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20260808-J1-md1-machida©Getty Images/J.LEAGUE

「煮込み」から「刺身」へ。5発大勝に見えたFC町田ゼルビアの進化

町田が大勝した試合後、長くチームを取材する記者から、黒田剛監督就任後の変化を表す面白い喩えを聞いた。

「最初の2年は煮込み料理。あれこれ工夫し、手をかけて素材を美味しくするチームだった。でも、ここ2年は刺身になった」

2023年に黒田監督が就任し、J2優勝を経てJ1昇格した当初の町田は、組織力と運動量、対戦相手に応じた緻密な準備によって、選手の持ち味をひとつの勝ち筋へと“煮込んで”いった。そこへ近年は、各国代表経験者をはじめとする質の高い選手が加わり、個々の能力をより鮮明に打ち出せるようになった――という意味だ。

ただし、良い素材をそろえれば、美味しい刺身になるわけではない。「素材を見極める目、持ち味を損なわない包丁の入れ方、それを一皿にまとめる技量」がいる。8日に味の素スタジアムで行われたJ1開幕戦は、現在の町田がそれらを備えつつあることを示す90分となった。

  • 20260808-j1-md1-machida-akimoto©Getty Images/J.LEAGUE

    「刺身」になっても変わらない、走力という土台

    町田は先制を許す展開となったが、チームは動揺を見せなかった。黒田監督は強調する。

    「選手たちが常にポジションを取ることを怠らず、ランニングすることを怠らず、挑み続けてくれた」

    8月の猛暑のなか開幕した新シーズン。FC東京に退場者が出た影響は差し引く必要があるものの、町田は先制されたあとも運動量を落とさず、数的優位を得てからは相手を自陣に押し込み続けた。その礎たる運動量は、キャンプでのトレーニングが一定の成果を出していることを裏付ける。黒田監督は続ける。

    「大会前のキャンプを、どこでどのようにやっていくかは、新シーズンにあたってみんな何が正解かも分からずに過ごした3週間だったと思うんです。涼しい地域でやっていたチームもあれば、暑いところで、もうひとつ走り切れるチームを作るところを念頭に置いてやってきたところもある」

    実際、町田は沖縄でキャンプを張り、暑さの中でチームをつくってきた。新ルールに関しても「今までは駆け引きといった形で時間を使うこともあったと思うのですが、新ルールではやはり止まらないこと、続けること、倒れないこと、いろんなことが必要になってくる。それをしっかりと選手たちが理解し実行してくれた成果が運動量というところにも表れたのかなと思っている」と手応えを口にした。


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    組織に埋没しない「個」。中山雄太がもたらした攻撃の厚み

    FC東京戦を振り返ると、走力に加え選手個々の強さと戦術実行度の高さも際立っていた。

    中山雄太が見せた左サイドでのプレーは、その好例だろう。3センターバックの左に入り、守備的なタスクをこなしつつ、隙あらばゴールに直結するエリアへ顔を出す。岡村大八が「今年は同サイドのCBが攻撃に参加しようというところにチャレンジしている」と語ったように、チームとして取り組む形が結果につながった。

    同点弾となったミッチェル・デュークへの配球、4点目のテテ・イェンギへのクロスと中山は2得点をアシスト。彼のような“個”が、自由を得て高い位置を取ることで、チーム全体の攻撃の選択肢が倍増した。

    中山自身も「去年から左サイドのコンビネーションは意識していた。明本(考浩)が入ってきて、彼も推進力がある。相馬(勇紀)が中にいても、逆になっても攻撃の厚みを出せるというのは、特徴だった」と、攻撃を牽引してきた相馬、そして今季ベルギーのルーヴェンから加入した新戦力・明本を評価する。「その2人でうまくできたスペースに僕が関わっていけるシーンは、結構出せたと思う」と自らのプレーも評価した。

    前シーズンのACLE決勝では、相手に退場者が出て数的優位を得ながら得点できず、延長戦の末に0-1で敗れている。 「去年は(相手が)退場したときに得点が取れなかったACLの試合もありましたし、そういった状況の中で今回の得点、自分含めセットプレー含め点が取れたところは、去年より明らかに成長したと思います」と岡村大八も振り返る。この日の試合は、チームとして培ってきたスタイルのうえに、個人の技術と戦術が融合したことを示したと言えるだろう。

    もっとも、5-1というスコアだけで町田の現在地を測ることはできない。数的優位を得る前の守備には綻びがあり、背後のスペースへの対応や3バックのスライド、ラインコントロールには改善の余地を残した。岡村も「相手の狙いが明確で、それに対してうまく対応できずピンチを迎えた」と振り返る。黒田監督が「ここで緩めることなく、反省を洗い出し、地に足を着けて臨みたい」と語ったのも、その危うさを見逃していないからだろう。

    黒田監督就任後に培ってきた組織力と走力。その土台の上で、中山、相馬、明本らの個が、鮮やかに映えるようになった。素材は上質になった。しかし、その魅力を最大限に引き出せるかどうかは、見極めと包丁の入れ方にかかっている。5-1の開幕戦は、町田が「刺身」へと変わったことだけでなく、その一皿を仕上げる技量も高めていることを示していた。

    初のJ1制覇へ、その素材と技量が本物かどうかを確かめるシーズンが始まった。

    (取材・文=吉村美千代/GOAL編集部)


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