その前哨戦となった7日のシリア戦(東京)で左肩を脱臼した香川真司(ドルトムント)が早々と離脱を余儀なくされ、右すね打撲で練習を3日休んだ山口蛍(C大阪)も大一番を欠場。2年2か月ぶりの代表復帰で、シリア戦で鮮烈な印象を残した乾貴士(エイバル)も負傷者続出のあおりを受けて出番なしに終わるなど、セレッソ大阪関連選手は軒並み活躍の場を与えられずじまいだった。
山口に関しては、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が起用すべきか否かで直前まで悩んでいた様子だった。が、前日会見で「治療はしたが、準備できているかどうか分からない。トレーニングをしっかりやってるわけではないから」とコンディションを疑問視する発言をしていて、結局はアップもしないままベンチから戦況を見守ることになった。
「練習も前日しか合流してないし、試合中のアップも行かなかったんで、全然出る気配はなかった」と本人も残念がったが、指揮官の決断である以上、やむを得ない。右ひざ負傷で長期離脱中の長谷部誠(フランクフルト)と彼の穴を埋めた井手口と遠藤航(浦和)の出来も悪くなかっただけに、今後はボランチ競争が一段と激化しそうだ。
「(イラク戦の)陽介と航のボランチコンビは全然よかったと思いますね。陽介はまだ若いし、ガンガン行けるし。シリア戦は後半相手も落ちてたし、かなりラクにできたと思うけど、そこで自信もついただろうし、それで次の試合もよかったのかなと。自分の少し若い頃もあんな感じだったかなと感じます。逆に一緒に組んでみても面白そうやなと。ポジション争いが厳しいのは前からで、ボランチだけじゃないと思います。結局は監督が決めることなんで」と山口は井手口の台頭を歓迎しつつ、現状を冷静に見据えていた。
実際、ハリル体制になってからのボランチはさまざまな選手が試されてきた。アジア予選がスタートしてからは基本的に長谷部と山口がファーストチョイスではあったが、柏木陽介(浦和)や大島僚太(川崎)、酒井高徳(HSV)らもテストされ、指揮官は貪欲に新たな可能性を探し続けてきた。山口も「いつ自分が代表から落とされるか分からない」とつねに危機感を募らせていた。
そんな彼の見せ場だったのが、3月のタイ戦(埼玉)。長谷部と今野泰幸(G大阪)の両ベテランが揃って負傷離脱し、酒井高徳とコンビを組んだが、本職ボランチは彼1人。本人は「自分がやらなければいけない」と闘志を奮い立たせたが、逆にそれがプレッシャーとなり、攻撃面でミスを連発。不安定なパフォーマンスを露呈してしまった。
「『ボランチが俺しかいない』ってことをあんまり考えないようにしてたけど、どうしても気負いが出てしまう部分はあった」と山口自身も反省しきりだったが、巻き返しを図るのはピッチ上しかない。イラク戦は非常に重要な一戦だった。その大舞台を前哨戦でのケガで棒に振ったのは不運としかいいようがない。チームも勝ち点2を落とし、8〜9月のオーストラリア・サウジアラビアとのラスト2戦に向けて厳しさを増している。
山口自身も次の2連戦が1つの正念場になるかもしれない。
「今回、モリ(森重真人=FC東京)君とかキヨ(清武弘嗣=C大阪)君、周作(西川=浦和)君が外れて、自分も含めて次はどうなるか分からないから、あんまり先のことを想像しても仕方ないのかなと。入ったら入ったで頑張ればいい。ただ、チームとしては次の2試合はどっちか1試合でも勝てばOK。ホームで決めれるチャンスがあるってことでポジティブに考えてもいいのかなと思います」と山口は静かに言う。1つの物事で一喜一憂せず、淡々としていられるのがこの男の強み。そこは前向きに捉えていいだろう。
8月末になれば、離脱中の長谷部も香川も戻ってくるだろうが、欧州組はシーズン開幕直後。半年近く公式戦から離れた長谷部の状態は未知数だし、香川もピーター・ボス新監督の下でどんな起用をされるのか分からない。だからこそ、国内組が奮起しなければならない。山口はもちろんのこと、代表復帰を目指す清武含めてパフォーマンスをもっともっと上げていく必要がある。
イラク戦直後の17日に行われたJ1第15節・清水エスパルス戦を見ても、後半から清武がトップ下に入った時の山口のプレーは光るものがあった。「キヨ君がトップ下に入ってチーム全体の動きも出たし、攻撃の流れがすごくできたと思う」と本人も話したが、預けどころがあると安心して動けるのだろう。タッチライン幅を大きく使ったサイドチェンジを何度も繰り出し、決定的なチャンスをお膳立てするなど「守備の人」のイメージを覆すような一挙手一投足を披露してくれた。
日本代表でのプレーを振り返っても、昨年10月のイラク戦(埼玉)での決勝弾は清武の左CKが起点だったし、昨年11月のサウジアラビア戦(埼玉)の安定感あるプレーも清武とのタテ関係がうまく効いていたからだ。「代表で2人揃ってスタメンで出た試合はそんなに多くないけど、一緒にやってる時はうまくできてると思う」と山口も大きな手ごたえを口にする。ロンドン五輪代表、ハノーファー、セレッソと長年ともに戦ってきた彼らのコンビネーションはやはり確立されたものがある。活動期間の少ない日本代表でそれを生かさない手はない。
2人を軸に、乾や香川といったセレッソOBたちを組み合わせていけば、より息の合った連携が見られる可能性はある。もちろん大迫や原口元気(ヘルタ)、久保といった重要なピースが今の代表攻撃陣に存在するため、セレッソ勢の競演は簡単には成立しないかもしれない。が、1つのオプションなのは確か。指揮官には今一度、念頭に置いて、使える可能性を探ってもらいたい。
いずれにせよ、国内組の山口・清武らは、最終予選ラスト2連戦、そして来年のロシアワールドカップに向けて、国際試合の感覚を失ってはならない。7月17日の「StubHubワールドマッチ2017」・セビージャ戦は世界トップを体感できる好機になるはずだ。
セビージャはホルヘ・サンパオリ監督がアルゼンチン代表監督に就任したため、エドゥアルド・ベリッソ新監督が新シーズンの指揮を執ることになった。同指揮官はサンパオリ監督同様、マルセロ・ビエルサ監督(現リール)の下で働いたことがある戦術家。サミル・ナスリやスティーブ・エンゾンジらの移籍話もあって、昨季とは全く異なる陣容が来日しそうだが、興味深い試合になるのは間違いない。この貴重な戦いの場を最大限生かすべきだろう。
文=元川悦子
