FC東京戦を振り返ると、走力に加え選手個々の強さと戦術実行度の高さも際立っていた。
中山雄太が見せた左サイドでのプレーは、その好例だろう。3センターバックの左に入り、守備的なタスクをこなしつつ、隙あらばゴールに直結するエリアへ顔を出す。岡村大八が「今年は同サイドのCBが攻撃に参加しようというところにチャレンジしている」と語ったように、チームとして取り組む形が結果につながった。
同点弾となったミッチェル・デュークへの配球、4点目のテテ・イェンギへのクロスと中山は2得点をアシスト。彼のような“個”が、自由を得て高い位置を取ることで、チーム全体の攻撃の選択肢が倍増した。
中山自身も「去年から左サイドのコンビネーションは意識していた。明本(考浩)が入ってきて、彼も推進力がある。相馬(勇紀)が中にいても、逆になっても攻撃の厚みを出せるというのは、特徴だった」と、攻撃を牽引してきた相馬、そして今季ベルギーのルーヴェンから加入した新戦力・明本を評価する。「その2人でうまくできたスペースに僕が関わっていけるシーンは、結構出せたと思う」と自らのプレーも評価した。
前シーズンのACLE決勝では、相手に退場者が出て数的優位を得ながら得点できず、延長戦の末に0-1で敗れている。 「去年は(相手が)退場したときに得点が取れなかったACLの試合もありましたし、そういった状況の中で今回の得点、自分含めセットプレー含め点が取れたところは、去年より明らかに成長したと思います」と岡村大八も振り返る。この日の試合は、チームとして培ってきたスタイルのうえに、個人の技術と戦術が融合したことを示したと言えるだろう。
もっとも、5-1というスコアだけで町田の現在地を測ることはできない。数的優位を得る前の守備には綻びがあり、背後のスペースへの対応や3バックのスライド、ラインコントロールには改善の余地を残した。岡村も「相手の狙いが明確で、それに対してうまく対応できずピンチを迎えた」と振り返る。黒田監督が「ここで緩めることなく、反省を洗い出し、地に足を着けて臨みたい」と語ったのも、その危うさを見逃していないからだろう。
黒田監督就任後に培ってきた組織力と走力。その土台の上で、中山、相馬、明本らの個が、鮮やかに映えるようになった。素材は上質になった。しかし、その魅力を最大限に引き出せるかどうかは、見極めと包丁の入れ方にかかっている。5-1の開幕戦は、町田が「刺身」へと変わったことだけでなく、その一皿を仕上げる技量も高めていることを示していた。
初のJ1制覇へ、その素材と技量が本物かどうかを確かめるシーズンが始まった。
(取材・文=吉村美千代/GOAL編集部)