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【徹底分析】マンチェスター・Cの“ペップ革命”…攻撃のカギを握る「ポジショニングと移動」

まさに“ペップ革命”だ。

マンチェスター・シティがプレミアリーグ33試合消化時点での結果は28勝3分2敗。積み上げた勝ち点は「87」と史上最高ペースだ。第3節のボーンマス戦から第20節のニューカッスル戦まで、破竹の18連勝を記録し、プレミアリーグ新記録を樹立した。

データを見ても、33試合で繋いだパス本数は脅威の「24193」。2位のアーセナルにおよそ3400本もの差をつけている。シュート数は580本で1位、93ゴールは2位のリヴァプールに15差をつけて堂々の1位だ。

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また、ディフェンス面でも優秀なスタッツを残しており、クリーンシートを15回記録。GKのセーブ数はたった54回とダントツの少なさであり、最多のストークとは76セーブもの差がついている(データはすべてリーグ公式のもの)。

結果だけでなく、データを見てもプレミアリーグを圧倒するマンチェスター・C。ジョゼップ・グアルディオラ監督就任2年目にして、欧州で最も混戦模様だったリーグで「1強体制」を築いてしまった。

では、グアルディオラはマンチェスター・Cに何をもたらしたのだろうか? そして、彼らは何をコンセプトにし、どんなフットボールを目指しているのだろうか?

今回はそんな疑問に応えるべく、『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』でおなじみのらいかーると氏に分析を依頼。第1節からシティを追う戦術分析のスペシャリストに、ボール保持の設計を中心に執筆していただいた。

文=らいかーると/企画・編集・構成=河又シュート(Goal編集部)

●基本フォーメーション(4-3-3)
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■相手の守備の論理に従って行動せよ

完全なマンマーク・ディフェンスが存在しないように、完全なゾーン・ディフェンスも存在しない。前者はマルセロ・ビエルサ時代のアスレティック・ビルバオ、後者はマウリツィオ・サッリのナポリなど、具体例がないわけではない。ただし、それらが完全なものだったか? と問われると、断言するほど完全だったとは言えない。

現代サッカーの守備は、両者のハイブリッドで行われていることが多い。例えば、ボールサイドはマンマークで、ボールサイドでないエリアは人よりもカバーリングを意識している。ボールを保持しているチームで大切なことは、相手の守備の論理を知ることだ。つまり、相手の守備がスペースを管理するゾーン・ディフェンスよりなのか、人を強く意識するマンマーク・ディフェンスよりなのか。ボールを保持していないときの相手の論理の違いが、自分たちの振る舞い方を自動的に決めてくれる。

■配置的な優位性→ゾーン・ディフェンス対策

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●図1:トライアングルアタック

相手の選手配置に対して、どの位置に立てばもっとも効果的に時間とスペースが得られるか。グアルディオラのチームが最初に攻略したいポイントは、デルフとデ・ブライネが配置されているエリアだ。「このエリアでボールを持っている選手をフリーにすること」が相手を攻略する最初の策となり、ビルドアップの目的とも言える。

次の策が、「ボール保持者を頂点とする三角形の選手配置」だ。

【図1】を確認して欲しい。大外でサイドラインを踏む選手(サネとウォーカー)と、相手のライン間に立つ選手(スターリングとシルバ)とボール保持者で構成された三角形は、相手のサイドバックとセンターバックに様々な判断を強いる。サイドラインを捨てるのか否か、ゴール前を離れライン間を捕まえに行くのか否か。

なお、この三角形に対する定跡は、サイドバックが大外、サイドハーフがボール保持者、セントラルハーフがライン間の選手を捕まえる。このときにボールサイドでないセントラルハーフがカバーリングを怠ると、アグエロがボールを受けに下りてくるという構図になっている。また、シティはマークがはまってパスコースがなくなってしまった場合、攻撃のやり直し、つまり、バックパスからのサイドチェンジで相手にスライドを強いることが多い。

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●図2:スクエアアタック

相手を攻略する最後の変化は、三角形からさらに人数が増える。

【図2】のように、攻撃の起点エリアにセンターバックが上がってくるケースもあれば、アグエロやボールサイドでないインサイドハーフが加わって枚数が増えるケースもみられる。構築される選手配置のケースは主に2種類だ。

右サイドのひし形の形は、ポジショニングのルールに忠実と言えるだろう。

・一列前の選手は同じ縦のレーンにいてはいけない(ストーンズを基準にデ・ブライネとウォーカー)。
・二列目の選手は同じ縦のレーンにいる(ストーンズとスターリング)。

なお、相手の制限するプレーエリアに苦労していないときに、ひし形は行われることが多い。

左サイドの四角形の形は、サイドバックとウイングが縦並びになるなど、グアルディオラらしくないと言えばらしくない。しかし、相手の守備のルールが4-4-2で中央をとにかく圧縮し、サイドを捨てているケースではよく見られる形だ。ウイングにボールを届けてから近い距離でサイドバックがサポートを行うことで、サイドに攻撃の起点を作る。サイドに相手を動かすことができれば、中央圧縮の解除に繋がる仕組みになっている。

■ポジションチェンジ→マンマーク・ディフェンス対策

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●図3:タスクチェンジ

大前提として、マンチェスター・Cの個々の能力は高い。よって、オタメンディは狭いコースでもパスラインを見つけられるし、前線の選手は雑なボールでもあっさりとボールをトラップしてしまう。つまり、普通の選手だったら活動できない制限されたエリアでも、彼らにとっては活動できるエリアとなってしまう。

選手の能力を考えると、「スペース管理よりも人を管理したほうが効果的かもわからないね」と、マンチェスター・Cと対戦するチームは人への意識を強くした守備を行うための選手配置(4-5-1や5-3-2、5-4-1など)を組むようになっていく。前線の枚数を減らすということは、ビルドアップ隊(CBやDH)に時間とスペースを与えることになる。しかし、彼らのパスを受ける選手をすべて捕まえていれば、どうにかなるという考えに基づいた変化と言っていいだろう。

そんなマンマークの守備に対して、マンチェスター・Cは配置的な優位性を土台にポジションチェンジを繰り返していく。

【図3】で言えば、三角形がぐるぐるポジションチェンジをしている。ただし、ウィングの選手が攻撃の起点エリアまで下がることはほとんどない。ただ、三角形が再構築されていくなかで、マンマークの守備には歪みがでることが多い。どこまで相手についていくべきか? という決断はなかなか難しいものだ。

パターンとしては、三角形の攻撃のエリアを固定にし、大外とライン間のポジションチェンジが起きるパターン。または、四人目の選手とポジションチェンジ(例えばアグエロ)して、新たな三角形を作るパターンがよく見られる。前述の四角形でも同じようなポジションチェンジが行われる。パターンとして行われるときもあれば、相手に捕まっているときに行うなどなど、アドリブ要素もかなり多い動きだ。ボールが動いているとき、味方がオープンな状態でボールを持っているときなどに頻出する動きだともいえる。

このようなポジションチェンジによって、相手のマンマーク戦術は撹乱されてしまう。だが、マンチェスター・Cの選手は立つ場所が変わることによって撹乱することはない。ポジションごとに役割が決まっているというよりは、「自分のいる場所によって役割が決定」するのだろう。デ・ブライネはどのエリアでも高水準のプレーができるし、デルフはサイドバックとセントラルハーフをいったりきたりしている。つまり、それぞれの選手の役割が入れ替わっても、マンチェスター・シティの選手たちは混乱しない。よって。ポジションチェンジで自らのバランスを保ちながら、相手のバランス、つまり、ポジショナルディフェンスを破壊しているのだ。

■ひとりごと

2018-04-19-pepp(C)Getty Images

前回分析したナポリでは、攻撃のキーが「ポジショニングとワンタッチのボール循環」にあるとするならば、マンチェスター・Cの攻撃のキーは、「ポジショニングと移動」にある。

マンチェスター・Cの気になる移動は、列を下りる動き(アグエロが2列目に下りる、シルバがフェルナンジーニョの横に移動)と横のレーンの移動(ボールサイドでないインサイドハーフのボールサイドへの移動や、フェルナンジーニョの中央から隣のレーンへの移動)、そしてそれらを同時に達成する斜めの移動(デ・ブライネのサイドバックエリアへの移動や、サネやスターリングのゴール前への侵入)などなど、多種多彩だ。

レーンと列を移動することで、相手はマークの受け渡しをするかマークを継続するかを判断しなければいけない。こうした移動によって、相手の守備に「ズレ」を生じさせることをマンチェスター・Cは得意としている。そして、その「ズレ」を見逃さずにフリーマンになった選手がボールを受ける動きを延々と繰り返していくことで、ボール保持が安定する流れになっている。

マンチェスター・Cの試合を見るときは、「ボールの周りの選手の動き・入れ替わり」を見ていると、非常に楽しめるのではないかと思う。マンチェスター・Cはボールプレーヤーの質は言うまでもなくえぐいが、ボールを持っていない選手の動きの質も同じくらいにえぐい。

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