■主人公
2001年に放映されたイギリスのスポーツコメディ映画『ミーン・マシーン』。元フットボール選手から受刑者への転落人生を歩むヴィニー・ジョーンズ演じる主人公ダニー・ミーンは、邪悪な所長から囚人チームのコーチを命じられ、サディスティックな看守チームと対戦する。ダニーと彼が率いる憎めない囚人チームが看守チームを倒し、面目をつぶされた所長が憤慨する中、勝利を誇示しながら独房へと帰還していく――。典型的なハリウッド映画のストーリーラインだ。
現実社会では到底考えられないようなフィクションストーリー。だが、2020年3月、パラグアイで現実のものとなった。舞台は国営のアグルパシオン・エスペシャリサダ刑務所。主人公は、フットボールの神に愛され、その華やかなプレーと驚異的なスキルで数々のタイトルを獲得したものの、今では弁護士や検察官から不可解な事件の真相を迫られるブラジルのレジェンド、ロナウド・デ・アシス・モレイラ。通称「ロナウジーニョ」だ。
文=ダニエル・エドワーズ/Daniel Edwards
■セレブ囚人とフットボール
ロナウジーニョは3月初旬、偽造パスポートを使用してパラグアイに入国した容疑で兄ロベルトとともに首都アスンシオンのホテルで逮捕された。それ以降、出国のリスクがあるために裁判所は保釈を認めず、監視下に置かれる状況が続いている。
そんな中、予想通りこのブラジル人は獄中生活を楽しんでいるようだ。凶悪なPCCギャングとつながりがあるドラッグディーラー、汚職にかかわったビジネスマンや政治家、そのほかパラグアイ政府からリスクが高いと見なされる囚人仲間に笑顔でサインや写真を撮り、セレブ扱いされる日々を謳歌している。
彼の新たな“同僚”には、マネーロンダリングで収監されたパラグアイのプロクラブ、スポルティボ・ルケーニョの元会長フェルナンド・ゴンザレス・カルジャーロ、その父で元パラグアイサッカー連盟副会長ラモン・ゴンザレス・ダヘル、不当利得や人身売買への関与、その他汚職などの容疑で逮捕されたミゲル・クエヴァス元議員らがいる。
このような状況でも、バルセロナやミランの元アイドルは意気揚々だ。ブラジルの友人のもとを訪れた元パラグアイ代表ネルソン・“ピピーノ”・クエヴァスは、「世界のフットボール史に名を刻んだ天才のためにすべてを捧げたい」と語り、さらに「彼のことを支持する多くのパラグアイ人がいる」とサポートを約束する。
また、面会に訪れたフットバレーのエース、フェルナンド・ルーゴは本人は好待遇を受けて落ち着いた生活を送っていることを耳にしたようだ。そして、なぜ彼が刑務所に収監されているのか釈然としていない。「彼の行動は神のみぞ知る」、『Globo』に送ったメッセージだ。
Getty/Playing Surfaceしかし、ロナウジーニョは刑務所の中にいてさえも、フットボールのピッチで輝きを放ち続けている。
毎週金曜日、アグルパシオン・エスペシャリサダ刑務所はエキサイティングな試合が催される舞台となる。囚人たちがフットサルトーナメントに興じ、優勝賞品は16キロ以上とも報じられる子豚の丸焼き。当然、ロナウジーニョはどのチームからも引っ張りだこだ。フットボール界に身を置いた過去の利点を活かし、ゴンザレス・カルジャーロが熱心に説得。さらに、シューズの貸し出しを申し入れた親切な守衛の助けもあり、ついにロナウジーニョはピッチに舞い戻った。
トーナメント自体には参加しなかったが、エキシビションマッチに出場。世界が圧倒されたそのスキルを刑務所内のピッチでも惜しげもなく披露し、たった1人で5ゴール6アシストを記録。11-2の勝利に導いた。救いようもないほどに落ちぶれた政治家クエヴァスは、ワールドカップ、チャンピオンズリーグ、コパ・リベルタドーレスの王者をマークするというタスクを与えられたが、幸運に恵まれなかったことはスコアが示している。「彼は元気だし、他の囚人とも話をする。よく庭に出ているな」。巡査部長のブラス・ヴェラは『ABC』に対し、優勝チームとともに満面の笑みでポーズを取るセレブ囚人について語った。
Omar Momani■スマイル
だが、刑務所生活を楽しむ一方で、彼の所外での先行きは真っ暗だ。すでに母国ブラジルでは金銭や法的な面で深刻な状況に陥っており、2019年に故郷ポルト・アレグレで建築基準法違反にかかわる一連の罰金を無視したことを受け、ブラジルとスペインのパスポートや57もの所有物を押収されている。
逮捕について彼は、偽造パスポートは自身と兄への贈り物であり、このパスポートの使用は罪なきミスであると主張。さらに、弁護士は「彼はこれが犯罪とは知らなかった。どうしようもなくバカなんだ」とクライアントについて信じられないほど率直な意見を言い放ったが、ロナウジーニョ本人と同じ主張を繰り返している。
一方の検察は、ロナウジーニョをパラグアイに招待し、疑いのかかる書類を提供したとされる協力者のビジネスウーマン、ダリア・ロペスへの責任を追及している。警察からの出頭命令を無視したロペスは現在逃亡中の身であり、さらに同氏の所有物の中からは偽装パスポートに使用されたロナウジーニョの顔写真がプリントされたおよそ6000個ものボールが発見されている。
表面上では、ロペスが長を務めるチャリティ財団からの招待とされるているが、パラグアイ入国や偽造パスポートについての動機は依然としてミステリーのまま。この信じられないような筋書きの主人公は、今もアグルパシオン・エスペシャリサダに収監中だ。
一時はフットボール界の頂点に君臨したフェノメノン。今では殺人やマネーロンダリング、詐欺などの容疑で収監される凶悪犯とパス交換する日々を送っているが、トレードマークであるスマイルをこれからも絶やすことはないだろう。
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