HSVの将来を明るく照らす伊藤達哉、ファンが期待する『リトル・ジャイアント』の現在地

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今季、突如として現れてドイツの舞台で出場機会を得ている伊藤達哉。小柄なドリブラーはその持ち前のスピードで、HSVサポーターが願いを託す存在となりつつある。

アウェーのオリンピアシュタディオン。2部チームとの入れ替え戦を強いられる16位に低迷するハンブルガーSV(HSV)は、17分にCKからヘルタ・ベルリンのDFニクラス・シュタルクにヘディングシュートを許して早くも先制を許した。ホームのヘルタ・サポーターが発する大歓声に包まれながら、HSVの選手たちが意気消沈する。遠くハンブルクから駆けつけたサポーターたちのトーンも心なしか迫力を無くしたように感じた。その瞬間、ベンチに座っていた控えメンバーたちが一斉に立ち上がって味方サポーターが陣取るゴールサイド方向へ歩き出す。ウォーミングアップへ向かう一団の中には、一際小柄な選手が居た。

伊藤達哉が、小刻みに歩幅を取りながらステップワークしている。公称は166センチとのことだが、明らかにそれよりも身長が低いと思われる。大柄な味方選手たちに囲まれていると、別の意味でその容姿が際立つ。ユニフォームの下に隠される筋肉も特に隆起しているようには見えず、果たして、あれほどの体躯の選手がブンデスリーガのピッチでまともにプレーできるのか、本気で心配になった。

■救世主は遅れて…

50分、ヘルタはまたしてもCKから、今度はDFカリム・レキクがゴールして2点のリードを奪う。HSVはゴールへの道程を描けず、選手たちの大半は腰に手を当てて疲労を色濃くした。

56分、弱冠17歳の若きホープFWヤン=フィーテ・アルプとともに背番号43がライン際へ立った。その瞬間、生気を失っていたサポーターがにわかに活気づいた。跳ねるようにピッチへ飛び出した伊藤は右サイドのポジションに付き、すぐさま臨戦態勢に入る。

ファーストプレーはワンタッチで味方へパス。2度目のプレー機会も一旦トラップして、すぐさまパスを送った。瞬時にボールが移動していくから、ヘルタの選手も伊藤へのアプローチに戸惑っているようだ。素早いシンプルタッチは大柄な相手をいなす次善策なのだろうか。

73分、伊藤が右足ワンタッチでオーバーラップしてきたデニス・ディークマイアーへスルーパスを通すと、ディークマイアーのクロスをキリアコス・パパドプーロスが頭で折り返したボールをアルプが左足で叩いてポスト直撃のゴールを決めた。クラブ史上最年少得点。交代出場した選手が凄まじい神通力を発揮したことで、試合は一気にHSVペースへと変容した。

そして、ここから伊藤のプレー傾向が劇的に変化する。アルプのゴールが生まれる直前までは大半のプレーをワンタッチ、もしくはツータッチで完結させていたのに、突如ジャックナイフのような鋭いドリブルを繰り出して前へ突進していく。

右足インサイドでボールを触った直後に右足アウトサイドのダブルタッチ。ドイツ代表左サイドバックのマルヴィン・プラッテンハルトが置き去りにされる。

続いて右足インサイド、左足インサイドのタッチ。速い。ボランチのシュタルクが対応するも、足を出す暇さえ与えられない。縦に、縦に切り裂く伊藤のドリブルがヘルタ守備網を翻弄する。

右足アウトサイド、右足アウトサイドの連続タッチで相手選手ふたりを抜き去ってクロス。これはヘルタGKルネ・ヤーステインにキャッチされるも、HSVサポーターから「イトー! イトー!」とコールが起こる。彼のプレーは次第にスタジアム全体へ伝播し、その爆発的なプレーの連続がチームに一層勢いをもたらしていった。

しかし、それでもHSVは追い上げ実らず1−2で敗戦。順位もヴェルダー・ブレーメンに抜かれて2部への自動降格圏である17位に後退し、不甲斐ない結果を受け入れられないサポーターからは愛情の裏返しかの如く、激しい罵声の声が飛んだ。

■ドイツ国内でも注目を集め始める小柄な日本人

それでもHSVにはまだ、望みを託せる存在がある。起死回生のゴールを決めた若武者・アルプを筆頭に、伊藤もまた、劇的に戦況を変えられる選手として内外に認識されつつある。今季U-23チームからトップチームに引き上げられてチャンスを得ると才能が開花。鋭利なステップワークで相手DFを出し抜く様は爽快の一言で、柔よく剛を制する所作は『リトル・ジャイアント』の称号が似合う。Jリーグ・柏レイソルのU-18所属時に参加した2014年4月のアル・アインインターナショナルジュニアチャンピオンシップ、ハンブルク戦でMOMに輝いたことでクラブの目に止まって渡独してから3年。ついにトップシーンに躍り出た彼は、そのポテンシャルを惜しみなく発揮し始めている。

ドイツ国内でも伊藤の存在は認識され始めている。HSVサポーターは戦況を一変させるスーパーサブとして信頼の念を送り、クラブサイドは新たな契約を用意して彼の将来に大きな期待を寄せている。他にも、ブンデスリーガの幾つかのクラブから獲得リサーチのリストの入ったという報道も散見され、その一挙手一投足に注目が集まっている。

それでも、伊藤の冒険はまだ、始まったばかりだ。今は対戦相手も彼の特徴を把握して切れていないから、あのドリブルも威力を増す。研究対象にされてもなお、その力をピッチで表現できたとき、トップレベルで長くプレーし続けて存在を誇示できたとき、そのときになって初めて、『タツヤ・イトー』という名は、欧州の地で勇ましく轟くだろう。

取材・文=島崎英純

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