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Kylian Mbappe Ballon d'Or GFX HIC 1-1GOAL

エンバペのバロンドール受賞はない:本人から滲み出る「切迫感」と“世界最高の選手”に不可欠なもの

【欧州・海外サッカー 特集】レアル・マドリー(ラ・リーガ)でゴールを量産し、フランス代表としてワールドカップの歴代最多得点記録を塗り替えたキリアン・エンバペ。しかし彼の絶対的な自信とは裏腹に、今年のバロンドールを受賞することはないだろう。

James Westwood
翻訳者:
  • 8月26日に行われたレアル・ソシエダ戦でエンバペが圧巻のハットトリックを達成してから数日後、ジョゼ・モウリーニョは「今年のバロンドールは誰が受賞すべきか?」と問われた。すると、まさに“モウリーニョ節”でこう答えている。

    「世界最高の選手は2人~3人、あるいは4人いる。誰のことかはみんな分かっているだろう。彼らはここにいるんだ。そして私にとって、この夏に個人として歴史を作った選手が1人いる」

    もちろん、最後の一言はエンバペを指している。フランス代表として8試合で10ゴールを挙げ、ワールドカップ2026年大会のゴールデンブーツを獲得。そして、史上最多得点記録を打ち立てた。そんな偉業を達成した彼だが、昨季主要タイトルを獲得したハリー・ケイン、ラミン・ヤマル、ロドリ、マイケル・オリーセ、さらにフィヴィチャ・クヴァラツヘリアやウスマン・デンベレらに比べると、バロンドール争いで後れを取っているとみなされている。

    そうした中で、モウリーニョはこのバロンドールの投票システムにも異を唱えた。

    「チャンピオンズリーグやワールドカップに勝ったというだけでバロンドールを与えることはできない。バロンドールは、引退した時に永遠に恋しく思われるような選手の1人に与えられるべきだ。マラドーナ、ロナウジーニョ、ロナウド、クリスティアーノ・ロナウド、メッシ、ジダンのようなね。チャンピオンズリーグを称えたいなら、ルイス・エンリケに与えればいい。スペイン代表についてなら、ルイス・デ・ラ・フエンテに与えればいい。世界最高の選手というのは別であり、その選手はPSGにもスペイン代表にもいないよ」

    確かに、バロンドールをチームとして獲得したタイトルにこれほど強く結びつける必要はなく、個人のパフォーマンスを評価すべきというモウリーニョの指摘は完全に正しい。この権威ある賞は純粋な才能と影響力を見極めるものではなく、人気投票と化しているのが現状だ。

    しかし、その基準に基づいて評価するのであれば、エンバペが永遠のレジェンドたちと肩を並べることに違和感を感じてしまうのも仕方がないだろう。

  • スタッツと“エゴ”

    Mbappe
    Getty Images

    エンバペ本人は、モウリーニョの言葉を完全に受け入れている。彼は今週、以下のように語っていた。

    「バロンドールを誰に投票するか? 自分だよ。違う人に投票するの考えも理解できるけど、根拠やライバルとの比較を見れば、自分が受賞しても決して不当ではないはずだ。スポーツ界が生み出した最大の大会において、歴代の偉大なレジェンドを抜き去り、ワールドカップ史上最多得点者になるのは、圧倒的な偉業だと思っている。世界的な出来事なんだ。歴史というものは、常に評価されるべきだと信じている」

    彼とマドリーの契約には、バロンドール受賞時に1500万ユーロのボーナス条項があると報じられている。それもあって、公の場でアピールしているのかもしれない。そして、その主張は確かに数字に裏付けられている。昨季レアル・マドリーで公式戦44試合42ゴールをマークし、フランス代表でも16ゴールを奪った。1年間で合計58ゴールをマーク。これはアーリング・ハーランドと並ぶ欧州2位タイの数字だ。

    エンバペはビッグマッチでも結果を残しており、バイエルンとのチャンピオンズリーグ準々決勝では両レグでネットを揺らした。ラ・リーガでも、バルセロナやアトレティコといった相手にもゴールを挙げた。両大会の得点王に輝いた。

    しかしそれは、彼の強烈な“エゴ”の結果でもある。とにかくゴールにこだわるストライカーの存在により、マドリーは完全に機能不全に陥った。ヴィニシウス・ジュニオールの使うスペースを奪い、守備に参加しないために周りの選手は倍以上の働きを強いられた。そうした不協和音がチーム全体に伝染。これが2年連続の無冠につながっている。また、フランス代表でも同じような状況が発生し、特にワールドカップ準決勝スペイン戦は完全に姿を消していた。

    モウリーニョが名指ししたレジェンドたちは、個人成績はもちろん、何よりもチームを勝利に導く選手たちだった。その点で言えば、昨季のエンバペはそれに当てはまらないだろう。

  • 切迫感

    yamal mbappe
    (C)Getty images

    現役時代にフランス代表として活躍し、1998年ワールドカップ優勝メンバーであるクリストフ・デュガリーは、『RMC Sport』でエンバペの主張について以下のように語った。

    「公の場でああやって個人賞を求めるのは、子どもじみていて情けないね。特に代表チームのキャプテンであることを考えると、立派な点は何もないよ」

    やや厳しすぎる見解かもしれないが、その根底にある視点にはうなずける部分もある。もしエンバペが本当にバロンドールに値するのであれば、自ら公然と受賞の可能性を語り立てる理由はないはずだ。選手としての総合力が物語るはずである。エンバペの発言からは、まるで自らの価値を確認する手段としてその賞を必要としているかのような、どこか切迫感が漂っている。対照的にもう1人の有力候補、ヤマルははるかに落ち着いていた。昨年受賞を逃した際には大きな議論を呼んだ19歳はあれから1年後、冷静にこう語っている。

    「今年はバルサでも、スペイン代表でも信じられないような1年だったね。この素晴らしい1年を過ごしたからこそ、受賞できる可能性はあると思う」

    「でも、自らキャンペーンを張る必要があるとは思わない。ワールドカップとラ・リーガを勝ち取ったこの1年を誇りに思っている。これ以上求めるものはないよ。本当に素晴らしかった選手は他にもいるし、それを決めるのは記者たちの仕事だ。僕が何かを懇願するつもりはないね」

  • バロンドール=ゴール数ではない

    Khvicha Kvaratskhelia PSG 2026-27
    Getty

    エンバペよりもヤマルの方がバロンドールに近いという意見も多いが、それは2つの大会で優勝したからだけではない。エンバペが決定力の高いフィニッシャーとして輝いた一方で、ヤマルはバルセロナの攻撃全てを支配していた。41ゴールに直接関与し、オープンプレーでのチャンス創出は「107回」。これは欧州5大リーグ最多である。バロンドーラーには、それだけの影響力が求められるのだ。

    同日に発表されるゲルト・ミュラー・トロフィーは、単一シーズンにおける最多得点者を称えるために創設されたものだ。どちらかと言えば、エンバペはこの賞に値するかもしれない。とはいえ、昨季はハリー・ケインがバイエルンとイングランド代表で73ゴールを奪っているため、確実に受賞を逃すことになるにはなるが……。

    バロンドール争いにおいて、もちろんその勝負強さは評価されるべきだ。しかし同時に、芸術性と献身性も同じだけ重視されるべきである。

    この評価を軸に考えると、ヤマル、そしてクヴァラツヘリアで今年のバロンドールは争われるべきなのかもしれない。両者は圧倒的なドリブルと独創的なプレーで周囲に強烈な刺激を与え、見るものすべてを楽しませる選手だからだ。

    クヴァラツヘリアは昨季、チャンピオンズリーグ16試合で17ゴールに関与。ノックアウトステージ7試合連続でゴールに絡んだ史上初の選手となった。自らの意思で試合を動かし、自らの意思で試合を決めている。文句なしの評価に値するだろう。

  • 勝利をもたらす存在

    messi
    (C)Getty Images

    そしてこうした資質こそが、メッシに8度のバロンドールをもたらしている。ピッチ上での総合的な影響力を見ると、2009年から2023年までの間、彼に匹敵する選手は誰もいなかった。毎年彼がゴールデンボールを手にしていたとしても、まったく不思議ではないはずだ。

    しかし来月、メッシが9度目のバロンドールを受賞すれば驚きだ。選考パネルはヨーロッパでプレーする選手を選ぶはずだからである。この選考期間中、彼はMLSでの30試合で52ゴールに関与するという途方もない記録を残したが、大きく評価はされないだろう。MLSはプレミアリーグ、ラ・リーガ、ブンデスリーガ、セリエA、リーグ・アンより劣ると見られているのが現状だ。

    それでもメッシは、未だ世界最高レベルにいることをワールドカップで証明した。彼が決めた8ゴールの内、最低でも3つはアルゼンチンにとって決定的だった。39歳となった今でも大国アルゼンチンで最も影響力を持つ選手であり、その点においてエンバペはまだ及ばないだろう。

    さらに昨季で言えば、ケインも十分に受賞の資格がある。それはゴールだけでなく、ビルドアップや守備でも圧倒的な貢献を果たし、様々な形でバイエルンとイングランドを勝利に導いた。彼もエンバペよりバロンドールに近い存在と言えるかもしれない。

  • “世界最高”の選手

    France v Sweden: Round Of 32 - FIFA World Cup 2026
    Getty Images Sport

    では、エンバペが喉から手が出るほど欲するバロンドールを手にするためには何が必要なのか?

    メッシのような完全無欠で絶対的な存在になる必要はない。むしろ、時代背景も含めてそうなることは不可能だからだ。彼に求められるのは、昨年のバロンドーラーを見習うこと。そう、ウスマン・デンベレのように真の意味でハードワークをこなし、チームを勝利に導くことだ。

    素行不良や献身性について散々批判されてきたデンベレだが、ルイス・エンリケの指導によって真の意味で“モンスター”になった。ピッチ上の様々な場所に顔を出して攻撃を構築するだけでなく、鋭い眼光でボールホルダーを睨み、強烈なプレッシングでPSGを牽引し続けた。フィニッシュフェーズでの驚異的な結果はその副産物である。

    これはバルセロナで覚醒したハフィーニャも同様だ。彼もかつては好不調の波に苦しんだが、ハンジ・フリックの指導によってボールの有無関係無しに圧倒的な存在感を放つようになっている。エンバペも彼らと同じく、シャツを汚しながら全力でチームを助け、勝利をもたらす存在になる必要がある。モウリーニョが彼の中からそれを引き出せれば、バロンドールはそう遠くない将来で手にするはずだろう。

    しかし現状、それは難しいかもしれない。エンバペは今週、デンベレやハフィーニャのような現代的なFWから主に守備について学ぶ必要があるかどうかを問われ、こう答えていた。

    「もちろん僕たちは改善していかなければならない。選手としてはそれが普通だと思うけど、ただ僕から馬鹿げたことを言わせてもらえば、自分は君が言った選手たち(デンベレ&ハフィーニャ)よりもゴールを決めることができるし、だから彼らは僕のようにもっとゴールを決めるべきなんじゃないかな?」

    「選手は一人ひとり違うんだ。ただ、僕は色々なことをスマートにやりたいし、もちろん改善が必要だと言わせてもらう。でも、自分はそういった比較が好きじゃないんだよ。だって僕は、ほかの選手たちがしていないようなことをたくさんしているんだから」

    27歳の彼は、自ら認めるように改善すべき点がたくさんあるのは明らかだ。他の選手が夢見るようなゴールを決めてきたのは確かだし、世界最高レベルの選手であることは間違いない。だが、“世界最高”ではないのだ。チームよりも自分を上に置くような意識が変わらない限り、ゴールデンボールがその手に渡ることはないだろう。