ロシア・ワールドカップの出場権が懸かったオーストラリア戦、サウジアラビア戦に臨む日本代表のメンバーに、“驚き”はなかった。
逆に、最終予選が大詰めを迎え、チーム作りにおいても集大成となる決戦のメンバーがサプライズだらけだったとしたら、そのほうが驚きだ。負傷からの回復状況が不透明な選手を数人抱えていることを考えても、これまでのチーム作りの流れを踏まえても、理に適っているという印象だった。
負傷が明けたばかりの香川真司(ドルトムント)と本田圭佑(パチューカ)、ケガのために8月20日のブンデスリーガ開幕戦を欠場した大迫勇也(ケルン)のコンディションが不安視された。この3人はチームの中核をなす選手。高さがあり、屈強なオーストラリアが相手ということを考えれば、大迫のポストプレーと空中戦の強さは大事な武器であり、最終予選の大一番ということにフォーカスすれば、本田と香川の経験は試合出場の可否にかかわらず、若い選手が増えてきたチームにとって欠かせないものとなる。
だが、フタを開けてみれば、この3人をすべて招集した上で、ハリルジャパンでは過去最多となる27人を選出することで懸念材料をカバーした。ここにヴァイッド・ハリルホジッチ監督が2年以上にわたって取り組んできたチーム作りが大きく反映されている。
27人のうち25人は、これまでの最終予選に参加した選手たち。例外は柴崎岳(ヘタフェ)と杉本健勇(セレッソ大阪)の両選手だが、柴崎は2次予選の途中までチームの一員だった。
杉本の招集は15年5月に千葉で行われた国内組対象の代表候補合宿以来となるが、指揮官はその能力をかねてから高く評価してきた。そして今シーズン、その期待に応える形でリーグ戦14ゴールをマーク。オーストラリアの高さを警戒すれば、同じく好調の金崎夢生ではなく、身長187センチの杉本が選ばれたことにもうなずける。
対戦相手のオーストラリア代表はアンジェ・ポステコグルー監督が率いるようになってから、かつての日本代表のようにポゼッション志向が強まっている。だが、ハリルホジッチ監督が今回の記者会見で「オーストラリアは最終予選で奪った14ゴール中、コーナーキックから5点、PKが3つあったから6割がセットプレーからのゴール」と説明したように、それでもセットプレーに強さを見せているのは間違いない。さらに昨年10月の日本戦でそうだったように、展開次第で終盤になりふり構わずパワープレーも敢行してくる。
そこでポイントになるのが、セットプレーの守備だ。相手の高さを考慮すると、マーク役はもちろん、中央で弾き返すストーン役として攻撃陣にもヘディングの強い選手を起用しておきたい。もし、大迫の起用にメドが立たず、岡崎慎司(レスター)を1トップに配することになったとしても、ウイングにヘディングの強い本田や武藤嘉紀(マインツ)を起用すれば、大迫の高さの穴はカバーできる。
組み合わせが多彩なのは、前線だけではない。もし香川の出場を見合わせることになったとしても、柴崎や小林祐希(ヘーレンフェーン)にトップ下を任せることもできる。また、状況によっては長谷部誠をアンカーに置いた4-3-3で山口蛍(セレッソ大阪)と柴崎、小林、井手口陽介(ガンバ大阪)の誰かをインサイドハーフとして起用し、戦い方を変えてしまう手もある。
センターバックの経験値を不安視する声もあるが、細かな連係が求められる守備陣に初招集組を起用するリスクは大きい。吉田麻也(サウサンプトン)を中心に据えつつ、万が一が起こった場合でも昌子源と植田直通の鹿島アントラーズ勢ならコンビネーション面でメリットは出せる。ここも現状で考えられるベストメンバーを招集したと言っていいだろう。
仮にオーストラリアがパワープレーに打って出てきたとしても、長谷部をフランクフルトのようにディフェンスラインに入れてしのいだり、アウェイのオーストラリア戦で見せたように槙野智章(浦和レッズ)を左サイドバックに投入し、サイドMFを下げる5バック気味のシステムで中央を固めて対抗するオプションも考えられる。
攻撃のジョーカーとしても、テクニカルな乾貴士(エイバル)、スピードの浅野拓磨(シュトゥットガルト)、高さ&パワーの杉本とバラエティ豊かなカードが揃っているというわけだ。
ハリルジャパンはこれまで対戦相手や戦況、自分たちの状態に合わせ、臨機応変に戦うスタイルを磨いてきた。もし大迫、本田、香川の誰かが試合に出られなくても、これまで彼らに頼り切ったチーム作りをしてきたわけではなく、簡単に危機的状況に陥ることは考えにくい。あらゆる事態、あらゆるシチュエーションに対応し得るメンバー構成という点で、理に適っている印象なのだ。
今夏のコンフェデレーションズカップでドイツに善戦し、チリ、カメルーンと引き分けたオーストラリアとの一戦は、チーム作りにおける集大成であり、W杯における真剣勝負への試金石となるだろう。だが、決して恐れる必要はない。これまで積み上げてきたものを自信を持ってピッチで表現するだけだ。まず集中するべきはホームでの大一番。ハリルジャパンがオーストラリア戦に全精力を注ぐ。
文=飯尾篤史
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