グループステージを1勝2分の2位で突破した日本代表が、いよいよラウンド32で優勝候補ブラジルと激突する。昨年10月の親善試合では日本が3-2で歴史的勝利を収めたとはいえ、W杯の一発勝負となれば話は別だ。
取材・文=河治良幸
重要な中盤の攻防。奪ってから速く攻撃へ転じたい
カルロ・アンチェロッティ監督率いるブラジルは「負けたら終わり」のノックアウトステージへ万全の準備を整え、日本への強い警戒心も隠していない。
森保一監督も「去年の勝利によって、ブラジルはさらにモチベーション高く向かってくる」と語る一方、「勝つチャンスがあることは分かった」と前向きな姿勢を崩さない。過去の壁を越えるため、日本はどのような11人で世界最強クラスの相手に挑むのか。
久保建英の欠場が決まり、最も大きな焦点となるのは2シャドーの構成だ。右シャドーには途中出場で流れを変えてきた伊東純也が入り、左には鎌田大地という組み合わせが有力とみる。
守備陣ではキャプテン板倉滉がスウェーデン戦で前半のうちに交代したこともあり、谷口彰悟が中央に入り、右に冨安健洋、左に伊藤洋輝という3バックになる可能性が高い。GKはここまで安定感抜群の鈴木彩艶がゴールマウスを守る。また、右ウイングバックは堂安律、左は中村敬斗が基本線だが、ブラジルに押し込まれる時間が長くなる展開を考えれば、守備力を重視して鈴木淳之介を左で起用する選択肢も十分考えられる。
日本が勝機を見出すうえで最も重要になるのが、中盤の攻防だ。
ブラジルはカゼミーロ、ブルーノ・ギマランイス、ルーカス・パケタという世界屈指の中盤を擁し、ボール保持から試合を支配する力を持つ。しかし、その相手に真正面から付き合う必要はない。佐野海舟と田中碧のダブルボランチには、高い守備強度でブラジルの中盤に自由を与えず、ボールを奪った瞬間には素早く縦へ運ぶ役割が求められる。
佐野が潰し役としてセカンドボールを回収し、田中が前向きに運びながら攻撃へ転換する。このテンポが出れば、日本はブラジルが守備を整える前にゴールへ迫れる。ブラジルにボールを持たれる時間は当然長くなる。しかし、耐えるだけではなく、奪ってからどれだけ速く攻撃へ転じられるか。その質こそ勝敗を左右する。
ブラジル最大の武器・ヴィニシウス
gettyブラジル最大の武器は左サイドのヴィニシウス・ジュニオールだ。
ここまで得点ランク上位の4得点。圧倒的な突破力と個人技は世界最高峰だ。ただ、その一方で守備への戻りにはムラがあり、背後にスペースが生まれやすい。このブラジルの「強みの裏側」が、日本にとって最大の攻略ポイントになる。森保ジャパンは右シャドーの伊東純也と右ウイングバックの堂安律で、このエリアを集中的に突いていきたい。
伊東のスピードでヴィニシウスの守備対応を後手に回し、堂安がインナーラップやオーバーラップを繰り返す。さらに冨安健洋から対角線のフィードが入れば、一気に局面をひっくり返すことができる。ブラジルの左サイドバック、ドウグラス・サントスも攻撃参加が持ち味だけに、その背後は日本が最も狙うべきスペースになるだろう。
3バック右に入ると予想される冨安健洋は、守備ではヴィニシウスとの1対1を任される可能性が高く、日本の守備陣でも、個の能力でワールドクラスのアタッカーに対抗できる存在だ。
この試合で期待したいのは守備だけではない。ヴィニシウスが高い位置に残ることで、その周辺にはビルドアップの出口が生まれる。冨安が落ち着いてボールを持ち、縦パスやロングフィードを供給できれば、日本は前線へ素早くボールを届けられる。単なるストッパーではなく、攻撃の起点としての冨安にも大きな期待が集まる。
鈴木彩艶をアンチェロッティ監督も警戒
Getty Imagesもう一人、守備面で重要な存在になるのが鈴木彩艶だ。ブラジルのアンチェロッティ監督は会見で、「日本の選手を一人選ぶなら鈴木彩艶。私の故郷でもあるパルマで、非常によくやっていると聞いている」と名前を挙げた。日本が世界に誇る若き守護神への評価は高く、その存在をブラジル側も十分に認識しているということだ。ヴィニシウス、マテウス・クーニャ、新鋭のハイアンらが繰り出す決定機を確実に止めていきたい。
また、PK戦までもつれ込む可能性も十分ある。森保監督は「今回はPKキッカーを私が決める」と明言しており、120分を見据えた戦いになることは間違いない。鈴木彩の存在は90分だけでなく、延長戦、PK戦まで含めた日本最大の武器になる。
ノックアウトステージでは、スタメンだけで勝負は決まらない。
ここまで途中出場で存在感を示してきた小川航基は、「120分戦った時に、ベンチ組の質なら僕らは絶対に自信がある」と胸を張った。オランダ戦で同点劇を呼び込むなど、ジョーカーとしての信頼が厚い小川はもちろん、鈴木唯人、後藤啓介、塩貝健人、さらには今大会まだ出場のない追加招集の町野修斗にも出番が巡ってくる可能性は十分ある。
小川は「その『チャンスをモノにするかしないか』というところでは僕はモノにできる。その期待に(応えられると)思っているし、信じています」と力強く語った。
森保ジャパンはグループステージ3試合で多くの選手を起用し、層の厚さを証明してきた。森保監督も「全員がチームのために貢献しようという雰囲気は非常に上がってきている」と手応えを口にする。
ブラジル相手に90分で決着がつかない可能性も十分ある。だからこそ、この試合はスタメン11人だけではなく、ベンチを含めた総力戦となる。世界屈指の個を誇るブラジルに対し、日本は組織力と運動量、そして層の厚さで対抗する。昨年の勝利で得た自信を胸に、歴史を塗り替える90分、あるいは120分が始まろうとしている。

