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Zidane Real MadridGoal Ar / Social

「もう書くことが見つからない。レアル・マドリーの奇跡は“永遠”だから」現地記者が目の当たりにした無限の逆転勝利

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■6年前と違う驚嘆

「落ち着くこと、何よりも落ち着くことなんだ。私たちは落ち着いていればいい。相手も攻撃を仕掛けてくるし、チャンスを手にするはず。しかし、そんなことはどうだっていい。大切なのは私たちのプレーを続けることであり、私たちの道を歩み続けることなんだ」

「何が起ころうと最後まで戦おう。なぜなら私たちは間違いなく、1度か2度の決定機を生み出すことができるのだから。自分たちのすべきことをするんだ。分かったかい? じゃあ行こうか!」

以下に続く

2017-18シーズンのチャンピオンズリーグ(CL)決勝レアル・マドリー対リヴァプールのハーフタイム、当時のマドリー指揮官ジネディーヌ・ジダンは選手たちに向けてそう語り、ドレッシングルームからピッチに送り出している。

0-0のままスタートした後半、マドリーは51分にカリム・ベンゼマが先制点を決めるも55分にサディオ・マネの同点弾を許した。だが63分と83分に途中出場のギャレス・ベイルがゴールを決めて、史上初となるCL三連覇を果たしている。とりわけベイルが決めたオーバーヘッドキックはまさにゴラッソで、それを目にした直後のジダンは片方の手で頭を抑え、もう片方の手をブラブラ揺らしながら、「なんてゴールだ」とその驚嘆ぶりを表していた。

それから6年の時を経て……マドリーはまたもCL決勝の切符を手にしている。準決勝で下した相手は、欧州最大のライバルとも言えるバイエルン・ミュンヘン。本拠地サンティアゴ・ベルナベウでの2ndレグでは0-1(2試合合計2-3)のビハインドを負ったが、途中出場のホセルが89分と91分にゴールを決めて、スコアをひっくり返した。

ベルナベウでこの試合を観戦していたジダンは、ホセルが2点目を決めた直後、あのベイルのゴールが決まった直後のように片方の手をブラブラ揺らしながら、「なんて試合だ」とその驚嘆ぶりを表していた。ベイルのときはゴールの質への反応だったが、今回はマドリーが繰り返す、まだ繰り返し続ける逆転劇への驚きが色濃かった。あのリヴァプール戦のハーフタイム、ジダンが語った内容はマドリディスモ(レアル・マドリー主義)の根幹たる不撓不屈の精神そのものだったが、そんな彼でもマドリーの新たな劇的勝利に驚きを隠せなかったのだ。

■永遠の奇跡

real madrid1(C)Getty Images

そう……またなのだ。どうかしている。もうずっと、どうかしている。常識では起こると考えられない不思議な出来事を「奇跡」と呼ぶが、マドリーはずっと奇跡を起こし続けている。最後に優勝した2シーズン前のCLでも、ラウンド16のPSG戦、準々決勝チェルシー戦、準決勝マンチェスター・シティ戦で劇的に追いついたり逆転したりしたように。今季CL準々決勝シティ戦で執念のPK戦勝利を果たしたように。今季のクラシコで91分にジュード・ベリンガムが逆転弾を決めたように……。彼らはいつも、最後には笑っている。

僕はこれまで自分の文章でも翻訳でも、マドリーの劇的勝利について何度も記してきた。だが、正直もう書くことが見つからない。そこにあるのは永遠の奇跡なのだから。

「彼らには絶対的な勝者のメンタリティーがある」

「ディ・ステファノの時代から脈々と受け継がれてきた精神性だ」

「トップ・オブ・トップの選手たちが絶対あきらめないからゴールが決まる」

「アンチェロッティは選手たちを戦術に縛り付けず、創造性を生かすための余地を常に残している」

「マドリーに明確なプレースタイルはない」

とか何とか書き続けても、文章のネタは永遠ではない。だがマドリーはそんなことはおかまいなしに無限に逆転勝利を繰り返す……もう、ただ鳥肌を立てるだけだ。

それでも、もう一度マドリーの劇的勝利を描写してみよう。今回の試合で一つ言えることがあるとすれば、この白いチームはありとあらゆる文脈・状況から、最後には勝ってしまうということだ。

マドリーがこれまで収めてきた劇的勝利は、フットボールの一般的なセオリーからすれば「理不尽」や「不当」とも形容されるものだった。しかしこのバイエルン戦で、試合を通して勝つべきプレーを見せていたのはマドリーの方で、ドイツの盟主が勝つ方が「理不尽」だっただろう。

もちろん、ふさわしくない方が勝つのもフットボールの美しさ、面白さでもある。だがマドリーは相手の「理不尽」も許さない。値してもしなくても、最後には自分たちが勝つのだ。

■レアル・マドリーだから

tuchel(C)Getty Images

マドリーは今季最高レベルのパフォーマンスを見せていた。ヴィニシウス・ジュニオールとロドリゴの2トップ(彼らよりリスク管理はしていたがベリンガムも)が自由に動き回り、左サイドを中心として密な連係プレーを見せ、バイエルンの選手たちを集めてからトニ・クロース経由でフェデ・バルベルデやダニ・カルバハルにサイドチェンジを送ってフィニッシュフェーズに到達する。さらにはヴィ二シウスが単独で左サイド、もっと言えばヨズア・キミッヒを攻略してチャンスを創出する。相手がボールを持てば、インテンシティーの高いハイプレスを仕掛け、自分たちが主導権を握って勝ちに行く姿勢を示し続けた。

対して、トーマス・トゥヘルのチームはハイプレスを放棄して、やや下り目で守備ブロックをつくり、ボールを持ってもリスクを冒さない消極的なプレーに終始。マドリーはそんな彼らを明らかに上回り、幾度も決定機を迎えていった。が、やはりフットボールは気まぐれだ。68分、ハリー・ケインのサイドチェンジからアルフォンソ・デイヴィスの一撃が決まり、バイエルンが先制している。

だが、レアル・マドリーはレアル・マドリーであり、レアル・マドリーだから勝つのである。

今回はトゥヘルもその一助を担っている。カルロ・アンチェロッティは先のシティとの死闘の後、「多くの人が私たちが死んだとみなした。だが絶対に私たちに死を押し付けてくれるな。マドリーは決して死なない」と語っていたが、トゥヘルはそんな彼らのことをみくびってしまった。あとは1点差を守り切ればいいと、バイエルンの中で常に危険な存在であり続けたハリー・ケインを下げて守備に徹するなど、まるでマドリーを知らないかのような采配である(ファーストレグの前に「彼らのゴールを10秒前まで巻き戻したら決まる兆候がない」と語っていたにもかかわらず、だ)。

■不撓不屈の精神

real madrid2(C)Getty Images

そして始まった。いや、続いたのだ。彼らの劇的逆転勝利が。92分48秒のセルヒオ・ラモスのヘディング弾、ジャンルイジ・ドンナルンマに迷いなくプレスをかけたことで決まったベンゼマのゴール、ルカ・モドリッチの別次元のアウトサイドパスからロドリゴが突き刺したシュート……彼らはこれまでの経験から身をもって知っている。ジダンが言っていた通り落ち着いていれば、あきらめることなく最後まで戦う姿勢があれば、相手の一瞬の隙を突いて、たった一回で針の穴に糸を通すような超精度のプレーを見せてゴールを決められることを。自分たちならば、最後の1秒までスコアをひっくり返せる可能性があることを。

主役となったのはホセル。8クラブを渡り歩いた後、33歳で下部組織に在籍したマドリーに復帰を果たした彼は、不撓不屈の精神をまた異なる側面から体現してきた存在だ。

トゥヘルの守備的交代とは正反対にアンチェロッティからゴールを決めることを託された背番号14は、自分がすべきことをしっかりこなしている。ヴィニシウスがミドルシュートを打つ瞬間、彼はそこでプレーを見守るために足を止めたりせず、一気に加速してノイアーの眼前まで走り込んだ。バイエルン守護神がボールを前に弾いたのは確かに珍しいミスだが、ホセルのバイエルンDF陣に先んじた動き出しがなければ、あの同点ゴールは成立しなかった。それがホセルの持つ、マドリーの選手が持つべきメンタリティーだ。

そして同点ゴールに怯んだバイエルンに対し、ベルナベウの観客に背中を押されるマドリーは容赦なく波状攻撃を仕掛け、アントニオ・リュディガーのクロスからホセルが2発目……人々は衝動的に立ち上がって、叫び声を上げたり隣の人と抱き合ったり歓喜を爆発させ、そしてジダンがあのリアクションを見せた。マドリーの奇跡は永遠だ。彼らが信じ続ける限り、どこまでも続いていく。言葉だけ取り残される。

■どうかしてるぜ!

real madrid3(C)Getty Images

マドリーサポーターの幸せは家路についた後も続いている。ベルナベウに隣接するサンティアゴ・ベルナベウ駅では、メトロの10番線を待つ何十人もの人々が「アシ! アシ! アシ・ガナ・エル・マドリー(マドリーはこう勝つ)!」、「コモ・ノ・テ・ボイ・ア・ケレール(どうして愛さずにいられようか)?」といったマドリーの代表的なチャントや、「ホセル・ケダテ(残ってくれ)!」「ナチョ・ケダテ」「チャビ・ケダテ」という願望を枯れ切った声で歌っていた。

メトロに乗り込んだ後も、それぞれ自分の駅で降りるときも、彼らは歌うのを止めなかった。そのほかの乗客が呆れ返る、または笑顔でスマホを使って撮影するほどの熱心さと執拗さは、この日のマドリーが与えた幸せ、最後まで信じ抜く気持ちと比例していた。僕はそんな光景を、余裕ぶった笑みをたたえて眺め、時折目が合う人には「今日はやばかったな」と言わんばかりに片方の手をブラブラさせるジェスチャーをして返していた。心の中では、こんなことを思いながら。

一体、何回繰り返す? 何で毎回こんな劇的に勝つんだ? 何で勝てるんだよ? 明日やらなきゃいけないコラムに何を書いたらいい? どうかしてるぜ、レアル・マドリー!

取材・文=江間慎一郎

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