日本サッカー界にとって、2019年夏はエポックメイキングとして語り継がれるだろう。FC東京から名門レアル・マドリーの一員となり、期限付き移籍したマジョルカで日本時間2日にラ・リーガ1部デビューを果たしたMF久保建英を皮切りに、2桁に上る日本人選手が欧州へ旅立ったからだ。
しかも、18歳になった直後の6月14日にマドリーへ電撃移籍した久保を含めて、今夏にJリーグから欧州へ新天地を求めた13人のうち、1997年1月1日以降に生まれた東京五輪世代のホープが半分以上の7人を占める。久保以外の6人を移籍決定順に記すと下記のようになる(※は期限付き移籍)。
・6月18日 DF菅原由勢 名古屋グランパス→AZ※
・7月12日 MF安部裕葵 鹿島アントラーズ→バルセロナ
・7月16日 FW中村敬斗 ガンバ大阪→トゥエンテ※
・7月21日 FW前田大然 松本山雅FC→マリティモ※
・8月9日 FW食野亮太郎 ガンバ大阪→マンチェスター・シティ(その後ハーツへ期限付き移籍)
・8月20日 MF三好康児 川崎フロンターレ→アントワープ※
■日本市場評価のきっかけは2年前のU-20W杯
©Getty Images東京五輪世代の動向を振り返れば、今年1月の移籍市場でもMF板倉滉が川崎フロンターレからマンチェスター・シティへ完全移籍し、労働許可証の関係でさらにフローニンゲンへ期限付き移籍。MF中山雄太も中学3年時から心技体を磨いてきた柏レイソルから、ズヴォレへ完全移籍している。
短い期間のうちにこれだけの数の選手が海外移籍したケースは初めてとなる。日本サッカー界に生まれた新たな潮流が、一気に活況を呈した舞台裏を探っていくと、2017年5月下旬から韓国で開催された、FIFA・U-20ワールドカップに行き着く。
20歳以下のホープたちの国際見本市を長く担ってきた舞台に、日本は5大会、実に10年もの空白期間を乗り越えて出場。グループリーグを突破し、残念ながらベスト16で姿を消したものの、準優勝したU-20ベネズエラ代表と延長戦にもつれ込む熱戦を演じた。
そして、グループリーグで3ゴールをあげるなど、大会を通じて存在感を放ったMF堂安律が、大会閉幕後にガンバ大阪からフローニンゲンへ期限付き移籍。最終ラインを担った冨安健洋も、年が明けた2018年1月にアビスパ福岡からベルギー1部のシント=トロイデンへ完全移籍した。
現役時代は日本代表の点取り屋として活躍したJリーグの原博実副理事長は、日本がU-20W杯の舞台に復帰したことで生まれた状況を「そういった世界大会で活躍した選手に海外から声がかかる、という流れはあると思う」と分析したことがある。
振り返れば板倉や中山、そして久保も2年前のU-20W杯に出場していた。今年5月にポーランドで開催されたU-20W杯に出場したメンバーからも菅原と中村が旅立ち、新天地でのデビュー戦でそろってゴールを決める活躍を演じている。
原副理事長によれば、2年前のU-20W杯、その後の堂安や冨安の活躍によって、世界から「日本の育成からいい選手が出てきている」と及第点の評価を与えられるようになったという。
■先行投資、いわゆる青田買いの対象に
©Getty Images必然的に育成年代の世界大会だけでなく、18人もの東京五輪世代が招集された6月のコパ・アメリカ2019にもスカウトの目が向けられる。安部、前田、そしてウルグアイ代表とのグループリーグ第2戦で2ゴールを決めた三好の移籍も、2年前から本格化した流れのなかでとらえるべきだろう。
加えて、代表に選出されていなくても有望な選手がいるのでは、という視線も当然ながらJリーグへ向けられる。2017年8月にFC東京からポルティモネンセへ期限付き移籍し、一気に大ブレークを果たしたMF中島翔哉は象徴的な存在だったと言っていいだろう。
1シーズン目が終わりに差しかかった2018年5月に完全移籍へ切り替えられた中島は、今年1月にはカタールのアル・ドゥハイルの一員になる。3500万ユーロ、当時のレートで日本円にして約44億円と報じられた巨額な移籍金を含めて、世界中のサッカー関係者を驚かせた。
表現は悪くなるが、ポルティモネンセは中島への先行投資に成功して大きな利益を得たことになる。中島は今夏には強豪ポルトへ移籍し、欧州の舞台に戻ってきたが、ポルトが8000万ユーロ(約93億円)もの契約解除金を設定したことも大きな注目を集めている。
欧州のサッカー界が中心となって、先行投資的な意味合いを含めて、世界中から若手選手を獲得する潮流が生まれて久しい。そして、中島のアル・ドゥハイル移籍を契機として、Jリーガーたちもいわゆる“青田買い”の対象のなかに本格的に加えられたと言っていいだろう。
欧州でもセカンドグループに位置づけられるオランダやベルギー、そしてポルトガルなどのクラブをステップにして、5大リーグと呼ばれるイングランド、スペイン、ドイツ、イタリア、フランスへ若手選手が羽ばたいていくケースは多い。前出の原副理事長もこう話していたことがある。
「オランダやベルギー、ポルトガルなどは地理的にも、同じ欧州のさまざまなクラブから見てもらえる機会が増える。選手たちもそうした事情がわかっているから、欧州へ行くだけでなく、いかに試合に出て成長していけるかどうかが大事になってくる」
■PSV移籍の堂安がモデルケースに
©Getty Images1月の移籍市場では、J1でのプレー経験がない21歳のMF安西海斗が柏レイソルからブラガ、18歳のGK小久保玲央ブライアンが柏レイソルU-18からベンフィカと、ともにポルトガルのクラブへ移籍している。
安西や小久保の移籍は、今夏の菅原や中村、そして食野のそれにも通じると言っていい。今シーズンのJ1での出場記録を見れば19歳の菅原が0試合、19歳の中村が7試合、そして8月30日にスコットランドのハーツへ期限付き移籍した21歳の食野が12試合(J3では8試合)となっている。
そのなかでも食野はJ1初ゴールを含めた3得点を決めるなど、ガンバでのブレークが期待されていた。労働許可証が発行されない関係で、マンチェスター・シティの一員としてプレーできる可能性がほとんどないことを承知の上で、それでもクラブの慰留を振り切って欧州へ渡る道を選んだ。
移籍先のクラブにとっては、育てた後に高く売れると見込んでいる大勢の選手の一人となるかもしれない。移籍した選手にとっては結果を残せるか否かで、成功と失敗の明確なラインが引かれるシビアな世界へ挑むことになるが、そのなかでも前者の仲間入りを果たした代表格が堂安となる。
1年目に演じた大活躍もあって、フローニンゲンは買い取りオプションを行使。実力で完全移籍を勝ち取った堂安は、さらに8月30日にはオランダの名門・PSVへ5年契約で移籍。ガンバを旅立つときに残した言葉を、大きく上回る形で具現化させたことになる。
「自分はまだガンバにタイトルをもたらすことができてなくて、大半の方はまだまだ僕のことを認めてはいないと思います。ただ1年後、アイツはオランダへ行ってよかったと思われるくらい、しっかりと活躍できるように頑張ってきたいと思います」
■行かずに悩むよりも行って悩め
©Getty Images日本の選手育成に対する評価が上昇したこと、先行投資とも言える“青田買い”の対象となったこと、そして海外移籍や東京五輪に対する考え方が日本の若手たちのなかでも変わってきたことが絡み合い、今夏のエポックメイキングが生まれた。
海外移籍がより身近な選択肢となってきた状況下で、堂安や今夏にセリエAのボローニャへ移った冨安に代表されるように、行かずに悩むよりも行って悩め、というマインドが若手選手たちの胸中に芽生えている。加えて、開幕まで1年を切った東京五輪に対する位置づけも変わってきている。
要は東京五輪の先にワールドカップがあるのではなく、2022年のカタール大会出場を目指す過程で母国開催の祭典がある――6月のコパ・アメリカ2019で、左サイドバックとして全3試合に先発フル出場した20歳の杉岡大暉(湘南ベルマーレ)は、帰国後にこんな言葉を残している。
「自分は東京五輪世代ですけど、それだけじゃなくて、常にフル代表を目指したいという思いが強くなりました。フル代表のレベルでプレーするからこそ、もっともっと上へ行けると感じたので」
来夏の東京五輪だけを考えれば、今夏の欧州移籍は大きなリスクを伴う。しかし、ワールドカップの舞台でプレーする自分自身の姿から逆算していけば、成長するスピードを加速させていくためにも、目の前に訪れたチャンスを生かしたいと考えるのが自然の流れと言えるだろう。
文=藤江直人
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「※」は提携サイト『 Sporting News』の提供記事です

