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「ケガをすることは、強くなれるチャンス」と変換して取り組んだ。中山雄太イングランドでの2年を語る

 このシーズンオフ、イングランド2部(EFLチャンピオンシップ)のハダースフィールドから退団した中山雄太。クラブは23-24シーズン23位に終わり、3部降格となった。所属した2シーズンの一番の印象を「ケガですね」と本人が振り返るように、ここからというときに負傷。イングランドでの時間は悔しさとの戦いだった。しかし、だからこそ中山は見えたこと、伸ばせたことがあるという。シーズンオフ、話を聞いた。【取材協力=アシックス】

■「起きたこと」をどうとらえるのか。

柏レイソルから2019年にオランダのズヴォレに移籍、22年夏にハダースフィールドへ。開幕時から着実に出場を重ねたが、11月にアキレス腱断裂の大けがを負う。カタール・ワールドカップメンバー発表直後のことだった。迎えた新シーズン、23年の秋口から出場機会を得ると、年明けて日本代表にも復帰、アジアカップのメンバーに招集。しかし3月、今度は内側側副じん帯を痛め、シーズン中の復帰ができず退団が決定した。

以下に続く
20240704-nakayama-yuta-huddersfieldGetty Images

——5月4日に最終節が行われ、ハダースフィールドは残留できませんでした。

 残留できなかったことはすごく悔しいです。自分はケガをしてしまって、チームの結果を覆すような力を発揮できなかったことも悔しいです。今シーズン、昨シーズンのどちらもケガをしてしまった。2年の在籍中、チームの一員として活躍できなかったことが心残りです。

——負傷離脱中はどういったことを考えておられましたか?

 負傷自体は「起きたこと」だったので仕方がないと思っていましたが、起きたからこそ、もう次起きないようにするためにと 1年目は思っていました。その思いからじゃあどうやって復帰するかとなったときに、ケガを「治す」という意識よりも、「さらに強くなる、意識を上に持っていく」という気持ちで過ごしていました。

 今シーズンで言えば、そのコンセプトでうまく来ていたのですが、不運な形で受傷してしまいました。もちろん運は運ではあるのですが、ただ、運もコントロールできるものと考えれば、まだまだ伸びしろがあると思います。そこは起きた経験から生かせるものは今後に生かしていきたいと考えています。

——その考えに至るにあたり、誰かに相談されましたか。

 いや、ないですね。ここに至るまでもケガは何回かありましたし。皆さんから見たらなんて言うんでしょう「大変な現象」に見えますが、今になって言えるのは、ケガをすること=強くなれるチャンスという変換になるんです。

 もちろんケガ自体は残念なことです。でも、起きたことに対し、プレーできないからこそ何ができるか、逆にプレーしている時ではないからこそできることは増えてくると思っています。誰かに相談したというよりも、過去の経験からそういう思考がうまく積み上がってきたのだと思います。

——昨年の6月にGOALがお話をお伺いしたときには、チャンピオンシップはインテンシティーがかなり高く、アジャストに苦労したと話されていました。負傷離脱期間は長かったですけれど、チャンピオンシップを経験したからこそ成長したといえる部分はありますか。

 ケガの間には、体のスケール、パワー、繊細さ(の向上)というところに着手していました。日本にいた時よりも確実に強く柔軟になっていると思います。チャンピオンシップのインテンシティーから生まれる、だからこそ生まれたケガではあるのですが、着手できたのだと思っています。

 (オランダとも)単純なスピード感、パワーの違いは感じていました。イングランドは他のリーグに比べてインテンシティーが高いですし、その部分は(どこに行っても)アドバンテージになるとイメージしています。ケガはしましたが、1年目より2年目はすごく順応してきたと感じていました。

——チャンピオンシップで対戦した相手で衝撃を受けた選手はいますか。

 いや、いないです。どちらかといえば自分のイメージする部分で収まっていたところもあるので。自分の中でイメージがあるからこそ、プロセスを組み立てられるんです。その枠には収まっていたという印象ですね。 もちろんうまい選手はたくさんいたし、自分もまだまだ追い越さなきゃいけないと感じる選手もいましたが、「衝撃か」と問われるとそこまでではないですね。

——では、指導については? 日本、オランダとの違いといったところで。

 イングランドといえばイングランド式だし、オランダで言えばオランダ式ですよね。 国によってスタイルは違いますから。もちろんチームごとにスタイルはありますが、指導の部分ではイギリスのほうが1対1のデュエル、そこで負けてはいけないという基盤となる部分はすごく強く言われていましたし、そこを評価される、見られているなとも感じました。ファンの反応も違いますからね。決定的ではないシーンでも、デュエルに勝てば歓声が上がりました。そこはすごく違いがあるし、イングランドだったなと思います。

——チャンピオンシップ2シーズンで39試合出場2得点。中山選手の退団を知らせるインスタグラムを見ていたら「ここまでハードワークをする選手は見たことがない」といったコメントがありました。

 嬉しいですね。特にサイドバックは数字が出ないと評価がされないですから。ポジション柄、そういう(点に絡むような)シーンが出ないと難しいという思いもあるので。ただ、その数字が出ていないところでも評価してもらえる、見てもらっていたのはすごく嬉しいと率直に思います。

■ケガの記憶が薄れるほどの新たな経験を

20240704-nakayama-yuta-asicsYuki Nagao

——ハダースフィールドはどういった街でしたか。

 決して大きいとは言えないんですが、自分も茨城県出身で、大都市ではない場所で育って、オランダでもどちらかいうと地元に似たような雰囲気の町で過ごしてきました。(ハダースフィールドは)すごく穏やかで過ごしやすい町でした。住民の方々も温かくて、サッカーの大好きな人たちが多かった。(町で会うと)写真を撮ったり握手をしたり。すごく温かみを感じるところでした。

——イングランドの生活で印象に残ったことを教えてください。

 国民の優しさですね。イギリスの人は、人を助けることに躊躇がないんです。自分の人間性を高める部分でも影響を受けた姿勢でした。生活の中で大きく感じた部分です。

——この2シーズンで一番印象に残ったことは?

 やはり、誰がどう見てもケガでしょう。ケガのタイミングもタイミングだっただけに、一番の印象として残っています。今はすごく強烈な記憶ではありますが、ただそこは自分の中でも、今後サッカーをしていく上で、生きていく上で、薄れていくぐらいの濃い時間を過ごせていけたらと思っています。

——そのためにも日本代表という場は大切だと思います。代表への思いを教えてください。

 特別な場所です。誰もがサッカーをすれば目指す場所です。(代表復帰のためには)まずはケガをしない、そしてしっかりと活躍することが大事。次の新チームでしっかりと結果を出し続ける。その結果 、2026年の(北中米)ワールドカップに出場する。そこからさらにステップアップしたいと考えています。

——ファンからの声は届いていますか?

(日本から)遠くても届いていますし、力強いパワーになっています。 ここ2年間で言えば、サッカーをしている姿をお届けできなかったところもあるので、その思いや声援に応えられるようにしたい。新シーズンではこの2年間で蓄えたものを発揮していきたいと思います。(カタール)ワールドカップは逃しましたが、次のワールドカップに向けて、その思いを積み重ねてプレーとして表していきたいです。

——では最後に、中山選手にとってスパイクとは?

スパイク。もう体の一部ですね。スパイクに問題があると自分自身に問題が出ると考えれば、スパイクが大丈夫であれば問題ないと言えます。アシックスに変えてからだいぶ長いので、その中で足の問題は出てきていません。サッカーをする上で、そういう「何も問題がない状態」はすごく大切です。自分のサッカー人生でのうえでも力強くサポートしていただいていますし、本当に感謝しています。

聞き手:吉村美千代/撮影:長尾優輝(GOAL編集部)

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