乾貴士(エイバル)
前半戦結果: 第17節まで16試合で先発。昨季に並ぶ得点数(3得点)を記録。
チーム内序列: レギュラー
前半戦採点: 70点
後半戦の目標: エースの座を射止め、二桁得点を達成する
文=森田泰史
移籍3年目にして、乾貴士はエイバルで完全に主力選手の一人になったと言っていいだろう。
城彰二(バジャドリー所属/15試合出場)、西澤明訓(エスパニョール/6試合)、大久保嘉人(マジョルカ/39試合)、中村俊輔(エスパニョール/13試合)、家長昭博(マジョルカ/18試合)、ハーフナー・マイク(コルドバ/5試合)、清武弘嗣(セビージャ/4試合)...。全選手が2シーズンと持たず、スペインから去っていった。
リーガエスパニョーラにおける日本人選手の評価は決して高くなかった。だが乾は昨季のリーガ第19節バルセロナ戦で大久保が保持していた日本人選手最多試合出場記録を更新して、現在その記録を71試合まで伸ばしている。
■負傷者続出で変わった役割
昨季は開幕スタメンこそ飾ったが、その試合でのパフォーマンスが悪く、それ以降先発から遠ざかった。スターティングメンバーに定着したのは第9節エスパニョール戦からで、ホセ・ルイス・メンディリバル監督は乾を信頼し切れていなかった。
だが今季、乾は10月の代表戦直後に行われた第8節デポルティボ戦で疲労を考慮されて温存された試合を除き、16試合で先発している。そのうち11試合がフル出場。指揮官にとって必要不可欠な選手となっている。
エイバルは今季負傷者が続出して序盤戦で苦しんだ。GKジョエル・ロドリゲス、DFイバン・ラミス、MFペドロ・レオンら昨季の主力が長期離脱を強いられ、メンディリバル監督も頭を悩ませた。
指揮官は3-5-2、4-4-2、4-2-3-1とシステムを幾度となく変え、最適解を探し続けた。乾はその中で左MF、右MF、トップ下、2トップの一角とさまざまなポジションで試された。しかしながら一度もスタメン落ちしなかったという事実が、彼の高い戦術理解力を裏付けている。
■昨季のエイバルは攻撃が右サイドに傾いていた
昨季までのエイバルは攻撃が右サイドに傾いていた。エースのペドロ・レオンを軸にしていたためだ。ペドロ・レオンは昨季10得点5アシストと期待に見合うパフォーマンスでエイバルの1部残留に大きく貢献した。
前線からのプレッシングをメンディリバル監督の守備での信条とするなら、攻撃での信条はサイドアタックである。現に、エイバルは今季ここまでクロス数(309本/2位)、クロスからのシュート数(49本/4位)、クロスからの得点数(8得点/1位)とリーガでトップクラスの数字を残している。
ただ、前述したように、昨季エイバルの攻撃は右サイドが起点だった。シュート数(85本)、枠内シュート数(38本)、ドリブル成功数(49本)、クロス数(348本)でチーム1位だったのはペドロ・レオンである。
なので必然的に、乾には守備の役割が求められた。実際、乾は徐々に、確実にメンディリバル監督の守備戦術を理解して、チェイシングの先鋒として欠かせない存在になった。昨季、守備面での戦術理解を深めたことが今季の活躍につながっているのは間違いないだろう。
そして迎えた今季、ペドロ・レオンの負傷離脱という偶発的要素が、乾に恩恵をもたらした。リーガ第4節レガネス戦で今季初アシストを記録した乾は、スペイン移籍3年目にして、ようやく攻撃に重きを置けるようになった印象だ。
■新エースになるための2つの条件
乾がエイバルでエースの座を射止めるために、条件は2つだろう。ひとつは、攻撃の中心になること。もうひとつは、二桁得点を挙げることだ。
ひとつ目は、達成を射程圏内に捉えている。今季のエイバルの攻撃サイド比率を見れば、それは明らかだ。その比率は左サイド(40.72%)、中央(20.32%)、右サイド(38.96%)で、アシストが生まれた場所も左サイド(6アシスト)が圧倒的に多い。
ふたつ目は、ハードルが高い。乾がキャリアにおいてシーズン2桁得点を記録したのは、セレッソ大阪に所属していた2009-10シーズンのみ。当時J2に属していたセレッソで、乾は21得点を挙げている。
乾は元々得点力の高い選手ではない。メンディリバル監督も「タカはゴール前でエゴイストになるべき」と積極性を求めてきた。発破をかける指揮官に応じるように、乾は今季リーガ第17節終了時点で3ゴールを記録している。
今季の乾は変貌を遂げつつある。シュート数29本は現在チーム1位の数字だ。ただ、決定率10.3%を向上させるためには、ペナルティーエリア内でのプレーを増やしたいところ。その壁を突破した時、乾はエイバルで記録にも、記憶にも残る選手になれるはずだ。


