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三笘薫が選ばれた「スター」である理由:現代サッカー最高峰のドリブルとそれを可能にする頭脳【徹底分析】

日本代表として出場したカタール・ワールドカップで衝撃を与えた三笘薫。その活躍は所属するブライトンに戻ってもとどまることを知らず、連日世界を騒がせ続けている。

ロベルト・デ・ゼルビ監督率いるブライトンでW杯後にレギュラーへと定着すると、切れ味鋭いドリブルで相手を翻弄するだけでなく、公式戦9試合で5ゴール1アシスト。FAカップ4回戦・リヴァプール戦(2-1)の衝撃的な決勝ゴールやボーンマス戦(1-0)のヘディング弾など、好調なチームに勝ち星をもたらし続けている。毎週のように各メディアのマン・オブ・ザ・マッチに輝き、各国特集が組まれるほど、「時の人」として躍動している。

絶賛を集める三笘だが、なぜこれほどの活躍ができるのだろうか? スペイン大手紙『as』で試合分析を担当し、長らく日本代表の分析を続けるハビ・シジェス副編集長は「誇張でもなんでもなく、とにかく驚異的」とそのプレーを絶賛する。そして、彼のドリブルが止められない理由を紐解いてくれた。

文=ハビ・シジェス/スペイン紙『as』副編集長

翻訳=江間慎一郎

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    驚異的な活躍とさらなる進化

    ワールドカップから予感はあったのだ。三笘薫(25)はブレイクを果たし、フットボールのエリート界に居座ることになった……いや、居座るだけではない。いったいどこまで昇っていくのかは誰にも見当がつかない。予感のその先、彼の明確な未来がどんなものであるのかは。

    ブライトンでの活躍は誇張でもなんでもなく、とにかく驚異的だ。三笘について現在までに分かっていることは、ほんの一握りしかたどり着けない境地にいる選手ということ。彼の最大の売りは突破力あふれるドリブルではあるが、その影響力は1対1の局面だけにとどまらない。彼にはまだ何かがある。まだ、進化の途中なのだ。

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    なぜドリブルは止められないのか?

    三笘という選手のプレークオリティーについて、議論する余地はもうほとんど残されていない。ただブライトンのイタリア人指揮官ロベルト・デ・ゼルビは、「たとえ人生最高の試合でなくても彼はゴールを決めてしまう」と、この日本人にはプレークオリティー以外の、選ばれし者の才能があることを強調していた。そう、三笘には様々な状況で強烈なインパクトを残すための先見性が備わっている。彼がいれば、どんなことだって起こり得るのだ。その証左は、直近の7試合で直接的に7得点に絡んだこと。もちろん数字がすべてではないが、私たちがこの目で見たことの確認にはなる。

    三笘はフットボールそのものと言うべきか、フォーメーションという概念に無理に当てはめる必要のない選手だ。彼はどんな戦術にも適応する……もしくは、どんな戦術も彼に適応する。デ・ゼルビの基本フォーメーション1-4-2-3-1にはまっているばかりか、この前の試合(ボーンマス戦)のように偽ウィングバックとしての役割でも手応えを感じさせた。利き足とは逆の左サイドで、三笘はチームに多種多様な可能性をもたらすことができる。

    ペルビス・エストゥピニャンとの相互関係は強みだ。エクアドル人DFがオーバーラップすれば、三苫と使用するスペースが重なる可能性もあるのだが、彼らはお互いを見事に補完している。エストゥピニャンは基本的に三笘にスペースを与え、日本人が内に絞ってプレーするときにのみ自ら縦に進んでいく。そうした約束事から鑑みるに、デ・ゼルビが駆使するシステムは三苫にやりづらさを感じさせないよう仕組まれているわけだ。三笘は対戦相手が攻めようが守ろうが、文脈に関係なくそのフットボールをごく自然に、流れるように表現できている。リヴァプール戦のように走るスペースがあればトランジションで威力を発揮し、相手が引いて守るチームならばポジショナルな攻撃において最たる違いを生み出す選手となる。

    三笘が速攻でも遅攻でも輝くのは、第一にそのドリブル能力によって。現在のフットボールシーンにおいて、彼ほど突破力がある選手は数えるほどしかいない。頭は常に上がっていて、それでいてボールは足にくっつき、左右どちらからでも突破が可能……相手にしてみれば対応しづらいことこの上ない。引きつけて、1000分の1秒の緩急で前へ踏み出すと、もう止めることは不可能だ。

    加えて、三笘はプレーを読むのがうまく、攻撃においては選択を間違えることがほぼない。モイセス・カイセド、パスカル・グロス、アダム・ララーナがDF陣を引きつければ、内に絞って生じたスペースにボールを持ち運び、ワン・ツー、シュート、サイドチェンジなどの選択肢から最適解を選び出す。その際、エストゥピニャンが縦を突くことで三笘の確保するパスコースは増えているわけだが、もし三笘とほかのチームメートとの距離が離れていれば、エストゥピニャンは日本人のそばに寄ってマークを分散させる。フェイントを仕掛け続ける三笘は、内に切れ込むだけでなく外からクロスを送ることもあり、外を選択するときには自分側のセンターバックのカバーを強要。センターバックを引きつけながらゴールライン近くまで突き進んでくと、そこから手薄となった中央に左足でボールを折り返す。リヴァプール戦では、トレント・アレクサンダー=アーノルドが彼に付いていくべきかどうかで四苦八苦していた。

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    ドリブラー以外のポテンシャル

    こうして、三笘はほぼ唯一無二のドリブラーとして君臨するわけだが、ドリブラーのレッテルを貼るだけではあまりにもったいない選手でもある。例えば、彼はサイドバックとセンターバックの間にあるスペースや、マークする選手の背後を巧みに突くことができる。その動き出しは狡猾かつ鋭く、もっと繰り返したっていいだろう。彼はときに、足元にボールを求め過ぎるきらいがある。

    三笘はそうしたボールのない動きのほか、中央のレーンでインサイドハーフのように振る舞うことも、相手を後ろに背負ってポストプレーをすることもできる。何となればファーストタッチの技術が高く、連係プレーで生かすことができるためだ。さらに、彼はゴールとも遠い関係にあるわけではない。違うサイドでプレーが展開しているときには前進して、シュートのポジションを取るよう心掛けている。ボーンマス戦、ヘディングシュートでネットを揺らしたのは決して偶然の産物ではなかった。

    無論、彼にも改善すべき点はある。チームがボールを奪われた後に仕掛けるプレスは断続的……彼の能力を考えればもっと相手を圧迫できるはずだ。また後退守備の際にチームメートとの連係が拙く、相手選手の監視も甘くなっている。まあ、それらは攻撃的選手が抱えることを常としている問題ではあるが。もっと深刻なのは自陣深くなどリスクを冒すべきではない場所で不用意なプレーを選択してしまうことだが……いずれにしろ、そうした不足分で三笘は責められるべきではない。彼のポテンシャルをさらに引き上げるための改善点と捉えるべきだ。

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    三笘は“持っている”

    プレミアリーグ、ひいては欧州フットボールシーンの重要な位置を占め始めた三笘。彼が試合において違いを生み出せる、極めて希少なタイプの選手であることは間違いない。どんなに難しい試合であっても、ファンがその一瞬の閃きに期待をかける選手であることは……。そう、彼はたとえ人生最高の日ではなくても、その神が宿るディテールでもって決定的な活躍を見せてしまうのだ。三笘は“持っている”。その身に星を宿している。俗に言えば、彼のような存在こそ「スター選手」と呼ぶのである。