浦和レッズは2026/27シーズンの明治安田J1リーグ開幕8試合を4勝4敗の10位で終えた。複数の体調不良者が出た第7節・ファジアーノ岡山戦で連勝が「3」で止まったが、続く第8節・東京ヴェルディ戦では3-1の勝利を収め、再び星を五分に戻した。8試合すべてで異なる先発を組み、4バックと3バックを行き来する曺貴裁監督のチームは、何を変え、何を変えずに戦っているのか。新戦力の融合とともに進む、“ハイブリッド化”の現在地を探る。(取材・文=島崎英純)
©Getty Images「4バックなのか、3バックなのか」。相手を混乱させる曺貴裁レッズ、浦和“ハイブリッド化”の現在地
対戦相手、陣容、状況で変化するシステム
シーズン開幕から3連敗していた浦和は立て直しが急務な中でポジティブな変化を示し、第6節・鹿島アントラーズ戦での勝利で3連勝を果たしていた。連勝中のゲームでは曺貴裁監督の柔軟な戦略と采配が功を奏した面が多々ある。
第5節のアビスパ福岡戦では前半劣勢の流れから中盤の形をアンカー+ダブルインサイドハーフの逆三角形からダブルボランチ+トップ下の配置に変えて主導権を奪い返し、終盤には福岡と同型の3-4-2-1システムへ移行して逆転に成功した。また鹿島戦では試合開始から3-4-2-1システムを用いて4-4-2の鹿島に対してミスマッチ状況を発生させて相手を動揺させている。
そして敗戦した岡山戦では4-1-2-3システムの構えを醸しながらも実情は右ストッパーが前方へ張り出す3バックを用い、岡山の木山隆之監督が「(浦和のシステムが)『4バックなのかな、3バックなのかな』という中で少し合わないところがあった」と述懐するほどに相手を混乱させていた。もし体調不良者が続出しなかったら、さらなる戦術バリエーションを駆使できた可能性もあり、それだけに連勝を止められた岡山戦の結果は残念だった。
曺監督は湘南ベルマーレを率いた時代に3バックを主体に戦い、京都サンガでは4-1-2-3システムを主戦とした。一方、今の浦和では対戦相手によって、自チームの陣容によって、戦況によって柔軟に選手たちの立ち位置を変える形へと変化している。
J.LEAGUE9試合で26人を起用。アクシデントを支えた選手層
曺監督はスカッドの変更を躊躇しない。ここまでのJリーグ8試合で同じスターティングメンバーはなく、カップ戦の天皇杯2回戦・山梨学院大学戦では前戦のJリーグ第3節・FC町田ゼルビア戦から8人のメンバーを入れ替えている。
今季ここまでの公式戦9試合で試合出場していない在籍選手はGK新井栄聡と、現在U-21チームに参加しているDF田中義峯、DFルカ・ディドゥリカ、そして負傷で長期離脱中のMF堀内陽太の計4人だけである。また曺監督は特別指定選手で来季の加入がすでに決まっている明治大学の稲垣篤志もコンスタントに起用しているため、現状のスカッド30人中26人をすでにピッチへ送り出している。
曺監督はJリーグ第8節の東京ヴェルディ戦でも新たな戦略を用いている。今季ガンバ大阪から加入した南野遥海を初めて1トップで起用し、中盤では瀬古樹、植木颯、安居海渡の3人のボランチを共存させたのだ。
一見すると瀬古と植木のダブルボランチの前にトップ下の安居が構える形にも見えたが、試合後のミックスゾーンで選手たちに聞くと、この3人はトリプルボランチ、もしくは瀬古をアンカーに据えて植木と安居のダブルインサイドハーフという形だったという。ただ実際の彼らは試合中にフレキシブルに立ち位置を変えており、東京Vの城福浩監督は「相手のビルドアップに対してプレスがうまくはまらなかった」と述懐し、浦和のシステムに混乱したことを明かしている。
おそらく曺監督の頭の中では明確な戦略が立てられており、その狙いを基に各選手の立ち位置やユニットの組み合わせが定められているのだと思う。ただし選手たちには余計な混乱を招かないように詳細な説明を省いているようだ。
例えば岡山戦における右ストッパーの前傾化は「積極的に攻撃に関わるように」という指示が当該選手に為されていたし、東京V戦では植木が左サイドでの攻撃トライアングル(サイドバック、ウイングとの連係)を担う指示を受けていたという。
J.LEAGUE臨機応変、当意即妙
各選手たちも指揮官の意図を汲むことが出来ており、例えば左ウイングのマテウス・サヴィオがインサイドにポジションを移してプレーしたら植木がサイドライン際に開くなど、機敏な立ち位置変化を施せていた。実際に、そのポジションチェンジアクションから植木が左サイド奥深くまで侵入してクロスを上げ、チーム3点目となる南野のゴールをアシストしている。
臨機応変、当意即妙。浦和を指揮する曺監督の戦術・戦略はまさしくハイブリッド型で、対戦相手は当日、もしくは試合が始まってみないと浦和の出方が判明しないのではないか。
シーズン開幕から3連敗した当時の浦和は3-4-2-1システムを極力変えず、チームコンセプトもハイプレス&ハイラインを徹底させていて、過剰なほどのトップギアで相手に襲いかかっていた。しかし、その掛かり過ぎな傾向を逆手に取られてチャンスと同等のピンチも発生して失点が増加するネガティブな傾向が露呈した。
しかし新体制発足直後の極端なまでの戦術・戦略の遂行はチーム理念を確立させる重要な過程でもあり、避けては通れない道だった。そして3連敗という重い教訓を経た今は現実的かつ実利をも得る志向性へと変化し、基盤となるチームコンセプトの維持に努めながら、あくまでも勝利から逆算した戦術・戦略へと移行しているように見える。
J.LEAGUE味方を蘇らせる「ヒーラー」瀬古樹
スカッドの再編も目覚ましい。その筆頭格がシーズン開幕後に加入したMF瀬古の存在だ。広範囲に及ぶカバーリング能力、確実かつ示唆に富んだボールキープ力で中盤に安定感をもたらした彼は曺監督に戦術の柔軟性を与えた。彼がアンカー、ダブルボランチ、トリプルボランチのいずれの型でも順応できることで植木、安居らのセントラルミッドフィールダーが水を得た魚のように潜在能力を発揮できている。おそらく今後は渡邊凌磨、サミュエル・グスタフソン、笹修大、和田武士、早川隼平といった他のMFも瀬古との共存で元々備え持つ能力をチームに落とし込めるだろう。瀬古は自らだけが生きるのではなく味方をも蘇らせる『ヒーラー』として、今のチームの戦術面、精神面の両面で多大な影響力をもたらしている。
瀬古と同時期に加入したDF山根視来もチーム全体のプレーレベルを引き上げる一翼を担う。コンディション調整の段階を過ぎた彼は東京V戦で満を持して先発して先制点へ繋がる相手パスカットを実行した。東京V戦の序盤は相手のポゼッション率が上回って自陣での辛抱を余儀なくされたが、ここで山根が丁寧確実なグラウンダーでのパスビルドアップを徹底して味方に落ち着きをもたらし、形勢逆転の足掛かりを掴んだ。日本代表歴があり、アメリカMLSでのプレー経験もある山根は湘南に在籍していた時代に曺監督の下でプレーしたチルドレンでもある。戦況に則して、『押すべきか、引くべきか』の匙加減を熟知する彼が今のチームに組み込まれることで、シーズン序盤に垣間見られた拙速さが解消されていく期待感がある。
Jリーグの移籍期間マーケット期間は9月16日に閉じたが、それでも選手補強策は常時模索すべきだ。
J.LEAGUE16得点18失点。攻撃性とリスクの間で
今のチームの問題点を挙げるとすれば、二桁得点を計算できるFWの不在か。今季すでにリーグ戦で4ゴールをマークしている南野は十分なポテンシャルを兼ね備えるが、彼の場合は最前線よりもセカンドトップの方が一層の得点増加が見込めるように感じる。瀬古が中盤の支柱になったように、最前線で身体を張って味方の攻撃を促進させるターゲットマンが存在すれば南野、サヴィオ、小森飛絢、オナイウ阿道らの得点チャンスも増え、金子、渡邊たちのチャンスメイクが実る確率も高まるように思う。
センターバックの人選は悩ましい。8試合16得点でリーグ5位タイの攻撃力は十分に高いが、8試合18失点でリーグ最下位タイの守備力は看過できない。ただ、失点数増加の理由をバックラインだけに求めるのも筋道が異なるように思う。ハイプレス&ハイラインに象徴されるように、あえてリスクを冒す好戦的なチーム指針が得点率と失点率を同時に高めるという、曺監督のチームらしいカラーを織り成している側面もあるからだ。
例えば、現在唯一公式戦全試合フル出場を続けているセンターバックの宮本優太は数々の失点に関与している一方で、チャレンジ精神に溢れたチャージ&タックルで前進のきっかけも生んでいる。相手FWにボールが入ったら100%の確率で突撃する宮本のプレーは成功か失敗かの一発勝負の危険性を孕むが、そのパッションこそがこのチームの生命線でもあるのだ。味方のトライを奨励し、エラーは全体でカバーする。
東京V戦では宮本だけでなく中盤の瀬古も自陣で相手にボール奪取されて失点のピンチを迎えたが、味方が全力で帰陣して事なきを得た。事後にお互い声を掛け合うでもなく平然でプレーし続ける選手たちの所作からは、全ての現象を受け入れる覚悟と犠牲的な意識が垣間見られた。
もちろん失敗は許されず、成功の確率を高めることこそ勝利への近道ではあるものの、根底を成す精神面のコンセプトが揺らいだ時点でチームは瓦解する。個人的には、あくまでも宮本を中軸に、それ以上のパーソナルスキルと同等の精神を兼ね備えた選手の出現が人材入れ替えの合図になると思う。
浦和は国際Aマッチウィークによる中断期間を前にしてリーグ戦成績を4勝4敗の五分に戻した。まさに『勝つか、負けるか』の分かりやすい数字が示されている中で、このインターバルを経たチームの、さらなるポジティブな変化を心待ちにしている。
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