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「PSG=楽しいから“正義”/アーセナル=つまらないから“悪”」――そんなわけがないだろう【現地発分析】

■正義と悪

psgGetty Images

フィジカル的にもフットボール的にも、苦しみが充満していたチャンピオンズリーグ(CL)決勝だった。それでもパリ・サンジェルマン(PSG)が優勝にふさわしかったのは、疑いの余地がないことだ。

PSGは現代的かつ魅力的なプレースタイルの先駆者であり、今みたいな過酷な日程の中でも“楽しいプレー”にこだわって成功をつかむ。フットボールファンはそんな彼らの優勝に喜びを感じるべきだろう。ルイス・エンリケのチームは比肩できないプレーを見せ、たとえ困難に遭っても強靭な精神力を発揮し、最後には勝利を手にする。ブダペストの地で起こったのは、まさにそういうことだった。

PSGはキックオフから間もない内にカイ・ハヴァーツの先制点を許して、アーセナルの“世界最高の守備”に立ち向かわなければいけなかった……そう、それもまた疑いの余地がないことである。アーセナルの守りは本当に、本当に素晴らしく、PSGの攻撃をほぼ完全に無力化していたのだ。しかし、ウスマン・デンベレとフヴィチャ・クヴァラツヘリアのたった一度の連係プレーが彼らの堅守にヒビを入れて、PK戦の末の決着につながっている。

ここで一つハッキリさせておきたいことがある。PSGは称賛されるべきチームで、彼らの優勝は喜ばしいことだった。が、だからといってアーセナルの驚異的な競争力を認めないのは愚かでしかない。PSGのプレーは楽しいから“正義”で、アーセナルのサッカーが表面的につまらないから“悪”という単純な話ではないのだ。

■アーセナルの真価

arsenal2Getty Images

ルイス・エンリケを「ライトサイド」、ミケル・アルテタを「ダークサイド」といったレッテルで捉えようとしている人がいるなら、それは本質を見誤っている。これは自チームのパフォーマンスをいかにして最大化するかという話なのだから。

事実として、アーセナルのプレークオリティーは突き抜けている。だからこそプレミアリーグで優勝し、CL決勝までたどり着いたのだ。アルテタの戦術を教え込む力、実行させる力はもっと称えられるべきだろう。このバスク人監督はチームに隙のない守備ブロックを形成させられるが、それは高いインテリジェンスと、献身的にプレーしてくれと選手たちを説き伏せられることで成り立っている。彼のチームは圧倒的なフィジカルを発揮しつつ、しかしタレントを生かす余地も残している。

実際、アーセナルはフットボールを非常にうまくプレーしている。そしてフットボールの楽しみは、多様性の中にこそあるのだ。

アルテタはピッチ中央で1-4-2-4の布陣を敷いて、PSGをとことん苦しめた。ルイス・エンリケは中央から攻撃できないことを悟ってサイドから切り崩そうと試みるも、両サイドハーフのブカヨ・サカとレアンドロ・トロサールが後方まで戻ってカバーに入るために、そちらからも可能性を見出せなかった。確かに、アーセナルはアルテタが望む以上に後退してしまうときがあり、ボールを奪ってもカウンターに繋げられないことがあった。それでもウィリアン・サリバ&ガブリエウを中心とした堅守が崩れるような気配は、まったくと言っていいほどなかった。

アーセナルにウィークポイントがあったとすれば、クリスティアン・モスケラがプレーする右サイドだった。ルイス・エンリケはそれを見抜き、左サイドバックのヌーノ・メンデスを前方に押し出して、デンベレとクヴァラツヘリアのアタッカー2枚を密集させてモスケラ相手に優位性をつくっている。その形がPSGのPK獲得を導き、同点ゴール、延長戦、PK戦へとつながった……アーセナルにとっては、そのPKを取られたワンプレーだけだったのだ。

PK戦ではガブリエウのシュートミスが勝負を分けることになったが、彼はこの試合を通して凄まじいパフォーマンスを見せていた。それなのに最後の最後に敗戦のきっかけになるとは……フットボールは美しくもあり、ときに、あまりにも残酷だ。

■正義と正義

arsenal psgGetty Images

PSGの優勝によって「正義が勝った」と言う人たちは、ここスペインにもいる。「PSGのフットボールの方が見ていて楽しいから」という理由で。だがアーセナルが悲願の初優勝を果たしていたとして、それだって「正義が勝った」なのだ。二つの正義は成り立つし、決して矛盾はしない。PSGとアーセナルはそれぞれのやり方で、欧州のフットボールシーンを席巻した。彼らはどちらも現代フットボールを象徴する存在だ。

PSGは野心的なプレー哲学を備えている。ボールを保持することを基本として、持っていないときにハイプレスを仕掛けることは彼らにとって絶対的な“戒律”だ。PSGはあらゆる局面で主役となることを望むチームである。極上の選手たちを揃えながらも、ルイス・エンリケは彼らに懸命に汗を流すこと、守備に従事することを促す。

デンベレはPSGの変化の象徴だろう。かつての彼らはリオネル・メッシ、キリアン・エンバペ、ネイマールとスター選手を過剰に揃え、それゆえに成功に届かなかった。しかし現チームの最大スターであるデンベレは、圧倒的な個人能力を持ちながらも、チームを優先することができるのだ(この決勝ではヴィティーニャ、ジョアン・ネヴィスも傑出したパフォーマンスを見せていた)。

一方でアーセナルには、また別のフットボールが宿っている。共通の責任意識、フィジカルを生かした献身的プレーによって、彼らなりの物語を創出している。一部では守備的ともみなされるが、それは正確ではない。攻撃的に振る舞ったこの試合の延長戦こそが良い例だろう。彼らはそれが最善だと、それこそが勝利に近づく方法だと判断すれば、守備的にも攻撃的にも振る舞う。そこに迷いはない。

アーセナルもPSGと同様に、現代フットボールを代表するチームの一つだ。なぜか? 答えは簡単だ。彼らは戦術的に調和が取れており、献身的に守り、連帯意識・団結心がある。それに加えて選手の個性を生かすこともでき、縦への推進力、トランジションからの攻撃が絶対不可欠だと理解している。

繰り返すが、これはどちらが“正義”で、どちらが“悪”かという話ではないのだ。アーセナルが見せた守備はフォア・ザ・チームそのもので、懸命なプレーを見せる各選手の表情は心を打つものに違いなかった。悲願の優勝を逃したあと、彼らの頬を伝った涙は美しく、称えるに値するものだったのだ。

文=ハビエル・シジェス(Javier Silles)/スペイン紙『as』副編集長

翻訳=江間慎一郎

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