2019-08-31-arsenal(C)Getty Images

アーセナルに今夏何が起きていたのか?小さくて大きな、未来への第一歩

■危機

アーセナルは昨年11月から今年7月にかけて、ここ数年で最大の危機にひんしていた。

最後の望みをかけて挑んだヨーロッパリーグ(EL)決勝。バクーの地でチェルシー相手に1-4と完敗。最大の目標であったチャンピオンズリーグ(CL)出場権を逃した。ピッチ外では、アーセン・ヴェンゲル退任後の舵取りを担うはずだったイヴァン・ガジディス前CEOが突如クラブを去り、強化部門のリーダーになることが期待されていたスヴェン・ミスリンタートも、望んだ役職を手に出来ずに去っていった。

さらに、KSE(クロエンケ・スポーツ&エンタープライゼス)が全株式を取得したことにより、株主総会は行われず。サポーターはクラブへ意見を進言する場所を奪われた。EL決勝への進出で、サポーターもある程度は沈静化していたが、敗戦を受けてついに不満が爆発。オーナーの野心に疑問を持つ有名アーセナルサポーターたちが協力し、KSEに対する抗議文を叩きつけた。この「#WeCareDoYou」運動は世界中に拡散され、声明に賛同する署名は10万人を超えている。かつてないほどの反発だ。

ピッチ上で求められた成果を達成できず、運営体制も定まらない。そして、サポーターの容赦のない怒りの声――。2011年にKSEが経営権を取得して以降、アーセナルは最大の混乱に陥っていた。

そんな中、KSE代表スタン・クロエンケの息子であり、アーセナル首脳陣の1人ジョシュ・クロエンケによる「#WeCareDoYou」へのアンサーレターが7月に公式HP上で公開された。同時にインタビューもアップされ、そこではKSEの野心が力強いメッセージとともに語られていた。その中で、インタビューアーから移籍市場について問われたジョシュは、ファンに対し「ワクワクして」と語った。激しい反発を受ける中で、何かを示唆したのだ。

それは決して妄言ではなかった。ジョシュの言葉通り、アーセナルは“ビッグサマー”を送ることになる。

■変化

Josh Kroenke

まず最初に、クラブ史上初めてテクニカル・ディレクターを招へい。OBであり、コリンチャンスやブラジル代表でディレクター職を歴任したエドゥ氏を迎え、強化部門のリーダーを決定した。

迎えた移籍市場。史上最高額8000万ユーロ(約94億円)を投じ、リールからコートジボワール代表FWニコラ・ペペを連れてきた。アーセナルが数多くのビッグクラブとの争奪戦を制したのは、ここ数年では聞いたことが無い。8月8日までに、アーセナルは6人の新戦力を獲得。夏にこれだけ多くの選手を獲得したのは、“パニック・バイ”が話題となった2011-12シーズン以来のことだ。エメリが要請したすべてのポジションで補強に成功。予算が4500万ポンド(約61億円)と限られた中で、複数年での分割払いなど様々な方法を駆使して見事な成果を残した。

この移籍戦略の転機となったのは、バクーでのEL決勝だった。ジョシュは『BBC』のインタビューでこう振り返る。

「バクーでの後半45分を見て、考えを改めた。自分たちのポジションを理解したんだ。今夏の戦略の再考が必要となった。チャンピオンズリーグ(CL)がないため確信は持てなかったが、バクーから戻った後、ラウール(サンジェイ、フットボール部長)やウナイ(エメリ、指揮官)とのミーティング中に、『アグレッシブになり、できることを探していこう』と伝えたよ」

そして最後に、「現在、そして未来へ向けて歩みを進めていけるんだ。そうだね、楽しみにしているよ。エミレーツは、私と家族にとって特別な場所なんだ。できれば長い間、ここに留まることを楽しみにしている」と、クラブへの愛情を口にした。

ジョシュはプレミアリーグ第3節まですべて、スタンドで観戦する姿が目撃されている。これまでにはなかったことだ。カップ戦の決勝ですら来場しないこともあった父スタンとは、明らかに違う。小さなことではあるが、経営陣がスタンドに姿を見せることは、サポーターへポジティブな印象を与える。

インタビューを行った『BBC』デイビッド・オーンスタイン氏は、「アーセナルは(オーナーとファンの)分断が問題であると気づいている。ファンとの関係を再構築し、リヴァプールのような雰囲気を作れれば、それは巨大な力になると感じているようだ」と見解を述べた。そして、プレミアリーグで最も高額なチケットの値下げに踏み切る可能性が高いとも伝えている。

KSEの買収以降、経営陣とサポーターは激しく対立していた。そして、これまではサポーターの声を無視していたKSEだが、ついに、その重い腰を上げて歩み寄りを見せ始めている。信頼を得るには時間が掛かるだろう。だが、サポーターを味方につけることができれば、データでは測れない力を手にすることができる。目標とするリヴァプールは、まさにその好例だ。

■改革

Bukayo Saka Matteo Guendouzi Joe Willock ArsenalGetty/Goal

ヴェンゲル退任後、1年以上かけてクラブの運営体制を決定し、オーナー陣もわかりやすい形で野心を見せ始めたアーセナル。エドゥ、サンジェイ、エメリに、ジョシュという新たなリーダーが加わり、長期的な視野に基づいたプランを示し始めた。ジョシュは「忍耐強く、数年にわたって展開する計画を進めていく」と語っている。

象徴的な例は、スカッドの若返りだ。今夏獲得した6選手の内、5人が24歳以下。そして、昨季までU-23チームを率いていたフレディ・リュングベリをトップチームに引き上げ、プレシーズンでは多くの下部組織選手を帯同させた。シーズン開幕後も、ジョー・ウィロックやマッテオ・グエンドウジといった有望な若手選手を積極的に起用。数年後に視野を向けたチーム作りを進めている。

あまりにも遅かった、というのが正直なところだろう。急スピードで物事が進んでいく現代フットボール界では、この遅れを取り戻すには数年、いや数十年掛かるかもしれない。理想とするリヴァプールや、近年の大型補強で急成長したマンチェスター・シティとは大きすぎる差がある。OBレイ・パーラーの言葉を借りれば、「100マイル(約160km)離れている」だろう。

これらのことは、他のビッグクラブでは当たり前のことなのかもしれない。だが、今までそれができていなかった。ここ十年でなかったポジティブな「改革」が、エミレーツに起こっていることは確かだ。

この「改革」が成功するかはわからない。それでも、小さな一歩だが、踏み出したことに大きな意味がある。

■未来

2018-12-26-torreira(C)Getty Images

ようやく未来への歩みを進め始めたアーセナル。そしてもちろん、最も重要なことはピッチ上での結果である。この「改革」はすべて、フットボール面での成功をもたらすために始まったことだ。

9月1日、プレミアリーグ第4節。アーセナルは本拠地エミレーツ・スタジアムに、宿敵トッテナムを迎える。

プレミアリーグ発足以降、ホームでの過去27回の対戦中、敗れたのはたった2回。昨季はエメリにとって初のダービーで、4-2の逆転勝利。情熱的なスペイン人指揮官に煽られ、エミレーツはかつて無いほどの熱気に包まれた。4ゴール目を挙げたルーカス・トレイラがユニフォームを脱ぎ捨て、そこに駆け寄る選手たちの表情が物語っている。これまでヴェンゲル体制で閉塞感が漂っていたアーセナルにとって、新たな時代の始まりを予感させる一戦だった。

迎える今季初の“ノース・ロンドン・ダービー”。グエンドゥジやウィロックら将来を担う選手たちが出場機会を得ることになるだろう。街を二分する伝統のダービーが、クラブ、選手、ファンにとって何を意味するのか、肌で経験することになる。ようやく未来へ一歩進んだガナーズにとって、大きなチャレンジであり、大きなチャンス。この状況で訪れた宿敵とのダービー次第では、これ以上ないほどクラブ団結へ機運は高まるはずだ。

エメリと選手たちは、サポーターへ輝かしい未来を示すことができるのだろうか。

文=河又シュート(Goal編集部)

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