2016年1月、ジネディーヌ・ジダンがラファエル・ベニテスの後任としてレアル・マドリーの監督に就任したときは、まるで悪い夢を見ているかのようだった。世間からはフロレンティーノ・ペレス会長のやっつけ仕事であると言われ、メディアは“絆創膏”などと書き立てて、ジダンの就任は一時的な救済措置であるかのような報道をしていたのだ。
しかしあれから20カ月が経ち、フタを開けてみればレアルは2度のチャンピオンズリーグ優勝を含む7度の優勝を果たし、敗れた試合もたった7試合に留まるという驚異的な成果を残した。ジダンがレアルの監督になったことは、おそらく理に適った決定であったのだろう。2006年にレアル・マドリーの選手としてのキャリアを終えたジダンは、その後アドバイザーとしてクラブに復帰。それからカルロ・アンチェロッティ監督の下でアシスタントコーチを務め、ユースの監督を経て、昨年ついにトップチームの指揮官に就任した。ジダンはレアルの近くで、常にチームを見てきた人物なのだ。
Getty Imagesかつてジダンとともにフランス代表でプレーをし、レアルでもプレーした経験のあるクリスティアン・カランブーは『Goal』の取材にこう答える。
「監督になる前、彼はレアル・マドリーで多くの役職を務めていたんだ。アドバイザー、アシスタントコーチ、またフロント入りも視野に入れて学校に通い、スポーツマネジメントの勉強もしていたね。その過程を経て彼はカンテラ(レアルの下部組織)の監督になったんだ。こうした努力によって培ってきたもの、そして選手としての経験を生かしたからこそ今の彼があるんだよ」
カランブーの言葉に対する異論は一切ない。昨シーズンのチャンピオンズリーグでは、バイエルン・ミュンヘンとアトレティコ、そして決勝では有利と言われたユベントスをカーディフの地で倒し、タイトル防衛を果たした。それ想像されているよりもはるかに難しく衝撃的なことだ。
「彼が成功を収めていることに驚いている人もいるかもね。でも、カンテラの監督やスポーツマネジメントの勉強などを経験したことが実を結んだんだ。地道な努力だけど、それによって彼に成功の道筋が開かれたんだと思う」
カランブーはそう付け加えることを忘れない。
Getty Images昨シーズン、チャンピオンズリーグ決勝前の記者会見で、ジダンは「マドリーの監督としてのすべての瞬間をエンジョイし、日々良くなるように努めている」と話していた。
選手時代、ジダンは多くのスター選手で占められたギャラクティコ(銀河系軍団)の一員であると同時に、スター選手(ジダネス)と若手選手(パヴォネス)の融合を図る“ジダネスとパヴォネス”に巻き込まれた当事者でもあった。そのパヴォネスの象徴であり、かつてレアルでプレーしていたフランシスコ・パボンは当時を振り返ってこう語る。
「当時僕たちはこの中の誰かが指導者になるかなんて考えてもいなかったよ。でも、ジダンは当時のベストプレーヤーで、今では最も成功を収めた監督だ。彼は常に勝者であり、選手として、そして今は監督としてもナンバーワンだね」
2001年から2006年までジダンとともにプレーした現在37歳のパボンは、ジダンがイタリアのユヴェントスでプレーしていたことが、レアルの監督としての助けになったと信じている。
「戦術や守備など、イタリアでプレーしたことはスペインでプレーしたこと以上に学びが多かったんじゃないかな。それに彼は一選手として、どんな戦術にも対応できていたし、ピッチのどこでもライバルたちを打ち破ることができていたね。戦術的にピッチのどこにポジションを取るべきかを理解していること、そして今のマドリーでもそうであるようにディフェンダーを打ち破ることのできる選手を抱えているというこの2つは、監督にとって非常に重要な要素なんだ」
ジダンは戦術面でそこまで多くの称賛を集めているわけではないが、彼がエゴイズムの渦巻くロッカールーム内をうまくコントロールしていることが監督としての成功につながっていると考えている人は多い。パボンはその難しさとジダンだからこそ可能な献身さを評価する。
「タイトルを獲得することは難しい。戦術、ロッカールーム内のマネジメント、選手のメンタル管理、そして才能に溢れた高いレベルでプレーする選手たち、そうしたすべての要素が重要なんだよ。中でもロッカールーム内のマネジメントはとても難しいんだ。しかし、ジダンはロッカールーム内をうまくコントロールすることでタイトルを獲得することができたよね。でも彼は昔から変わっていないよ。当時からロッカールームでは、常にオープンでみんなとコミュニケーションをとっていたんだ。外部やメディアに対しては内向的なんだけどね」
Getty Imagesかつてフランス代表として活躍したジュリアン・エスキュデはジダンと同じくASカンヌでプロ選手としてのキャリアをスタートさせ、そこからセビージャに移籍して、ジダンとピッチ上で戦うようになった。
「彼には大きな期待がかけられていたし、彼自身成功には事前の準備が重要であることが分かっていたと思う。その意味で当時の環境は最高だった。考えることに多くの時間を費やしたし、それは彼がマドリーのロッカールームをうまくマネジメントすることに大いに役立ったと思うね。監督として選手とうまくやっていくためには知的でなければならないし、独自のメソッドも必要なんだよ。特にロッカールームで選手たちを管理するためには。でも彼は選手時代に最高のロッカールームがどんなものなのかを経験していたんだ。戦術的なことの伝え方、そして選手たちとの接し方をね。それは選手だけではなく、会長やコーチたちにも大きな影響を与えるよ」
エスキュデは『Goal』のインタビューにそのように話してくれた。
獲得可能であった9つのタイトルのうち7つを獲得した45歳のジダンは、“名選手名監督にあらず”という言われを覆す結果を残している。パボンはかつての盟友をこう称賛する。
「名選手名監督にあらず…。ヨハン・クライフという例外を除いてはそうだったかもね。偉大な選手が、監督としても成功を収めるのは難しいというのは本当だと思うよ。でもジダンはその理論をわずか数カ月で覆してみせたんだ。戦術面でチームをいかにコントロールしているか、そして選手がフィジカル的な準備を整えているかを見れば彼が本当によくやっているというのは明らかだね。レアル・マドリーのファンたちは彼の仕事ぶりを見てとてもハッピーなんじゃないかな。もちろんレアルには最高峰の選手が揃っているという事実もあるけど、他のクラブだって最高の選手たちを揃えている。重要なのは、ベストを引き出すことなんだ。それに関して言えばジダンは一流だよ。それこそが優秀な監督の証と言えるんだ」
ジダンが監督に就任する前、チームが最強になることの秘訣が“ロッカールーム”にあったなんて、誰が想像できただろうか。しかし、彼は選手時代からこのことを知っていたのかもしれない。ピッチでは見られない戦術が、これからもレアルのサッカーを楽しくしそうだ。
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