「全然ダメ」
マインツのFW武藤嘉紀が開口一番そう吐き捨てるように語ったのは、チームの出来がひどく期待を下回っただけという理由には限らない。
10月6日のニュージーランド戦(豊田)で2年ぶりの日本代表スタメン出場を果たし、「幼い頃からの夢」というワールドカップ出場に一歩前進した武藤。この試合で右肋骨を痛めた影響もあり、10日のハイチ戦(横浜)は出場を回避。代表明け初戦だった14日のブンデスリーガ第8節・ハンブルガーSV戦も大事を取って先発から外れた。この試合のマインツはアレクサンドゥル・マキシム、シュテファン・ベル、ダニー・ラッツァが3点を挙げ、3-2と快勝。リーグ3戦無敗で順位も10位まで上昇し、武藤自身もさらなる浮上の手ごたえを感じていたはずだ。
■シャルケ戦でマインツは何もできず…
そんな中、迎えた20日の第9節・シャルケ戦。背番号9は満を持してスタメンに復帰し、約5万5000人の大観衆で膨れ上がった敵地・フェルティンス・アレナのピッチに立った。ギド・ブルグシュタラー、フランコ・ディ・サントら相手の強力攻撃陣を警戒したマインツのサンドロ・シュワルツ監督は、守備重視の3-4-2-1布陣を採用。最前線に陣取る武藤は積極的なプレスを見せつつも、攻めの姿勢を鮮明にした。しかしながら、シャルケの球際や寄せの激しさを前にチーム全体が萎縮し、ミスを繰り返す。
その最たるものが開始13分の1失点目。3バックの一角を占めるレオン・バログンがディ・サントに食いつき、ゴール前をガラ空きにしてしまったのだ。ここに飛び込んだレオン・ゴレツカが確実に決め、シャルケが瞬く間に先制。いきなりビハインドを背負った彼らは苦境に追い込まれた。武藤自身も前半は孤立し、シュートゼロという悔しい結果に終わる。
沈滞したムードを払拭すべく、背番号9は後半開始早々、右からドリブルで切れ込んで思い切ったシュートを放つ。が、これは惜しくも守護神のラルフ・フェアマンの正面に飛んでしまう。ダニエル・ブロジンスキのクロスに合わせた後半24分のヘッドも枠を外した。攻めあぐねるマインツに追い打ちをかけたのが後半29分の2点目。左CKの流れからアッサリとブルグシュタラーにゴールを許し敗色濃厚に。後半36分に武藤が上げたクロスにケナン・コドロが完全フリーで飛び込んだ決定機も逃し、マインツは一矢報いることもできないまま、0-2の苦杯を喫した。
ピッチから引き揚げてきた武藤は、チームのパフォーマンスに苦言を呈した。
「ホントに気持ちが入っているのか、入っていないのか分かんないし…。まず走れてないから。みんなボールを受けるのを怖がっているし、回すのも怖くて全部蹴っちゃうから。前にいるのは俺だけで、相手のDF3枚は絶対残ってるから、つねに3対1。しかも真ん中のデカいセンターバック(ナウド)がずっと俺についてきていて、俺の動きがかなり研究されていた。シャルケは後ろ3枚残しても前が個人で打開できるし、ミスが少ない。ホントに0-2でよく抑えられたと思う。こんなひどいゲームをしてたらホントに残留争いに突入しちゃう。今日に関しては完全に忘れ切った方がいい」
優等生的なイメージの強かったJリーグ時代の武藤からは考えられないほど、ストレートな感情を言葉に乗せた。
■厳しい実情とその先
マルティン・シュミット監督(現ヴォルフスブルク)体制だった昨季後半の彼は、ジョン・コルドバ(ケルン)、ボージャン・クルキッチ(ストーク)らとの競争を強いられ、思うように試合に出られず苦しんだ。が、シュワルツ監督体制に移行した今季は「絶対的エース」としてチームに君臨している。現時点での得点数もトップの3。「このチームではアシスト、ゴールを自分が取らないといけない」と本人も責任感も口にしたが、マインツの成否が背番号9の双肩にかかっているのは紛れもない事実と言っていい。
とはいえ、1トップの武藤にいい形でチャンスボールが入る回数は決して多くない。今のシャルケ戦にしても、彼のボールタッチ数はわずか20回程度。極めて少ないチャンスの中で、後半開始早々の強引なシュートと終盤のコドロへのアシストと2度の決定機を演出したのは、ゴール前の質の高さゆえだろう。「武藤がボールを持たなければ得点の匂いは感じられない」というのが、現在のマインツの実情なのだ。

本人も今季は「シーズン15点」という大目標を掲げ、有言実行を目指している。新シーズンに向け、日本から出国する際にも「(マインツの前任9番である)オカちゃん(岡崎慎司=レスター)が(13-14シーズンに)15点取ってるんですよね。それを越したい気持ちが強い。しっかり出続けて、チャンスをモノにできれば、決して不可能な数字じゃないっていうのは1年目、2年目をやって思ったので、とにかく大きなケガをしないでコンスタントに出続けることが大事。ハリル(ヴァイッド・ハリルホジッチ)監督も『FWである以上、ゴールだけを狙え』『ストライカーとして貪欲になれ』といつも言っている。数字がどれだけ自分の評価につながるかは僕自身、よく分かっていますから」と語気を強めていた。その高いターゲットを見据えると9試合3ゴールというのはやや物足りなく映る。ここからいかにしてゴールラッシュを見せていくか。そこが武藤の最大のテーマになってくる。
シャルケ戦では、後半途中からマキシムがトップ下に入ってリズムが好転する時間帯があった。2失点目の後、コドロが起用され2トップになったことで、マキシムはボランチの位置に下がり、武藤との距離が離れてしまったが、お互いのよさを引き出しあえる彼とは近いところでプレーした方がよさそうだ。2シーズン前も武藤としてはユヌス・マリ(ヴォルフスブルク)と「M&Mコンビ」を組んでゴールを量産したが、やはり息の合ったパートナーの存在は得点数アップのために必要不可欠。その相手がマキシムでなくても一向に構わないが、目下のところ、彼が有力候補者なのは確か。いち早くスムーズな連携を構築してほしいものだ。
「来週はカップ戦(24日のDFBポカールホルシュタイン・キール戦)もあるけど、やっぱり次の(27日のブンデスリーガ・)フランクフルト戦。ホームでやれるわけだから、どんな内容であれ、結果が全て。とにかく勝たなきゃいけない」と武藤は気持ちを切り替え、必死に前を向こうとしていた。
シャルケ戦の屈辱的敗戦翌日も右肋骨と腰の打撲を取る治療を優先。少しでもいい状態で長谷部誠擁するフランクフルト戦を迎えるべく努力を続けている。マインダービーの相手はボルシア・ドルトムント相手に0-2から引き分けに持ち込むなど好調をキープしている。それだけにマインツも真価が問われる。自らが勝ち点3獲得の原動力になり、降格危機から大きく脱するような方向にチームを導けるか。今はまさに武藤にとっての正念場だ。
取材・文=元川悦子




