開幕3連敗から公式戦3連勝へ。浦和レッズは第6節の鹿島アントラーズ戦で、それまで基本形としてきた[4-1-2-3]から[3-4-2-1]へと姿を変えた。ここで変わったのは選手の配置であり、曺貴裁監督が求めてきた「縦」への意識や、前線から主導権を握る姿勢ではない。試行錯誤の先に見え始めた、浦和仕様の“RED GAME”とは――。(取材・文=島崎英純)
3連敗で迫られた、戦術面の変化
2026-2027シーズンの開幕戦、ガンバ大阪とのアウェイ戦で退場者を出しながら3-4の死闘を演じた浦和レッズは曺貴裁監督が指し示した進化の過程を歩む覚悟を備えたと思う。しかし第2節のサンフレッチェ広島戦で完成度の違いを見せつけられて完敗、第3節のFC町田ゼルビア戦では効率良く加点された末に敗戦と、ここで3連敗を喫して現状を認識する必要性を迫られた。
曺監督は浦和の指揮官に就任してから一貫して縦方向への意識付けを徹底させてきた。
その一環として前線からの積極的なプレスを志向し、ハイラインの維持にも気を配った。ハイライン&ハイプレスは曺監督が湘南ベルマーレを指揮した時代の代名詞的なチームスタイルであり、第三者から見れば、『これが曺監督のスタイル』と想像できる型だった。またチャレンジを恐れない姿勢も監督が選手に求める重要なファクターであり、ミスが生じてもそれをリカバーすることで結果に結びつける意識面での前向きなベクトルを植え付ける思考性もこの指揮官のチームの特徴と捉えられてきたように思う。
一方で、曺監督は湘南時代に[3-4-2-1]、もしくは[3-3-2-2]などの3バックシステムを用いて今システムのストロングポイントでもあるワイドアタックも上手く活用した。また2021年から指揮を執った京都サンガでは一転して4バック、アンカー、ダブルインサイドハーフ、3トップの各ユニットが連なる[4-1-2-3]システムを主戦型として異なるアプローチも示している。今季の浦和でも京都時代と同システムを基本形としたが、上記の3連敗を経て、チームは戦術面の変化が見られるようになった。
湘南、京都を経て、曺貴裁監督が目指す型
曺監督はチームスタイルやシステムなどの変化について、このような私見を述べている。
「プロとして監督を務めたのは湘南と京都の2つのチームしかないですが、その2つのチームでも全く違うやり方をしたつもりです。もちろんチームの選手の特性を生かしたやり方はあると思います。例えばユルゲン・クロップがリヴァプールで指揮していたとき、初期と退任する前の2、3年とではサッカーのスタイルも少し変わっていたと思っています。それは(モハメド・)サラーの使い方もそうですし、(サディオ・)マネが移籍した後にどうしたかというのもそうです」
「この世界では、昨年と全く同じチームを今年作ろうと思っても、選手の移籍もありますので、不可能だと思っています。僕のケースで当てはめても、そのこと(戦術の不変性)自体が不可能なことをやっても意味がないものになってしまいます」
「しかし5パーセント、10パーセント、もしくは50パーセント、70パーセントの可能性があることには、その都度そのチームの状態を見極めながら挑戦する価値はあると思っています。そういう意味で自分が大事にしてきたことを、今は『RED GAME』という話をしていますが、レッズ仕様に変えていかなければいけない。それはプレーシステムなのか、時間帯による戦い方なのか、いろいろあると思いますが、同じチームでも年ごとに変化していくのがチームのあるべきスタイルだと思います」
「ただ、根本にあるものに関しては、湘南でも京都でも大事にしてきたものはありますし、それはそのチームだから大事にしてきたというよりも、自分が指導者として歩む上で大事にしてきたことを、レッズでも選手の理解を得ながら発揮したいなと思っています。当然違っているところはたくさんありますが、みなさんからの視点で言うと同じに見えるようなこともあるのかなと感じます」
筆者の眼から見ても、曺監督が志向するサッカースタイルは時代とともに変化しているように感じる。
湘南時代は当時のJリーグのトレンドを塗り替えたミハイロ・ペトロヴィッチ監督(当時、広島、浦和を指揮)が志向した[3-4-2-1]システムを基盤にした『ミシャ式』のエッセンスを取り入れているように見受けられたし、京都時代はリヴァプールのユルゲン・クロップ監督(現ドイツ代表監督)がUEFAチャンピオンズリーグやプレミアリーグを制したときに採用した[4-1-2-3]システムへと移行している。
そして今、浦和で指揮を執る曺監督は湘南や京都で培ったメソッドや経験を生かしたハイブリッド型を志向しているのではないだろうか。
公式戦3連勝。試合の中で増えた選択肢
Getty Images3連敗後に迎えた8月26日の天皇杯2回戦・山梨学院大学戦では大幅なターンオーバー策を用いて3-0で勝利を収め、3回戦へ勝ち上がった。
この試合で好プレーを見せたDF根本健太、DF片山瑛一、FWオナイウ阿道はその後の試合で継続起用されており、今夏に加入した新戦力の瀬古樹もこの試合で先発起用されてコンディションを高めていった。また曺監督はMF和田武士、MF植木颯、DF稲垣篤志といった若手選手も積極的に登用してスカッドに組み入れている。特に植木に関しては瀬古ともに『レッズ仕様』の幹となる重要な責務を担わせ、それが3連敗後のリカバリーへと帰結したようにも思える。
第4節の横浜F・マリノス戦、「連敗脱出」を至上命題に戦った浦和は、従来のハイプレス&ハイラインを維持しつつも植木をアンカーで起用したことで彼自身のアクションによる後方の疑似3バック化およびビルドアップワークの安定化を成し、拙速ではなく効率的に相手を追い詰めて今季リーグ戦初勝利を遂げた。ただ横浜FMのFW谷村海那のパーソナルスキルで2失点した反省点もあり、相手FWを如何に抑え込むかという課題も生まれたゲームになった。
続く第5節のアビスパ福岡戦では先制するも一時逆転を許す不安定なチーム状況を晒す中で、試合中のシステムチェンジを決断する。それは1アンカーからダブルボランチという中盤の構成変更で、これによって相手が活用していたスペースを消して主導権を取り戻すことに成功した。
しかもチームはこの後に[3-4-2-1]システムにも移行している。これは福岡のエースFWであるウェリック・ポポへの対策も織り込まれており、右サイドバックから右ストッパーへと役割を代えたダニーロ・ボザがポポを抑え込むことで守備の安定化を為し、3-2の接戦を凌ぐ要因を生んだ。
変わった配置、変わらなかった「縦」の意識
そして注目の第6節、浦和は鹿島アントラーズとのアウェイ戦で初めて[3-4-2-1]システムを試合開始時から用いた。
鹿島にはレオ・セアラという現リーグ得点王FWがおり、彼には当然右ストッパーに入ったボザが対応した。また中盤は瀬古と植木のダブルボランチで主導権を握る意志を示した。また今季町田から加入した林幸多郎と明治大学所属の特別指定選手である稲垣の稲垣をウイングバックで起用して縦への推進力を促し、前線は1トップに小森飛絢を据え、その後方のシャドーポジションには渡邊凌磨と金子拓郎が並んだ。
一見すると斬新なシステムチェンジで、これまで踏襲してきたスタイルとは異なるように見受けられる。しかしチームは全く違和感なくプレーを実行し、特に前半は鹿島を激しく戸惑わせていた。
システムや各選手の役割に変化が生まれても不変だった指針がある。その手がかりは曺監督が横浜FM戦後の会見で語っていた言葉から読み取れる。
「105メートル×68メートルのピッチを広く使うことが本当に効果的な攻撃かということを一言で言うと、僕はそうは思わないです。幅にボールを渡すことによっていい攻撃ができていると思いがちですけど、ゴールは真ん中にあるので。クロスでしか終われない攻撃が鋭い攻撃だとは思わない」
「その中で言うと、やはり攻撃はペナルティーエリアの幅にボールを運ぶのが第一優先です。[4-4-2]とか[3-5-2]とか、(システムは)いろいろありますけども、最初にボールを前向きに持ったセンターバックの選手、もしくはGKが幅と幅を使いながら何回サイドチェンジをしても、僕は意味がないと思っています」
「ただ、ボールを持った後に縦方向の意識が強過ぎて幅に人がいなくなると一本調子になりますから、一番いいのは間違いなく縦方向にボールを送る選択肢を持ちながら、その次のハイブリッドな選択肢を選手が採る。縦を意識していた相手ディフェンスラインは幅に行ったときにアプローチが遅れるので、そういうものの順序を間違えないようにしないと得点は生まれないと思っています」
欧州最先端の戦術を取り入れようとする試み
Getty Images渡邊は鹿島戦の自身の役割についてこう語っている。
「(自分は)3トップだという意識で、前に残りながらプレスに行けた。そこへすべての力を注いだというくらいの試合でした」
[4-1-2-3]システムの特徴は、ウイングポジションを配しながらも中盤の底にアンカーを据えることで前線中央に1トップ+ダブルインサイドハーフの3人を置ける点にある。これによって相手ペナエルティエリア内の幅に人数を割き、分厚い攻撃、そしてボールを逸した際は即時奪回を目論んだ多人数でのハイプレスへと移行できる。この前線中央に『3人を置く』という概念は[3-4-2-1]システムの1トップ+2シャドーでも実践できる。
試合は浦和がコーナーキックから相手のオウンゴールを誘発した1点にとどまったが、ハイプレス&ハイラインの実行も含めて、鹿島戦における浦和のチームコンセプトは選手の立ち位置が変わっても不変だった。
ちなみにペナルティエリアの幅で勝負する志向性は曺監督が日々研究を重ねて自身のチームに取り入れようとしているヨーロッパのフットボールシーン、そして今夏の2026 FIFAワールドカップの各ゲームでも見られたトレンド的傾向でもあると、筆者は思っている。
「後半を2回やろう」。鹿島撃破で見えた“RED GAME”の輪郭
システムチェンジは幹となるチームコンセプトの枝葉に過ぎない。ハイプレス&ハイラインを維持する中でビルドアップの優位性も保てれば多岐に渡る選択肢を備えられる。ボール保持、非保持の是非は試合結果で問われるもので、その手法自体に正誤はない。ハイブリッド型の志向性が曺監督のスタイルを薄める端緒にもならない。
「ゲームの勝ち筋のようなものを、選手がやっとというか、少し理解してきたのかなというところです。僕が考えるサッカーの感じに、選手が呼応して勝ちに持っていくというのは、もちろん時間が必要ですけれども、その中でも一歩ずつ、一日ずつ成長してくれているのかなと思います」
曺監督はここまでの試合で顕著だった前半スロースタート、後半トップギアというネガティブな側面を持つ傾向を是正するために「後半を2回やろう」と言って選手を鹿島戦のピッチに送り出した。その結果、浦和は前半から攻守両面でハイインテンシティを維持し、逆に試合終盤は失速気味に鹿島の攻勢を受けてピンチも迎えた。それでもこのゲームを1-0で制したことで、チームは新たな見地を得て次なる戦いへ挑める。
『今のチームの雰囲気は?』
浦和での経験値を今まさに高めている植木は、この問いに対して迷いなく答えた。
「最高にいいです」
かつて『湘南スタイル』と称された指揮官のフットボール概念が今、『浦和スタイル(RED GAME)』へと移り変わろうとしている。その成否は未だ予測できない。それでも今のチームは、愚直に前へ向かおうとするその一歩が鮮やかな光で照らされる未来へ繋がると信じて、日々の、かけがえのないゲームを闘っている。
(了)



