2017-05-05-southampton-maya-yoshida(C)Getty Images

なぜ吉田麻也はプレミアで輝けたのか?活躍の基盤になったもの【海外日本人総括】

今季の目標:コンスタントに試合に出場する

結果:序盤戦はセンターバック3番手も、中盤戦以降は完全にレギュラーに定着

採点:85点

以下に続く

文=西川結城

■控えながら前向きだった前半戦

イングランド・プレミアリーグでプレーして5シーズン目。吉田麻也にとって、今季は今後のターニングポイントとして記憶されるかもしれない、刺激的な日々となった。

シーズン当初は、長年チームキャプテンを務めるポルトガル代表DFのジョゼ・フォンテと、オランダ代表DFで類まれな身体能力を誇るビルヒル・ファン・ダイクがセンターバックのレギュラー格だった。リーグ戦のピッチには必ずこの2人が先発し、吉田は例年同様にベンチから試合を見つめた。

一方、カップ戦に関してはチームを率いるフランス人指揮官のクロード・ピュエルが柔軟な起用法を見せた。リーグ戦の合間を縫って行われるトーナメント戦で、吉田はフォンテとファン・ダイクのどちらかが空いたポジションで出場する機会が与えられたのだ。

シーズン序盤戦、吉田は前向きな発言をしていた。

「ここ数シーズンは、センターバックで試合に出られる機会も少なく、またプレーしたとしても数えるほどだった。ただ今季はリーグ戦にはなかなか出られなくても、カップ戦でコンスタントに出場できている。コンディション調整も例年以上にしやすいですね」

思えば吉田はサウサンプトン1年目の2012-13シーズン、リーグ戦32試合を含む公式戦34試合に出場していた。しかし、ここからクラブは強化を進めたため、プレミアリーグの中でも指折りのセンターバックたちがライバルとなっていく。

翌13-14シーズンにはクロアチア代表DFのデヤン・ロブレンが加入。吉田はポジションを奪われる形でベンチ生活を余儀なくされた。そのロブレンが1年でリヴァプールに移籍すると、後釜としてベルギー代表DFのトビー・アルデルヴァイレルトが新たにやってきた。フォンテの隣のポジションに彼が収まり、ハイパフォーマンスを披露していく。さらにアルデルヴァイレルトがトッテナムに移籍した15-16シーズンにはファン・ダイクが加入。吉田は昨季、一昨季と公式戦出場数こそ20試合を超えたが、その大半は途中出場となり、我慢と忍耐の日々を過ごした。

■転機と、活躍の裏にあったものとは?

そして迎えた今季、2016年を終えた段階では苦しい立場が続くと思われた。しかし、風向きは突如として変わった。

フォンテが1月の移籍市場でウェスト・ハムへ去り、ファン・ダイクがケガで長期の離脱を強いられた。チームを取り巻く環境が大きく変わり、吉田はセンターバックの筆頭選手として、サウサンプトンの守備陣をまとめる役割を担うことになった。

長らく続いた日陰の生活でも腐ることなく自分を磨き、鍛錬を重ねてきた。フィジカルトレーニングを繰り返し、体重はプレミア加入時より約8kgも増量した。加えて、コンスタントに先発出場していくことで以前に見られたようなイージーミスも減少。分厚くなった肉体と途切れない集中力、以前からの特長である戦術理解力を駆使し、試合を重ねるたびに存在感を増していった。

プレミアリーグにはパワーだけでなく、スピードもトップレベルの選手が集っている。吉田にとっては弱点とされてきた要素だ。しかし、ここにも大きな改善点が見られた。本人がその要因を語る。

「アスレチックトレーナーに定期的に走りの指導をしてもらっていますけど、それを持ち帰って普段のチーム練習でもどれだけ掘り下げられるかを大事にした。それこそベンチにいても、ピッチサイドを走っている時も、ただ体を温めるためだけに動くのではなくて、走り方を意識した練習はできますから」

「具体的な修正点は、腕の振り方ですね。そこはすごく改善できてきたと思います。以前と比べても、最初の動き出しの時の腕の振りが違います。とりあえず、僕は腕の振りが弱かった。足だけで体を動かそうとしていた。結局、上半身を使わずに動くことはすごく難しくて、上と下を連動させないと。足を動かそうとする時に、腕を逆に振ることによって進む方向への力を生み出せる。そういう細かい動きを意識してできるようになりました」

ここ数年、吉田はセンターバック以外にサイドバックを任せられることも多かった。プレミアリーグでプレーをし続けるためには、トップレベルのスピードへ対応しなければならなかった。弱点に向き合い、克服に向けて取り込んだ結果、屈強なFWにパワーで立ち向かうだけでなく、スピーディーなアタッカーにも対応できるようになったのだ。

「上のレベルになればなるほど、一瞬の動きや一歩の差でやられる。そこをどうやって埋めていくかと言えば、最初の読みと反応のスピード。基本的に、日本人のアジリティはヨーロッパの選手よりも平均的に高い。日本では遅いと言われている僕ですら、チーム内では高い方です。つまり、それを磨いていって、かつフィジカルも高めていけば、他の選手との違いを生み出せる。そのことを意識してプレーできたことは大きかったです」

今季はリーグ戦と3つのカップ戦(ヨーロッパリーグ、EFLカップ、FAカップ)を合わせた公式戦出場数が37試合。リーグ通算100試合出場を達成し、EFAカップでは決勝の舞台に立った。惜しくもタイトルを手にすることはできなかったが、日本人選手で初めてキャプテンマークを巻くなど、世界最高峰の舞台で数々の輝きを見せた。

その影に存在した、成長へのたゆまぬ努力――。地道な歩みが、活躍の基盤となっていたことは間違いない。

■移籍の可能性は?

20%

来年夏でサウサンプトンとの契約が切れるため、残り1年となる今夏にクラブ側から契約に関するオファーが来ることが濃厚。シーズン後半戦はセンターバックの1番手としてプレーし、ケガで離脱していたファン・ダイクにも移籍の噂が絶えない。新たなDFを獲得するにしても、現在同ポジション筆頭の選手である吉田が残留、契約延長する可能性は高い。

文=西川結城

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