なぜ川島永嗣は3番手から正GKになれたのか?監督の心をつかめたワケ【海外日本人総括】

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海外で戦うサムライたちは2016−17シーズンをどのように過ごしたのか? 歓喜の瞬間を迎えた者、充実の日々を送った者、葛藤してもがき苦しんだ者……。彼らが過ごした1年を、改めて振り返る。

今季の目標:リーグ戦で先発GKとして出場チャンスをつかむこと

結果:4月のPSGで初出場、35節から最終節まで第1GKとしてゴールを守った

採点:90点(第3GKとしての入団ということで出場試合数についてはもとより定かでなかった状況の中、シーズン終盤には正GKに昇格、さらに初年度にしてコーチ陣から圧倒的な信頼を得た点を評価)

文=小川由紀子(現地在住ライター)

■3番手としてフランスへ

川島永嗣は昨年8月1日にFCメスと2年間の契約をかわした。だが、ポジションが確保された契約ではなかった。当時、チームにはすでにナンバー1、2としてプレーしていたGKがいた。フロントが求めていたのは正GKではなく、若い守護神に良い影響を与えられる経験があり、なおかつ、リーグ・アンのレベルで即戦力になれる人材だった。

川島はまさに探していたとおりの選手だった。そう語るのが、GKコーチのクリストフ・マリシェだ。彼は最初の練習で見た川島のフィット具合に驚いたという。

「実戦のない間は日本のクラブでトレーニングを続けていたそうだ。相当しっかりしたレベルの選手だという印象を受けたよ」

しかし、いくら「しっかりしたレベルの選手」だったとしても、ピッチに立てる保証はなかった。正GKのトマ・ディディヨンはクラブの生え抜きで、U-16からU-21のカテゴリーでフランス代表に選ばれている有望株だったのだから。いずれビッグクラブに羽ばたかせたいというクラブの思惑もあり、正GKの座が揺らぐ気配はなかった。

だが、クラブの思い通りにことは運ばなかった。実際、早い時期からメスの失点はかさんでいくことになる。

■ベンチ入りと待望の初先発

試合出場のチャンスがない中で黙々とトレーニングに励んでいた川島にとって、最初のステップアップは10月となった。第2GKのオーベルハウザーが先発したリーグ杯ラウンド16で初めてベンチ入りすると、4日後のリーグ戦でも第2GKとしてメンバー表に名を連ねた。

さらなる転機が訪れたのは2017年に入ってからだった。1月のフランス杯ラウンド32、対ランス戦で初出場のチャンスが巡ってきた。0−2で敗れる残念な結果に終わったが、長い間ピッチから遠ざかっていた川島にとって、大きく前進する出来事となった。

実のところ、フィリップ・ヒンシュベルゲ監督はかなり前から川島の起用を考えていたという。試合へ出場する機会がない間も懸命に練習に取り組む姿を見て、報われる場が必要だと考えたのだ。GKコーチのマリシュはこう語る。

「勝ち残っていれば、その先もカップ戦でプレーさせていただろう。この試合でエイジが起用されたのは、彼がこのクラブに入団して以来、取り組んできたことが評価されたからだ」

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■契機は正GKの自信喪失

その後は再び第2GKとして時折ベンチ入りしながら18、9歳の若手に混ざってリザーブチームの試合に出場するという日々が続いた。そんな中、3月の国際マッチデーでは日本代表に招集され、正守護神として起用された。結果は2戦2勝。この大抜擢には本人ですら驚きがあったというが、その試合から間もない4月18日のパリ・サンジェルマン戦で、ついにリーグ・アンで出場する機会が訪れた。

この試合はPSGがリーグ杯決勝戦に出場したため延期になり、平日の夕方という変則的なスケジュールで行われた。そして降格も考えられる位置にいたメスにとって、より重要な試合は4日後に控えたロリアン戦だった。残留争いのライバルとの直接対決にフルメンバーで臨むべく、PSG戦ではローテーションが用いられることになった。川島は試合前日に監督から「明日はお前が出るから」と告げられたという。

試合は2-3で惜敗したものの、川島は念願叶ってリーグ・アンのゴールに立ったのだった。

そして迎えたロリアン戦、メスは1−5という大量失点で惨敗を喫した。チームは失点を重ねることが多くなり、GKディディヨンは自信を失っていた。指揮官はディフェンス陣にテコ入れが必要だと判断し、次に控えるナンシーとの重要なダービーマッチに川島を先発させることを決めたのだった。

■終盤のヤマ場を支えた“エスプリ・ジャポネ”

監督がのちに「あの試合が残留の決め手になった」と明かしたプレッシャーのかかったナンシー戦、メスは2-1で勝利をもぎ取った。すると、次のリール戦でも川島は先発起用され、クリーンシートを記録してみせた。チームはこの勝利で1部残留を決め、川島は以降も最終節までゴールを守り続けた。

日本代表守護神についてヒンシュベルゲ監督は「彼のパフォーマンスには非常に満足している。なにより取り組む姿勢がすばらしい。練習でもだ。彼にとって試合に出られない状況は厳しかったに違いないが、偉大なプロ精神の持ち主であることを改めて示した。彼のような振る舞いができる選手がチームにいるのは我々にとってありがたいこと。これぞ『エスプリ・ジャポネ』(日本的精神)だ」と敬意をこめて話す。

マリシェGKコーチも「我々が彼を必要としているのと同じくらい、彼もこのクラブで充実した思いを抱いていてくれたらうれしいのだが……。彼にはぜひともクラブに残って、我々とともに来季も戦ってもらいたい」と残留を切望している。

さらにマリシェGKコーチは、川島が他の2人のGKに比べて秀でているのが「メンタル力」だと語る。

「エイジは非常に強靭なメンタルを持っている。もちろん、テクニック面も足元のプレー、ライン際での反応など包括的に優れている。しかし、ズバ抜けているのは心理面だ」

川島が競っているのはフランスリーグに適応できるGKになるべく育成された選手……しかも、U-21代表の有望株である。厳しい争いの中で、川島は自分の強みと日頃の姿勢でコーチ陣を納得させ、ポジションを手に入れた。

リール戦の後、19歳のMFイスマイラ・サールは「エイジのような経験のあるGKが後ろでドンと構えていてくれるとみんな安心してプレーできるんだ」と顔をほころばせたが、川島はフランス語でコミュニケーションを取れることで、メスでも兄貴分として慕われている。

第1GKとして迎えられ、試合に出続けることで得られる充実感もあれば、努力を積み重ねて欲しいものを手にいれる充実感もある。川島の今季のメスでの挑戦は、そんな戦いだったように思う。12月の時点では移籍も考えたというが、チャンスを信じて残留を決めたことで、5大リーグでプレーするという積年の目標も実現した。

川島は今季の戦いを、こう振り返る。

「メスに来てからやってきたことは、自分自身がこのチームに貢献するためのもの。リーグ・アンというレベルで自分はできる、という確信を日々つかみながらやってきた。この年でリザーブチームに行くのは気持ちの良いものではないですけど、与えられた環境の中でアピールしていくしかないし、勝ち残っていくためには自分がパフォーマンスで納得させなければいけない。18歳、19歳の選手と一緒にやっていても自分が目指しているものは変わらないので、『ブレずにやっていきたい』という気持ちで取り組んでいました」

今季終盤に川島が正GKとしてプレーしたことで、来季の守護神争いはおそらくよりフラットになる。ディディヨン離脱の可能性もありえるだろう。来季の課題は、より多くの試合に出場すること、そしてメスの善戦に貢献することだ。

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■移籍の可能性は?

0%

ピッチ内外でチームに好影響を与えてくれる川島の残留をクラブ側は切望している。シーズン終盤に先発GKのチャンスをつかみ、充実した思いでリーグ・アン挑戦初年度を終えた川島自身も、来季まで残る契約をまっとうする気持ちであると話している。

文=小川由紀子(現地在住ライター)

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