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カイセドからホイルンドまで…2023年の移籍市場が狂ったことを証明する10の取引

2016年当時、ユルゲン・クロップはクラブが1億ポンドを1人の選手に費やすのを見たくないと語っていた。「これがサッカーになるならば、私はもう仕事をしない」と。そのため、レッズがモイセス・カイセドに1億1000万ポンという途方もないオファーをしたことが確認されると、ライバルクラブのサポーターからは「クロップは辞任するのか」と挑発的な質問も飛び出した。

もちろん、「ネイマール効果」によって、移籍市場はここしばらくの間、制御不能に陥っている。パリ・サンジェルマンがブラジル代表FWのバルセロナとの契約解除条項である2億2200万ユーロを満たすという、実にショッキングな決断を下したことで、ワールドクラスのタレントが巨額の移籍金でクラブを移籍するという波紋が広がった。特筆すべきは、これらの契約のほぼすべてが悲惨な結果となったことだ。

しかし、今私たちが目にしているのは、それとは違う、さらに非論理的なものだ。2023年、経験も実績もない選手たちが破格の移籍金で移籍している。つまり、クロップの言う通り、移籍市場は完全におかしくなっているのだ。GOALでは、2023年に起きた馬鹿げた10の取引を紹介していく。

  • Harry Kane Bayern Munich 2023-24Getty Images

    10ハリー・ケイン(トッテナム→バイエルン,1億ポンド)

    ハリー・ケインがトッテナムを去ることになれば、巨額の移籍金が動くことはわかっていた。だから、彼がついに1億ポンド以上で移籍したという事実は、大きな衝撃ではない。彼はワールドクラスの選手であり、これまでもそうだったからだ

    しかし、ケインがこのリストに入った理由は、買い手の正体にある。バイエルン・ミュンヘンはドイツで最も裕福なクラブだ。ライバルのベストプレーヤーをかっさらうことで定評を得ている。2019年にリュカ・エルナンデスに8000万ユーロという途方もない大金を支払ったのは記憶に新しいが、バイエルンは欧州のエリートの中では比較的慎重な方だと自負してきた。

    前CEOのカール・ハインツ・ルンメニゲが、バイエルンなら33歳のクリスティアーノ・ロナウドに1億ユーロを払うことはないと主張したのは有名な話だ。また、伝説的なローター・マテウスも数カ月前、ケインはかつて所属していたクラブにとって「高すぎるし、歳を取りすぎている」と主張していた。

    つまり、バイエルンが実績のあるゴールスコアラーを獲得しようと躍起になり、30歳のケインに1億1700万ユーロを支払うのを見れば、移籍市場が本当に狂ってしまったことがわかるだろう。

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  • Luis Diaz Enzo Fernandez Chelsea Liverpool 2023-24Getty

    9エンソ・フェルナンデス(ベンフィカ→チェルシー,1億700万ポンド)

    エンソ・フェルナンデスは2022年ワールドカップ後に注目された。リオネル・メッシが奮い立たせたアルゼンチンがカタールで勝利を収めたとき、このMFは絶大な力を発揮していた。

    ベンフィカは売り手のクラブであり、その手法は素晴らしい。しかし、2022-23シーズン終了まで、フェルナンデスを現金化するつもりはなかった。特に、チャンピオンズリーグのノックアウトステージがまだ残っていたのだから。

    クラブのルイ・コスタ会長も、2つの理由からフェルナンデスの残留を確信していた。第一に、前年の夏にダルウィン・ヌニェスを6400万ポンドという破格の値段でリヴァプールに売却したため、資金繰りに行き詰まっていなかったこと。第二に、フェルナンデスの買い取り価格は1億2100万ユーロで、この金額に見合うクラブが現れるとは思っていなかったことだ。

    しかし、そこでチェルシーが登場した。

    ルイ・コスタは、22歳がシーズン終了までエスタディオ・ダ・ルスに残ることを望んでいたが、交渉の末、より少ない金額で退団するという契約を諦めた。

    その結果、ベンフィカはわずか半年前に1,000万ユーロで買い取った選手を、イギリス記録となる移籍金で売却することとなった。

    新監督と中盤の改革によって、ワールドカップ勝者は今シーズン、スタンフォード・ブリッジで才能を開花させるはずだが、チェルシーが契約を急ぐあまり、金を支払いすぎたという事実からは逃れられない。

  • Mason Mount Man Utd 2023-24Getty Images

    8メイソン・マウント(チェルシー→マンチェスター・U,6000万ポンド)

    メイソン・マウントとの契約は、何も腑に落ちない。彼はマンチェスター・ユナイテッドのボス、エリック・テン・ハーグにとって有用であることを証明できる万能性を誇っているのは明らかだ。しかし、彼はチームにとって必要不可欠な選手だったのだろうか? どんな形であれ、決してそうではない。

    ユナイテッドは、9番を除くすべての攻撃的ポジションにスタメンが揃っている。特に、もっと安い値段で優れた攻撃的ミッドフィルダーがいたことを考えればなおさらだ。ワールドカップ優勝者のアレクシス・マクアリスターにはブライトンとの契約に3500万ポンドの買い取り条項があり、レスターはジェームズ・マディソンを4000万ポンドで手放すつもりだった。

    では一体なぜユナイテッドは、全コンペティションを通じて35試合に出場してわずか3ゴールと、昨季苦戦したマウントに大金を投じる必要性を感じたのだろうか?

    ユナイテッドは、マウントが2年前にプレミアリーグで通用する選手だった頃の姿を取り戻すという大きな賭けに出たのだ。

  • Kai Havertz Arsenal 2023-24Getty Images

    7カイ・ハヴァーツ(チェルシー→アーセナル,6500万ポンド)

    カイ・ハヴァーはチェルシー史上最も貴重なゴールのひとつを決めたが、6200万ポンドの移籍金に見合う活躍はできず、とんでもない無駄遣いとなった。だが、ブルーズはどうにかして、マウリシオ・ポチェッティーノがスタンフォード・ブリッジで即座に余剰資金とみなした24歳の選手に300万ポンドの利益をもたらすことになった。

    アーセナルの獲得は本当に奇妙だった。だが、ミケル・アルテタは、チェルシーで91試合に出場して19ゴールしか挙げられなかったハヴァーツが、より低いポジションで活躍できると考えているようだ。

    ハヴァーツには攻撃的な資質がある。適正な移籍金であれば、賭けに出る価値はあっただろう。しかし、ガナーズは中盤のクオリティや創造性に欠けていたわけではない。そのため、ドイツでさえどこに配置すればいいのかわからない選手に、なぜこれほど大金を投じなければならないのか、その理由を探るのは至難の業だ。

  • Romeo Lavia Chelsea 2023-24Getty Images

    6ロメオ・ラヴィア(サウサンプトン→チェルシー,5800万ポンド)

    今夏、プレミアリーグで29試合に出場したロメオ・ラヴィアを巡って、リヴァプールとチェルシーが入札合戦を繰り広げた。

    リヴァプールは、中盤の長期的な解決策と見なすこの19歳の獲得に約4000万ポンドの移籍金を考えていたため、サウサンプトンの5000万ポンドの希望額に応じるつもりはなかった。

    しかし、ファビーニョとジョーダン・ヘンダーソンのサウジアラビア移籍を容認し、チェルシーがブライトンのモイセス・カイセドに1億1000万ポンドで競り勝ったことで、状況は一変。レッズはその後、“パニック・バイ”を強いられている。

    リヴァプールがラヴィアをチェルシーに奪われたことは、ユルゲン・クロップ監督にとって大きな問題となることは明らかだ。しかし、レッズの移籍金に関する認識は正しい。

    ラヴィアに5000万ポンドの価値はない。

    彼は素晴らしいポテンシャルを秘めた選手であり、スタンフォード・ブリッジでそれを発揮できるだろうが、73失点を喫して降格したチームの守備的MFだったことを忘れてはならない。また、ペップ・グアルディオラがマンチェスター・シティを去ることを止めなかったのは、このMFがエティハド・スタジアムであまり試合に出られないことを知っていたからだ。

    そのわずか1年後、チェルシーとリヴァプールの両チームが、プレミアリーグでの29試合の出場を根拠に、ラヴィアに大金を払おうとしたのは、まったく奇妙なことだ。

  • Rasmus Hojlund Man UtdGetty

    5ラスムス・ホイルンド(アタランタ→マンチェスター・U,7300万ポンド)

    17歳でプロデビューして以来、彼のキャリアを注視してきたデンマークの監督や評論家の多くは、マンチェスター・ユナイテッドが今夏、ホイルンドに6400万ポンドの移籍金と900万ポンドの追加移籍金を支払う決断を下したことに驚きを隠せなかった。2022年、コペンハーゲンはスタメンを勝ち取る実力がないと判断し、彼をわずか180万ユーロでシュトゥルム・グラーツに売却していたからだ。

    もちろん、それ以来ホイルンドは目覚ましい成長を遂げ、セリエAのサポーターなら、この20歳が昨シーズンのアタランタで有望な選手だったことを知っているだろう。しかし、それでもリーグ戦での得点は9ゴールにとどまった。若い選手としては称賛に値する数字だが、ホイルンドが新しいアーリング・ハーランドであることを示唆するものではなかった。

    さらに悪いことに、ケガの問題は最初の報道よりも深刻だという話もすでに出ており、ユナイテッドが彼のために多額の移籍金を支払っていなければ、若い選手にこれほどの監視の目が向けられることはなかっただろう。ホイルンドはゴールを決めなければならないというプレッシャーにさらされている。

    彼は明らかにトップストライカーの素質を持っているし、すでにデンマーク代表として国際レベルで輝きを放っている。しかし、この移籍金は法外であり、もしホイルンドがオールド・トラッフォードで即座に大成功を収めなければ、多くの批判にさらされるだろう。

  • Declan Rice Arsenal 2023 pre-seasonGetty

    4デクラン・ライス(ウェストハム→アーセナル,1億500万ポンド)

    「イングランド税」の最たる例。デクラン・ライスは非常に有能で多才な守備的MFだ。彼はすでにEURO2020で、そしてプレミアリーグでそれを証明している。アーセナルの関心も完全に理にかなっている。ライスはまさに、昨シーズンのタイトル争いでガナーズの中盤に欠けていたタイプの選手だ。

    しかし、1993年にイギリス史上最高額でマンチェスター・ユナイテッドに移籍したプレミアリーグの名選手、ロイ・キーンと比較されるのは、まったく馬鹿げている。ライスは、ニューカッスルが夏に6000万ポンドで獲得したサンドロ・トナーリほど多くの特徴を備えているわけではない。

    アーセナルがライスに9桁の移籍金を支払わなければならなかったという事実が、プレミアリーグのイングランド人選手の歪んだ価値を物語っている。彼らは本当の価値に約25%を上乗せするのだ。ウェストハムで見た通り、より前方でのプレーを要求されるたびに、彼の攻撃的限界は残酷に露呈する。

  • Malcom Al-Hilal 2023-24Getty Images

    3マウコム(ゼニト→アル・ヒラル,6000万ユーロ)

    実際のところ、この夏サウジアラビアのプロリーグのクラブに引き抜かれた選手には、いくらでもスライドを割り当てることができた。ネイマール、ファビーニョ、リヤド・マフレズ、ルベン・ネヴェスといったサウジアラビアのクラブが獲得した移籍金や給料に匹敵する金額を、ヨーロッパのクラブは考えもしなかっただろう。だからこそ、これらの選手たちは中東に移籍したのだ。

    しかし、アル・ヒラルがマルコムを6,000万ユーロで獲得したことは、この国の異常な出費を最もよく表していると言えるだろう。

    マウコムはゼニトで27試合に出場し23ゴールを挙げてロシア・タイトル獲得に貢献し、シーズンオフにはブラジル代表のキャップも獲得した。しかし、バルセロナ史上最大の失敗作の一人と契約するために、トップチームが列をなしていたわけではない。

    マウコムはデビュー戦でハットトリックを決めるなど、アル・ヒラルで大活躍しているが、それはサウジアラビアプロリーグのレベルを物語るものであり、彼の真価を示すものではない。

  • Mudryk ChelseaGetty

    2ミハイロ・ムドリク(シャフタール・ドネツク→チェルシー,8900万ポンド)

    アーセナルは、1月の移籍市場でチェルシーにミハイロ・ムドリクを横取りされたことに激怒した。しかし実際には、ロンドンのライバルは彼らに大きな恩恵を与えた。

    ムドリクはシャフタール・ドネツクでエキサイティングな将来を嘱望されていた。「ウクライナのネイマール」は素早く技術もあったが、チェルシーが6200万ポンドを支払うことに合意し、追加で2700万ポンドを支払う可能性もあった。

    結局のところ、当時のムドリクはウクライナ代表の先発が確定していたわけではなく、シャフタールではレギュラーに近い形でゴールを決め始めたばかりだった。トップチームでは65試合に出場していただけだったが、その不安はスタンフォード・ブリッジで現実のものとなり、ムドリクはいまだにチェルシーでの初ゴールを待ち続け、ほとんどの時間をベンチで過ごしている。

    22歳になったムドリクは、ウェスト・ロンドンでまだ力を発揮できるかもしれないが、現時点ではまだ、若く経験の浅い選手に高額な長期契約を与えるというブルーズの方針が持つ固有のリスクを浮き彫りにしているに過ぎない。

  • Moises Caicedo Chelsea 2023-24Getty Images

    1モイセス・カイセド(ブライトン→チェルシー,1億1500万ポンド)

    カイセドはとてつもない有望株だ。このエクアドル人は21歳で、すでにワールドカップでプレーし、得点を決めている。昨シーズンは、ブライトンがクラブ史上初めて欧州カップ戦出場権を獲得するのに不可欠な存在だった。アーセナルが1月に彼を獲得しようとしたのも、リヴァプールとチェルシーがこの夏に彼の獲得を争ったのも、正直驚きではなかった。しかし、最終的な移籍金はおかしなものだ。

    チェルシーの方針は、世界で最も有望な選手を獲得し、長期契約を結ばせることで、今後何年にもわたって世界を支配できるチームを構築することだが、イングランドのトップリーグでわずか45試合しか出場していない選手にプレミアリーグ史上最高額の移籍金を支払うことを決めた。クロップ率いるリヴァプールも同様に、まともな守備的MFを獲得しようと躍起になっていたことを忘れてはならない。

    カイセドがワールドクラスの選手になり得るという事実に異論を唱える者はいないが、彼が最高レベルでトップクオリティのパフォーマンスをコンスタントに発揮できることを示すまでには至っていない。プレミアリーグで45試合しかプレーしていないのだから。

    それに、「マーケットが価格を決める」という議論はここでは当てはまらない、ニューカッスルは、昨シーズンのチャンピオンズリーグでACミランの準決勝進出に貢献したイタリア代表MFトナーリを約半額で獲得していた。

    結局のところ、チェルシーは1月のフェルナンデス獲得で相場をつり上げた自分たち自身を責めるしかない。ブライトンがカイセドへの移籍金を設定する際、その取引を参考にしたと考えられているからだ。

    もちろん、チェルシーのオーナーは気にしていないようで、何が何でも移籍を実現させることが重要だったようだ。選手獲得にこれほど乱暴なアプローチを採用している以上、移籍市場がすぐに理性を取り戻す可能性はほとんどなさそうだ。