猛暑の中に行われたJ1開幕節。浦和レッズは長時間にわたって数的不利を強いられながら、一時は試合をひっくり返し、最後まで前進をやめなかった。その戦いぶりは、曺貴裁監督の下で生まれ変わろうとするチームの意志と、今季の明確な指針を表すものだった。(取材・文=島崎英純)
©Getty Images/J.LEAGUE10人でも前進し続けたチーム。浦和レッズが開幕・G大阪戦で示した揺るぎない指針
©Getty Images/J.LEAGUE曺貴裁監督が考える猛暑での戦い方
浦和レッズが今夏の沖縄でキャンプを張ったとき、所属選手たちは新指揮官の課すトレーニングメニューに早期順応し、要求される役割や備え持つべき意志を十分に理解しているように見えた。
曺貴裁監督が志向するフットボールスタイルは外連味のなさが魅力だ。たとえリスクを負う可能性があってもチャレンジを奨励する。敵陣で相手を追い込み、最短距離で相手ゴールへ向かう。もしボールを刈り取れずに自陣に侵入されたら総員でリカバーすればいい。その挑戦の先に究極の目標がある。
日本は今夏も高温多湿の熱波が続いている。そんな中、Jリーグは今季から秋春制へと移行し、シーズン開幕は年間で最も気温が上昇する8月上旬に定められた。ハイプレス、ハイインテンシティを全面に押し出す曺監督体制下のチームにとっては本来ハンディになる事象である。
沖縄キャンプ中、曺監督に直接質問を当ててみた。
◆
――シーズン序盤は暑い中で試合をしなければなりませんが、曺監督のサッカーのやり方については一貫したものがあるとは言え、暑さ対策や、やり方を変えるような考えはあるのでしょうか?
「ハイドレーションブレイクほどではないですけど(Jリーグにも)飲水タイムがありますし、飲水タイムのことを考えると、夏場の試合は4クォーター制の試合になりがちです。それは京都サンガでも湘南ベルマーレでも経験しています。
まず、試合の入りをどう戦えるかが夏場では非常に大事かなと思います。お互いに45分から60分、もしくは60分から75分の時間帯というのは、データで見ても減速・加速の回数やスプリントの距離が落ちがちな時間です。でも、それは我々だけが落ちて相手が落ちないとか、その逆というのも基本的にはないことです。
だからこそ、ゲームの入りで主導権をどう握れるかが夏場はすごく大事になります。そこで先手を取れれば、2点目、3点目を取りながらゲームをクローズしていくことを考えやすいですし、前半が全然ダメで後半から一気にインテンシティをあげようという戦いには、夏場は特になりません。そのあたりのゲームマネジメントは選手に理解させて、もし1点を取られても、当たり前ですけれども、2点目、3点目を立て続けに取られないようにしていかなければいけません。それは今回のワールドカップを見ても改めて思いました。
ただなんとなくスロースターターで、相手の様子を見ていくような戦いを夏場にやってしまうと、自分たちが目指すスタイルもそうですし、勝ち星を稼ぐというところで言うと、それは賢明ではないと思っています。もちろんゲームへの臨み方で千差万別ありますけれども、夏場だからといって絶対に押し通すものと、そういうことを考えなければいけないところのハイブリッドでやっていきたいと思います」
沖縄で実施されたトレーニングマッチでは気温の上昇で選手たちの体力が著しく削がれてカテゴリー下位のチームに劣勢を強いられる展開が幾つか見られた。その点を踏まえれば、指揮官の言葉とは裏腹に、大阪のパナソニックスタジアム吹田で行われるガンバ大阪とのリーグ開幕戦では相応のゲームプランを組んで体力消耗を極力抑えながら勝機を探る展開に持ち込むことも十分考えられた。
©Getty Images/J.LEAGUE10人になって、鮮明になったアイデンティティ
当日の大阪は試合開始時間の19時30分を過ぎても気温が30度を下回っていなかった。湿度も高く、記者席に座っているだけなのにTシャツから汗が滲む。頭がのぼせるような感覚を覚えながらキックオフ直前のピッチを見下ろすと、浦和のフィールドプレーヤー全員が左サイド前方に集結して安居海渡が蹴ろうとするセンターサークルのボールの行方を見据えている。そして安居が敵陣前方左サイドライン方向へボールを蹴り出した瞬間に、選手全員がボールの落ちどころへ殺到していった。
様子見などしなかった。フルスロットルで球際に食らいつき、ボールを奪えば高速で相手ゴールへ迫る。G大阪も気を引き締めて反撃を目論むも前進は止まらない。17分、金子拓郎の右クロスを小森飛絢がファーサイドで捉えてヘディングシュートを叩き込むと、チーム、そして遠方から駆けつけたサポーターたちの歓喜が爆発した。
前半早々のマテウス・サヴィオの退場はむしろチームのアイデンティティを強く喚起する効果をもたらしたと思う。10人での劣勢は全体の団結を促し、フォロー&カバーの精神を一層色濃くさせた。もちろん数的不利のハンディは重く、ハーフタイムまでに逆転を許して岐路に立ったが、それも後半の反攻を生むモチベーションになった。
10人での[4-1-2-2]から[3-3-2-1]への移行はマッチアップで真っ向勝負する姿勢の表れだった。後方は当然数的不利になるが、敵陣前方で相手を迎撃すれば相殺できる。ボールの出どころに高速アタックする浦和のアクションに難儀したG大阪の面々はリードしていたことも相まって受け身に回り、その結果、浦和のインテンシティを増幅させて激しく押し込まれた――。
結局浦和は金子拓郎、南野遥海のゴールで試合をひっくり返すも最終盤に2失点して3-4でシーズン開幕戦を白星で飾れなかった。長時間に及ぶ数的不利での奮闘、一時の再逆転、それでも勝利を得られなかった落胆。様々な思いが交錯する中で、試合後も厳しい表情を崩さなかった選手たちは次なる明日を見据えていた。
©Getty Images/J.LEAGUE「今までの僕たちには少し足りなかった部分」
キャプテンマークを巻いた宮本優太が言う。
「曺監督のサッカーは、前へ出ていく力、ボールを受けて前を向いて一人はがすこと、ボールを失っても違う選手がすぐ奪い返しに行くところ、そういう部分です。当たり前のことかもしれませんが、今までの僕たちには少し足りなかった部分でもある。曺監督になって、そこが一番大きく変わっているところなのかなと思います」
曺監督の就任に際して、浦和を取り巻くコミュニティでは賛否両論が入り乱れた。指揮官がかつてJリーグから認定されたパワーハラスメントの問題、浦和フロントの不透明な強化方針、監督選定の経緯など、様々に発せられる感情の渦をプレーする選手たちも受け止めて戦ったG大阪戦を経て、宮本は、改めてこのチームの揺るぎない指針を示した。
「ファン・サポーターに色々な思いがあることは、もちろん分かっています。その中でも、こうしてスタジアムまで足を運び、僕たちを後押ししてくれたことは本当に心強かったです。僕たちも本当に強くなりたいという思いで毎日取り組んでいます。その気持ちが少しでも伝わっていたら、嬉しいです。もちろん、こういう試合は勝ってこそ、本当の意味で恩返しができると思っています。それでも、少しでもファン・サポーターの皆さんが前を向けるような試合にはできたのかなと思います」
次節はホーム開幕戦となる8月15日のサンフレッチェ広島戦。広島のバルトシュ・ガウル監督は[3-4-2-1]を駆使し、前節はジェフユナイテッド千葉を3-0で下して開幕勝利を果たした。浦和がG大阪戦と同じく真っ向勝負を挑むなら、システムを[4-1-2-3]ではなく、あえて[3-3-3-1]のような形にしてマッチアップ状況に持ち込むかもしれない。
また曺監督はスターティングメンバーも変更するかもしれない。
「よくある『この前の試合で勝ったから、次の試合はこのメンバーで決定だよね』という考えは、間違いではないと思いますけれども、僕はそれよりも、その試合より、次にはより強くなるチームを作って臨むというふうにやってきましたし、レッズでもそういう要素をゼロにして戦いたくはありません」
今季のリーグ開幕戦を落としたのは事実。それを踏まえて、直近の一戦、ホームの広島戦で再び自らの指針を示し、そのうえで勝利という明確な成果を追い求める。
この物語を楽しんでいただけましたか?
GOAL.comをGoogleの優先情報源に追加して、より多くのレポートをご覧ください。




