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■郷愁
ディエゴ・シメオネがやって来てからすべてが変わったアトレティコ・デ・マドリーは、まだシメオネがいるのに郷愁を誘う存在となってしまった。
自分たちは「優勝候補ではない」「パルティード・ア・パルティード(1試合ずつ、試合から試合へ)で進むのみ」と言い続けながら、10年ぶりのリーガ優勝を果たした2013-14シーズン。そのシーズンと同様にチャンピオンズリーグ決勝まで勝ち進み、またもレアル・マドリーを相手取って、今度はPK戦で敗れた2015-16シーズン。PKを外してしまったフアンフランが、PK戦が行われたゴールとは反対側に陣取っていたサポーターのもとを訪れて謝罪をし、あたたかな拍手を送られていたこと、それに気づいたチームメートの面々が次々に彼のことを抱きしめていった様子は、今でも鮮明に覚えている。
シメオネはあの試合後の会見で、チャンピオンズ優勝を逃してしまったことに放心状態となり、今後もチームを率い続けられるエネルギーがあるかは分からないと語った。しかし、彼はチームの指揮を執り続けてきた。あのチャンピオンズからもうすぐ5年、彼が選手として在籍した古巣に監督として戻ってきてから、もう8年が経つ――。
長すぎたのかもしれない。熱く、熱く、時間の流れを忘れて駆け抜けたあの頃との違いから、長さを感じるのかもしれない。いずれにしても、シメオネ政権は今なお続きながらも、振り返れば郷愁を誘う過去も生み出してしまった。
■病魔
Getty Images今季のアトレティコは、クラブ史上最大の黄金期でもあったその過去と比べて、大きく沈んでいる。病魔が巣食っているように思える。病巣を考えれば、おそらくそれは1つではないだろう。
病巣の1つは、シメオネがプレースタイルを本格的に変化させようと試みていること。「アトレティコは歴史的にカウンターのチームだ」と強調し続けてきたシメオネだが、アントワーヌ・グリーズマンがウィングではなく、トップ下でよりその力を発揮したことを出発点にして、ここ数シーズンはポゼッションフットボールに傾き始めていた。グリーズマンは昨夏にバルセロナへと移籍したが、その代わりにジョアン・フェリックスをクラブ史上最高額の移籍金で獲得し、加えてフィリペ、フアンフランと守備のうまさが際立っていたベテランサイドバックの代わりにキーラン・トリッピアーとロディを迎え入れて、ポゼッションフットボールへの傾倒は加速した。
「私たちは昨季からポジショナルな攻撃、つまりは一度止まってボールを足元に置いてから仕掛ける攻撃を志向している。今いる選手たちの特徴に鑑みれば、それこそが進むべき道だ」
しかしながら、結果は思うように出なかった。両サイドバックがウィングのような位置まで上がり、J・フェリックスやコケが相手のDFとMFライン間でボールを待ち構えるまではいいが、そこからの連動性やアイデアに乏しく、確度のあるシュートチャンスの創出に苦慮。ライン間の選手に言及すれば、コケは基本的な技術こそ高いがライン間で振り向くプレーがそこまでうまくはなく、J・フェリックスに関してはそれこそ稀代の天才のようなプレーを見せるものの、フィジカルがまだでき上がっておらず、踏ん張りがきかないようなタックルを食らうとどうしようもなかった。かてて加えて、今のところおぼつかなくもあるこのフットボールは、本拠地ワンダ・メトロポリターノでの情熱の伝導率が高くはない。アトレティコのスタジアムはスペイン屈指の熱狂を誇ってきたが、今季は窮屈そうにプレーする選手たちを見ながら、決まって応援のトーンを落としていった。
■終わり
Gettyさらなる病巣は、選手層の薄さとケガ人の多さ。アトレティコトップチームのフィールドプレーヤーの人数は21人で、シメオネのお眼鏡にかなわず戦力とみなされていない若手FWシャポニッチを抜かせば20人と少数鋭勢。さらに負傷者が続出することで少数はさらに少数となり、招集メンバーにBチームの選手が複数名を連ねることはもちろん、交代カードで攻撃の駒がいないこともざらにあった。何より、自らレギュラーになれると考えてはいなかったロディのバックアッパーがいないのは致命的だ。クラブとしては昨夏獲得したマリオ・エルモーソが、リュカ・エルナンデスのようにセンターバックほか左サイドバックでも起用できると見込んでいたようだが、実際は左サイドバックを任せられるほどではなかった。シメオネは攻撃面での貢献が著しいロディの守備については信用を置いておらず、試合途中に彼を下げてサウールに左サイドバックを任せるという行為を何度も繰り返す。だが、この行為は左サイドの守備を厚くするというより、サウールの中盤の守備力、前線での攻撃力を失う側面が強く、厳しいやり繰りを如実に表している。
選手層の薄さとケガ人の多さは、何も今季に始まったことではなかった。アトレティコの予算はシメオネ到着直後は1億2000万ユーロで、現在は5億ユーロ以上に増えたが、質の高い選手をそのまま高額の移籍金を支払って獲得し、選手層を厚くせずリーガが敷くサラリーキャップ制(移籍金の減価償却費+選手年俸)の限度額に達するということを毎回やっている。筋肉系の負傷を主とするケガ人の続出については昨季も起こったことであり、ワールドカップもなくプレシーズンを満足に過ごせた今季については言い訳もできない。鉄の肺をつくり出すと、かつては称賛の的だったフィジカルコーチ、プロフェ・オルテゴの指導に何かしらの問題があると考えた方が良いだろう。同じ過ちを繰り返せば、それは過ちとはならない。もはや、クラブとしてのコンセプトである。
今季のアトレティコはプレースタイルの変更がうまくいかず、負傷者が続出したことで薄い選手層がさらに薄くなり、そのためにプレースタイル云々をほっぽり投げてどうプレーすべきか混乱をきたし、息も絶え絶えに試合をこなしていき、結果つまずいた。リーガでは定位置としてきた3位以内になかなか入ることができず、コパ・デル・レイでは2部Bのクルトゥラル・レオネサ相手に敗退を喫し、サンティアゴ・ベルナベウでのダービーで7年ぶりに敗れた。
まるで“終わり”が繰り返されているようでもある。10年以上マドリーとのダービーに勝てていなかったアトレティコは、2011年12月に2部Bのアルバセテ相手にコパ敗退に追いやられたことでついに地に落ち、その直後にシメオネが監督として帰還して、そこからすべてが始まった。
しかしながら、今やシメオネ(彼だけの責任ではないとしても)が、その遠い過去となった“終わり”を思い起こさせているのだ。
■このユニフォームのために死ねるか?
(C)Getty Imagesアトレティコが今季のチャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦で当たるのは、リヴァプール。アトレティコ対リヴァプール……少し前の過去ならば分からないが、現在この字面を見ると、アトレティコには救いようがないように思える。普通にぶつかれば、負けるだろう。しかし、あえて残っているものを挙げるとすれば、それは人、つまりは観客なのかもしれない。おそらく、シメオネが残してきたものの中で、最も大切な宝だ。
シメオネ・アトレティコの標語に「信じることを決してやめるな」というものがあるが、彼らのサポーターはいまだ信じることをやめていない。チーム紹介アナウンスでシメオネの名がスピーカーから聞こえる。観客はこれまで以上の大歓声だ。試合が始まれば「オレ! オレ! オレ! チョロ・シメオネ!」のチャントが起こり、すべてのスタンドの観客が手を振りかざして、一緒に叫ぶ。そして、たとえ不調の中でも勝ったときには「この選手たちは誇り」とのチャントも歌われ、選手たちがねぎらわれる番となる。
たとえアトレティコのプレーぶりが情けなくて、試合中に声援がトーンダウンしても、次の試合でまた同じことが繰り返される。たとえコパで敗退しようとも、ダービーで負けようとも、メディアが「今日のワンダは、また失敗を犯したシメオネの裁判になる」と記そうとも――。
そこにあるのは常識を逸した信仰心、現代フットボールの奇跡なのだと思う。
ポゼッションでも堅守速攻でも(おそらくリヴァプール戦は、前試合バレンシア戦でも試していた4-4-2の堅守速攻を使うだろう)、観客の放つ熱量を冷ますことなく、逆に増やすことができるならば、おそらくアトレティコはまだ強い。もちろん、そうなる鍵を握るのは、選手たちのパフォーマンスに他ならない。そういえば2013-14シーズンのチャンピオンズ準決勝、前本拠地ビセンテ・カルデロンでのバルセロナ戦について、僕はこんなことを描写していた。
「フアンフランが何とか前を向いてクリアすることで、コケが厳しい態勢からスルーパスを繰り出すことで、ジエゴがタッチラインから出ようとするボールを追いかけることで、アトレティコのサポーターはマフラーを振り回し、歓喜を爆発させたのだ。気概と信念を持って一枚岩となったチームが5万3000人の観衆の後押しを受け、直に触れることができそうな判然たる勢いを手にする。カンテラーノであるコケが『こんなカルデロンは見たことがない』と話したように、それは欧州有数の“歌うスタジアム”に慣れ親しんだ若者が目にしていなかった境地であり、古参ファンにとっての情景であった」
あの頃のアトレティコを何よりも強くしていたのは、シメオネに「このユニフォームのために死ねるか?」と問われて「死ねる」と迷うことなく返答できた選手たち、そんな選手たちが実際に見せる必死さに見事に応えた観客だ。観客はあの成功体験を覚えていて、そのために今も熱狂を生み出すことを、チームに尽くすことを求めている。
郷愁を誘うアトレティコが、その誘ってくる過去の姿に立ち返ることができるなら、シメオネが今一度「お前たちはこのユニフォームのために死ねるか?」のような言葉で選手たちを奮起させられるなら、観客の熱量を冷ますことなく増やしていけるのならば、たとえ結果がどんなものになろうと、何か残るものがあるだろう。
今季の大一番となるリヴァプール戦、ワンダ・メトロポリターノはアンフィールドにも劣らぬ今季最高の熱狂でもってリヴァプール、そしてアトレティコを迎えるはずだ。
文=江間慎一郎(マドリード在住ジャーナリスト)
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「※」は提携サイト『 Sporting News 』の提供記事です




