GOAL “致命的欠陥”抱えるレアル・マドリーは今季も無冠へ突き進む…モウリーニョに迫られる「血が流れる決断」【現地発】
無冠の匂い
(C)Getty Imagesマドリーダービーが終わって、アトレティコ・デ・マドリーの本拠地メトロポリターノに隣接する同名の駅から7番線に乗り込む。満員の車内にいるのは、勝利に歓喜する赤白のユニフォームを着た人たちが大多数で、白のユニフォームを着た人々はごく少数だ。
メトロが走り出すと、高揚する赤白の人たちは体を上下させながら「テ・キエロ・アトレティ(アトレティ愛してる)」や「マドリディスタ・イホ・デ・プー◯(レアル・マドリーサポーターはク◯野郎)」といったチャントを歌い始める。片手を上げたり、壁を叩いたりして喜びを表す人もいる。一方で白い人たちは、憂いを帯びた表情で赤白の人々を眺めたり、下を見たりしながら自分の降りる駅に到着するのを今か今かと待っている。
――昨季もまったく同じ光景を見た。もっと言えば、レアル・マドリーサポーターはこの2年あまり、ぬか喜びと怒りと憂いの表情を繰り返している。そして今のままでは、この負の連鎖から逃れることはできないだろう。フットボール界の最たる勝者であるはずのマドリーだが、3シーズン無冠の匂いがすでに漂い始めている。
同じ問題
Getty Images今回のダービーは、マドリーが訴えるようにレフェリングのミスが明らかだった。とりわけイ・ガンインのフェデ・バルベルデに対するタックルは退場になるべきで、そうなっていれば試合の流れは変わっていたはずだ。
だがしかし、そんな誤審があっても、マドリーのプレーの欠陥は隠せなかった。
ジョゼ・モウリーニョが帰還しても、彼らは過去2シーズンと同じ問題を抱え続けている。今回のダービーでそれが改めて明らかとなった……さすがに飽き飽きする指摘だが、やはりヴィニシウス・ジュニオールとキリアン・エンバペの同時起用は難しいのだ。
規律
(C)Getty Imagesアトレティコを率いるディエゴ・シメオネはさも当然のように、レアル・マドリーの攻略法はヴィニシウスのいるサイドから攻めることだと断じていた。試合の2日前の練習から右サイドバックにプビル、右ボランチにマルコス・ジョレンテ、右サイドハーフにジュリアーノ・シメオネを配置し、マルク・ククレジャとディーン・ハウセンの間を練習に取り組んでいたのだ。
一方で、レアル・マドリー側からのサプライズは「何もない」。ヴィニシウスの守備は当たり前に緩慢だった。後方が数的不利になっていても前線で歩いていたり、オーバーラップするプビルを追いかけたかと思えば途中でやめたり(違う選手が慌ててカバーに入る)……。アトレティコは手薄な同サイドからの攻撃を執拗に繰り返して、世界最高クラスのサイドバックであるククレジャをまるで並以下のサイドバックのようにてんてこ舞いにし、試合の主導権を握り続けた。
ヴィニシウスに負けず劣らず、エンバペも守備意識は低い。ハイプレスで相手を片側のサイドに追い込もうとしても、フランス人FWはパスコースを切らず逃げ道をつくるために、チームの努力や機能性はふいになってしまう。なぜ守備時に、まるで他人事のようにピッチ上を歩いている選手が2人もいるのだろうか。にわかには信じがたい光景だ。
現代フットボールでは、全員が守備に参加する必要がある。規律なくして成功はないのだ。だがレアル・マドリーは、ヴィニシウスもエンバペも責任を背負おうとしていない。守備ブロックをつくっても、前線の彼ら2人からブロックは分断されてしまい、各ラインがどんどんと間延びする。攻撃のためにエネルギーを温存させているとしても、守備を免除する対象はどちらかに絞るべきだろう。アルゼンチン代表に、メッシは1人しかいないのだ。
不合理
(C)Getty Imagesヴィニシウスとエンバペは攻撃でも共存できない。結局のところ、彼らのプレーポジションは左サイドで重なっている。今夏のプレシーズン、モウリーニョはエンバペを右から内に切れ込む動きをさせて問題の改善に努めていたが、元の木阿弥に戻ってしまった。
このダービーで、エンバペは左サイドに張るヴィニシウスのすぐ隣でボールを受け、強引なカットインからシュートまで持ち込もうとしてプビル、ジョレンテ、シメオネにボールを奪われ続けている。ヴィニシウスは彼の視界に入っていなかった。
エンバペはやはり9番の選手ではない。相手DFラインを縦に抜けて深みを取る、ゴールに背を向けてポストプレーをする、相手DFを引きつけて他選手のためのスペースを生む……といったプレーができない。今季にウィングから9番にコンバートされたバルセロナのラフィーニャの方が、献身的なプレスを含めて圧倒的に機能している。厄介なのは、エンバペもヴィニシウスも「自分が(は)攻撃で違いを生み出す」という考えに取り憑かれており、それを守備の怠慢と攻撃のワンパターン化(足元でボールを受けてからプレー&カットインからシュート)のエクスキューズにしているところだ。
チーム全体の機能性を考えれば、ポジションもプレーパターンも重なるヴィニシウスとエンバペの併用は不合理でしかない。選手の長所を生かすことに長けるジネディーヌ・ジダンが、先に「キリアンについては左サイドで見せるプレーが大好きだ」と言ったのは決定的だった。フロレンティーノ・ペレスの命令なのかは知らないが、ヴィニシウスとエンバペをこのまま一緒に起用し続けても、3シーズン無冠の道を歩み続けるだけだ。
血が流れる決断を
Getty Images2シーズンを無冠で終えた後、レアル・マドリーの本拠地サンティアゴ・ベルナベウは、極めてナーバスな雰囲気に包まれている。たとえ勝っていても、少しでもプレーがうまくいかなくなれば、観客から簡単にブーイングが飛ぶ。一番の標的は、昨季途中にシャビ・アロンソ解任の引き金を引いたヴィニシウスで、守備をしなかったりボールを奪われたりすると、すぐに指笛を吹かれる。エンバペだって無傷ではない。もっと言えば、彼は2024年夏にマドリーに加入してから、一度もアイドルとして扱われたことがない。彼は誰よりも点を取っていることで自身がバロンドール受賞に値すると言っているが……そのゴールがタイトルと繋がっていなければ、少なくともマドリディスタから真に愛されることはない。
レアル・マドリーに帰還したモウリーニョは、第一声で「レアル・マドリーで働くのではなく、マドリーのために働くのだ」と言った。クラブの勝者のアイデンティティーを守るためには、今こそドラスティックな決断が必要のはずだ。ダービーでは、バルベルデと負傷明けオーレリアン・チュアメニの2ボランチも機能したとは言い難かったが、ビルドアップの問題にはベルナルド・シウバの起用という解決策がある。しかしヴィニシウスとエンバペの問題は、今のところどうしようもない。
2人に守備を強制する? エンバペに9番としてのプレーを義務付ける? ヴィニシウスをベンチに置いてエンバペを左でプレーさせる? ヴィニシウスをベンチに置いてディオマンデを左でプレーさせる? エンバペをエスピに代える? ……そのどれもがあり得なそうな選択肢に思えるが、モウリーニョはもう血が流れるような決断を下さなければならない。そうしなければ、ベルナベウでのブーイングが収まることはないだろう。マドリーはすでに、この問題で2シーズンを無駄にしているのだから。
ピッチ上ですべてが機能し、新たな黄金期を築こうとしているバルセロナの背中は、すでに見えなくなりつつある。
取材・文=江間慎一郎
