■予想を超えるタディッチの活躍
エリック・テン・ハーグはセルビア人アタッカー、ドゥシャン・タディッチの実力を彼がチームに加わる前から称賛しており、契約が決まった際にはとても興奮した様子であった。
「すべてがうまく噛み合えば、ドゥシャン・タディッチはトッププレーヤーとしてチームの大きな力となってくれるはずだ」
昨年の6月、1140万ユーロ(約14億3000万円)でタディッチはオランダへと戻ってきた。指揮官はこのレフティーがアヤックスで絶対的な存在になると予見していたようだ。
「ピッチ上でもピッチの外であっても、彼は他の選手にとって手本となってくれるようなプレーヤーだ。チームには、将来ヨーロッパのビッグクラブでプレーできるような若い逸材が多く在籍している。アヤックスがタイトルを獲るためには、そうした選手たちとタディッチのような選手が完璧にフィットすることが必要なんだ」
「タディッチは素晴らしい個の能力を持っている。彼はいつでも正しいポジショニングを理解しているし、ラストパスも供給できて、とにかくフットボールが上手いんだ。彼のプレーは見ていて楽しいよ。キックの質も半端ではないことは、彼が多くのゴールを挙げていることからも分かるだろう」
実際、彼がアヤックスでスター選手になることを疑う者はほとんどいなかった。タディッチは過去にフローニンゲンとトゥウェンテで合計4年間プレーしており、エールディヴィジのベストプレーヤーの1人として活躍した経験があったからだ。

タディッチはオランダでの最初の1年で19アシストを記録し、絶好機を何度もチームメイトに提供した。そのクリエイティブなプレーはそのままに、得点感覚まで身につけたのはトゥウェンテ時代のこと。そこで彼は85試合に出場し、32ゴール31アシストを記録している。
その後、ステップアップを図り、サウサンプトン時代には浮き沈みもあったが、そこで過ごした4シーズンのすべてにおいて、彼はチームの中で最も得点に関与していたクリエイティブなプレーヤーの1人であったことは間違いない。
オランダへの帰還が決まり、彼に対する期待値は高かった。しかし、このウインガーの加入によってアヤックスが国内2冠を狙えるだけでなく、チャンピオンズリーグでヨーロッパの強豪をねじ伏せるチームになることは、テン・ハーグでさえ予想していなかったことだろう。
■次戦では「ホンモノ」と対戦
Gettyアヤックスのチャンピオンズリーグ準々決勝進出の立役者であるタディッチは、今大会のスターとして名前が挙がっている。ゴールに直接関与したプレーの数でタディッチの「9」を上回るのは、リオネル・メッシの「11」だけであり、チャンスメイクの数でタディッチの「22」を上回るのは、トニ・クロース、メンフィス・デパイ、ラヒーム・スターリングの3人しかいない。
グループステージでドローに終わったバイエルン戦でも決定的な仕事をした彼だが、AEKアテネに2-0で勝利した試合でも2ゴールを挙げており、アヤックスの13年ぶりの決勝ラウンド進出に大きく貢献している。
アヤックス史上で最高のシーズンの1つともいえる今季の躍進の裏には、洗練されたプレーを見せ、完全に円熟期を迎えたタディッチといった“黒幕”がいるのだ。
チャンピオンズリーグ3連覇中であったレアル・マドリーとはラウンド16で対戦し、ファーストレグのホームゲームでは1-2と敗れたものの、アヤックスはサンティアゴ・ベルナベウでのリベンジに燃えていた。
開始わずか7分、タディッチはナチョの進行方向をさえぎってルーズボールを拾い、ペナルティエリアまで運んでハキム・ツィエクのフィニッシュをお膳立てすることで、トータルスコアを同点へと持ち込む。さらにその10分後、この30歳のプレーヤーは観衆を沸かせるプレーを披露する。タディッチは華麗なマルセイユ・ルーレットでカゼミーロをかわしてエリア付近のスペースに侵入すると、ダヴィド・ネレスにラストパスを供給。これによりスコアを2-0としたのだった。
そして信じられないことに、タディッチは後半には完璧なシュートをゴール左隅に沈め、レアル・マドリーの足取りをさらに重くさせたのだ。
その試合を4-1でモノにしたアヤックスは準々決勝へと駒を進め、大車輪の活躍をみせたタディッチには、フランス紙『レキップ』から10/10の評価が与えられた。
「このチームにはクリスティアーノ・ロナウドがいるんだ。それはドゥシャン・タディッチのことさ!」
そう語るのは、アヤックスでキャプテンを務めるマタイス・デ・リフトだ。次のラウンドではユヴェントスとの対戦が控えており、「ホンモノ」と対峙しなければならない彼らには、タディッチの好調なパフォーマンスを維持することが求められている。
実はこの2人、つい最近にEURO2020の予選でポルトガル代表とセルビア代表として対戦している。そこでタディッチはオープニングゴールを沈めているが、ロナウドは負傷退場。しかし、ロナウドは急ピッチでコンディションを上げ、何とかこの一戦に間に合うようだ。2人の戦いは再びピッチ上で実現することとなる。
■“アヤックスのC・ロナウド”
Gettyヨーロッパ天王山を前に、ロナウドはケガからの回復に努めてきた一方、タディッチはアヤックスで素晴らしいパフォーマンスを維持している。
フォルトゥナ・シッタート戦では卓越したプレーを見せ、PECズヴォレ戦ではチームの中心として活躍した。PSVとの対戦ではゴールを奪い、ヴィレムIIを4-1で下した際にはチームの今季99、100ゴール目をお膳立てしている。
今シーズンのすべての大会での成績を合計すると、46試合で30ゴール17アシストを記録するタディッチは、テン・ハーグが期待したようなリーダーとしての役割を全うしている。これはアヤックスにとってはもちろん、タディッチ自身にとっても非常に喜ばしいことだ。
ハキム・ツィエク、ダヴィド・ネレス、そしてときにはクラース・ヤン・フンテラールとともにチームを牽引しているタディッチは、ドニー・ファン・デ・ベークやフレンキー・デ・ヨングといったミッドフィルダーの後ろだてを受けながら、速く、予測のできない巧みな攻撃を組み立てている。ニコラス・タグリアフィコやノゼア・マズラウィといったサイドバック陣の攻撃参加も魅力的なアヤックスは、今やどこからでも相手の脅威となる攻撃を仕掛けることができるチームなのだ。
選手が自由にプレーをしており、多くのパスの選択肢があるこの環境はタディッチにとって理想的だ。タディッチ自身も昨年9月には「このチームにいられて本当に嬉しいよ」と認めるとおりだ。
「素晴らしい選手とともにプレーができるし、クラブも美しい哲学を持っている。それは一番大事なことなんだ。もし自分の中でピンとくるものが見つけられれば、魅力的なプレーができるし、周りの声は気にならなくなるからね」
フットボールに限らず、オランダの首都は彼の肌に合っているようだ。ロンドンに住んでいた頃よりも、オランダに住んでいる彼のほうが幸せそうだ。
「家族はイギリスよりもアムステルダムのほうが好きみたいだ。美しい都市だよね。この土地の嫌なところなんて思いつかないよ」
「オランダはイギリスよりもずっと住みやすいよ。イギリスといって思い浮かべるのはロンドンしかないけど、ここでは違う。どの場所もすごくキレイだし、道路や街並み、バーも素晴らしいんだ。特別な場所だよ」
チームで4番目に年長者である彼が、キャリアのピークともいえるシーズンを過ごすにあたってこれほど完璧な環境は他にないだろう。彼はそこで、バルセロナ行きが決まっているデ・ヨングや、19歳の神童デ・リフトといったスターの卵たちの最高のロールモデルとして活躍しているのだ。
PROSHOTS「僕は本当に、めったにチームメイトの仕事への信念に感銘を受けることなんてないんだけど、ドゥシャンはそういった意味では、僕がキャリアを通して見てきた中で最も高いレベルを持った選手だったよ」
かつてのチームメイトであるティム・スパルフはそのように語っている。
「フローニンゲンでは、更衣室の横に小さなジムがあるんだけど、ドゥシャンが練習の前後に毎回そこで個別トレーニングをしていたことを今でも思い出すよ。これはクラブから課されていたことではなくて、彼は自らのモチベーションで動いていたんだ」
厳しいジムでのトレーニング、卓越した得点技術、素晴らしいチャンスメイク、そのすべてが彼の周囲にも好影響を与えている。どこかで聞いたことがある話ではないだろうか? そう、彼はまぎれもなくアヤックスのロナウドなのだ。
文=ピーター・マクヴィティ/Peter McVitie
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「※」は提携サイト『 Sporting News』の記事です





