している。彼の鋭い得点力と確かなクオリティはイタリア全体でも注目の的となった。2013年から2016年にかけて、U-15からU-19に至るまで年代別の代表に選出されている。2017年1月にはトップチームに昇格。ボローニャ戦(ミランが3-0で勝利)において、85分、FWジェラール・デウロフェウに代わってピッチに入り、セリエAデビューを果たした。
■テクニックと特徴
クトローネは身長183センチ、75キロとがっしりとした体格を持ち、パワーを武器とするセンターフォワードだ。しかし、スピードもあり、素早くシュートを放つことも可能だ。またストライカーとしての天賦の才に加え、味方が攻撃に上がりピッチを支配するまで攻撃陣の要として支えることのできる特性も兼ね備えており、典型的な近代的アタッカーと言える。
利き足は右足で、戦車のような屈強な体格ながらも、技術面も非常に優れている。主戦場はセンターフォワードだが、サイド寄りに配置されることもある。中央に切れ込み、シュートを打つことを許された特殊なウィンガーのような役割を担う事ができる。
■将来
夏のプレシーズンにおいて、クトローネはトップチームに招集され、期待を裏切るどころか、ヴィンチェンツォ・モンテッラに抜擢された3試合で3得点を記録した。バイエルン戦でのドッピエッタのほか、ルガーノとの親善試合でもネットを揺らした。途中出場したボルシア・ドルトムント戦でもミランの選手として恥ずかしくないプレーを見せている。
公式戦ではヨーロッパリーグのクラヨーヴァ戦において得点を記録している。またセリエAにおいても、開幕戦のクロトーネ戦では得点とアシストを記録。カリアリ戦でもゴールを挙げ、ニコラ・カリニッチおよびアンドレ・シウバが加入した激戦区に身を置く立場でありながら、クトローネはミランに残留することになった。
■インテルも狙っていた?
クトローネはそもそもかなり以前から注目されていた選手だった。まだパレディエンセの下部組織「プルチーニ(8-11歳)」でプレーしていた少年の頃からゴールを積み重ねており、ロンバルディア州全土のスカウトが熱視線を送っていた。
彼の動向を追っていた数多くのクラブの中にはインテルの姿もあった。だがミランの方がインテルよりも素早く行動し、現在は誰もが渇望する”宝”を獲得することに成功した。ミランはどのクラブよりも早く彼に賭けることを決断したおかげで、これからその”見返り”を受けることになる。
将来のエース候補として躍動を続けるクトローネ。すでにブレイクの香りを漂わせており、全世界が彼の名前を知る日はそう遠くはないのかもしれない。