大きなストライドで、ピッチを跳ねるように駆け抜けたスピードスターが、18年間のプロサッカー選手生活に別れを告げる――。
12月2日に味の素スタジアムで行われる明治安田生命J1リーグ最終節のガンバ大阪戦と、翌3日に駒沢陸上競技場でのJ3最終節セレッソ大阪U-23戦を最後に、FC東京MF石川直宏がユニフォームを脱ぐ。
2015年に負傷した左ひざ前十字靱帯損傷の影響で、ここ2年はピッチから遠ざかってきた。現役引退を意識し始めた昨年の秋から、いつも布団の中では近い将来に訪れるであろう瞬間を想像して眠れぬ日々を送ってきた。「今までサッカーの夢なんて見てこなかった」と言うが、ここ一年はいつも夢の中では負傷してばかり。悪夢にうなされてきた。
「本当にしんどかった。サッカーができないストレスなら、どうにかケガを治して復帰するために自分をコントロールすることはできた。だけど、辞める、辞めないの判断だけはクラブとの契約もあるし、自分がいることでクラブの足かせになってはいけないとも思ってきた。プレーができなくても契約できてしまうって悪く捉えられてもおかしくなかった」
そうした葛藤の日々を乗り越えて迎えた8月2日の引退発表当日、多くの報道陣が集まる中で「必ず、最後にピッチに戻る」と宣言した。それから約4カ月間、この2試合にのために自問自答を続けながら準備を続けてきた。そして地道なリハビリを続け、11月には全体練習にも合流。古傷を丁寧にケアしながら、何とかピッチに立てるコンディションにまでこぎつけた。
運命の日を翌日に控えた12月1日、最後の練習を終えたナオは、今の思いを改めて口にした。
「自分自身では信じていたけど、『必ずピッチに立つ』と言ったことに相当なプレッシャーがあった。でも、それを乗り越えるためにも、あえて言葉にした。この間、ひざの状態はいい時も悪い時もあった。立てない状況も考えたし、そこで何とかつなぎとめることができたのは、『最後に出る』という言葉があったから。必ず戻るという信念でここまで来た。でも、それはピッチに立つまでの話。もうどうなってもいい。明日すべてを出し切るよ」
©Kenichi ARAIナオは笑いながら「骨は誰かが拾ってくれる」と言い、さらに言葉を紡ぐ。
「これまで感情をむき出しにしてやってきた。その感情に身を任せたい」
その試合後、16年間在籍したクラブ、そして一緒に戦い続けてきたファン・サポーターへ思いを届けることになる。
「きっと泣いちゃうだろうけど、その時に思ったことを伝えようと思う。まずはプレーで見せて、そして、言葉に乗せて届けたい。今は明日どんなプレーを見せようか。それを考えるだけで楽しいんだよ」
命を削るように駆け抜けてきたプロサッカー人生。石川直宏がそのすべてをそこに凝縮させる。
文=馬場康平
