世界に通じる若き才能が、ついに日本代表に選出された。果たして彼は、ハリルジャパンにいかなるプラスをもたらすのだろうか。
今シーズン、印象的なシーンがあった。
バスから降りてきた選手が次々にロッカールームへと向かう中、一人だけチームから離れてヤンマースタジアム長居のピッチへ足を踏み入れ、センターサークル付近にしゃがみこんでスタンドを見渡した。時間にして10秒あまりだっただろうか。右手で芝生をなでるように触れ、顔を上げてスタジアムの雰囲気を確かめた杉本健勇は、意を決したように立ち上がると、チームメートが待つロッカールームへ歩いていった。
4月16日に行われた大阪ダービー前の一コマ。ライバルとの大一番を前に集中力を高めていたのだろう。勝利への渇望、そしてストライカーとしての責任感――。それまで開幕から6試合無得点に甘んじていた杉本は、胸に秘めた思いをガンバ大阪相手に爆発させて2ゴールをマークする。左サイドからカットインして相手選手をかわして右足を振り抜いた一撃、そして打点の高いヘディングで合わせたゴールは、まさしく彼が得意とする形だった。
この試合を契機に量産モードに入ると、リーグ戦第23節までに計14ゴールを奪取。現時点で得点ランキング2位につけるストライカーは、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督のお眼鏡にかない、かねてから「行きたい」と話してきた念願の日本代表入りを果たすことになった。
【日本代表 #杉本健勇】
— Goal Japan (@GoalJP_Official) August 24, 2017
日本代表に選出された #セレッソ大阪 杉本健勇。今季リーグ戦23試合を終え現在14ゴールで得点ランク2位に位置する新鋭ストライカーのゴールを見よ😎#daihyo#代表#football@crz_official@varenti41pic.twitter.com/UMPJ1kYe45
187センチの身長と強靭なフィジカル、そしてサイズの大きさに似合つかわない卓越したスピード。素質の高さはユース年代の頃から注目されてきた。各世代で日本代表に選出され続け、2009年にU-17ワールドカップ出場。2012年にはロンドン・オリンピックでベスト4進出を果たした。だが、ハリルホジッチ監督が会見で口にしたように「調子の波が激しい」タイプで、プロ入り後はコンスタントに結果を残せなかったのも事実。また、ピッチ上では持ち前のナチュラルなパワーが裏目に出てしまい、普通にプレーしていても相手が倒れてファウルを取られることも多く、苛立ちを隠せないシーンが目立った時期もあった。
だが、現在はゴール前で抜群の勝負強さを見せるだけでなく、献身的なチェイシングで守備面でも大きく貢献。若さを感じさせた時期は過ぎ去り、試合前後のコメントからも結果に対する強いこだわり、そしてチームを代表するような内容が目立つようになっている。
いったい何が彼を変えたのだろうか。
■転機は?
転機は昨シーズンのJ2リーグにあったと見る。キャプテンの柿谷曜一朗がケガで長期離脱を強いられた夏場から秋にかけて、杉本がプレー面で力強くチームをけん引するようになった。柿谷が負傷した第17節までわずか1得点だったが、主に左サイドで起用されながらも一気に13ゴールを奪ったのだ。
この時期、ポイントゲッターとしての責任感と得点意識が明らかに高まり、決定力と得点感覚が著しく向上しているように感じていた。特に目立ったのは、相手GKの手前でボールをワンバウンドさせ、狙いすましたシュートをゴール下隅に鋭く突き刺す得点パターン。このコントロールショットを武器にシーズン半ばから一気にゴールを重ね、J1昇格の立役者となった。柿谷が離脱した穴を埋める以上の活躍を見せ、エースとしての責任を果たした形だ。
そして迎えた今シーズン、尹晶煥監督に1トップとして起用されると、最前線でハードワークをこなしながら攻守に奮闘。早くもJ2だった昨シーズンの数字に並ぶ14得点を記録している。カテゴリが上がったことを考えても、急激な成長を遂げていることは間違いない。それを何より物語っているのが、得点パターンの多彩化だ。
相手の背後から頭越しに叩きつける打点の高いヘディング、スピードに乗ったドリブル突破からのゴール、そして難しいクロスボールをダイレクトボレーで流し込む技術……。自慢のフィジカルや力強いゴールパフォーマンスから豪快な得点シーンを連想される方は多いかもしれないが、昨年から得意とするコントロールショットを含め、キッチリとゴールネットを揺らすシュートの多さも彼の特徴だ。スケールの大きな万能型ストライカーとして、確実に開花しつつあると言っていいだろう。
もちろん特筆すべきはゴールシーンばかりではない。C大阪で見せている前線からの果敢なアプローチと素早い攻守の切り替えは、かねてからハリルホジッチ監督が日本代表チームに求めてきたもの。ハリルジャパンでは川崎フロンターレ時代の2015年5月に国内組を対象にした日本代表候補合宿を経験したのみだが、球際の強さを含めた現在のプレースタイルであれば、代表チームのサッカーにもいち早く適応できるはず。そして攻守に発揮できるスピード、パワー、高さを持ち合わせ、抜群のシュート精度と強いメンタルも武器とすることを考えれば、短時間でも結果の出せる“ジョーカー”としても期待できそうだ。
■ハリルが期待すること
24日の日本代表メンバー発表時、ハリルホジッチ監督は杉本の招集理由について、こう語っている。
「非常に質が高く、体格もある珍しいタイプ。彼自身も進化してきていると思う。ポジションも変わって、今は真ん中でプレーしており、(1トップとしての起用も)全く問題ない。2年前からずっと追跡していて非常にいいプレーを見せてくれている。少し(調子の)波はあったが、こうして呼べるのはうれしい。高いクオリティとテクニックを持っている選手だと信じている。これからも意欲的にしっかりとトレーニングし続ければ、いい選手になれると思う」
まさに言い得て妙。1992年11月18日生まれの24歳に対して、ハリルホジッチ監督は今後の日本サッカー界を背負って立つストライカーとなる未来を見ているのだろう。今回の代表入りをきっかけに、一気に高みへと上っていく可能性は十分にある。
今シーズンのJリーグでは、すでに抜けた存在になりつつある杉本。覚悟の強さを感じられる表情とアグレッシブなプレースタイルは、試合を見ていて気持ちがいい。ピッチに立つことができれば、オーストラリア相手の肉弾戦でも、サウジアラビアでの消耗戦でも、持ち味を存分に発揮できる場面は必ず見せられるはず。日本代表デビューを控えたセレッソ大阪の“若き狼”が、ロシア行きの切符をかけて戦うハリルジャパンの救世主となるかもしれない。
文=青山知雄
▶サッカーのライブを観るならDAZNで!1ヶ月間無料のトライアルを今すぐ始めよう