◾️中立的な観客を味方にした日本
まさにチームとサポーターの“共闘”で手にした勝点1だった。
オランダ相手に1点を追いかける後半30分過ぎ、ダラス・スタジアム全体が『バモニッポン』のチャントに合わせた大きな手拍子で埋め尽くされる。10万人収容の巨大なスタジアムが完全なホームとなり、森保ジャパンを後押しする箱へと変化した。そして88分に生まれた歓喜の同点ゴール──。ベンチから試合を見ていた新キャプテン板倉滉は、スタジアムの雰囲気と同点弾の因果関係についてこう語る。
「こんなに日本からお客さんが来てくれているのかと思った。前回のカタール大会でもそうでしたけど、試合の中でサポーターが(スタジアムを)日本の雰囲気にしていく。それは前回もプレーしながら感じていたし、今日も非常に感じた。めちゃめちゃ自分たちの力になるし、あの雰囲気が2点目をもたらしてくれた。そういう雰囲気に持っていく戦いをできたのも自分たちだと思うし、次につながるいい試合だった」
日本代表のワールドカップでは、間違いなく過去最大級にスタジアム全体を巻き込んだ応援だったと言っていい。選手たちはキックオフから気持ちを前面に押し出した積極果敢なプレーで“中立”的なお客さんの心を奪い、ゴール裏に陣取った日本サポーターはチームが戦況を見極めながら戦い方を選択していくように、試合の流れを読んで応援をコントロール。そして勝負どころでスタジアム全体を“ホーム”へと変えた。
◾️試合前からの仕掛け
Getty Imagesスタジアムを巨大なホームにした“巻き込み力”は、試合前から仕掛けられていた。
試合前には日本から持ち込んだ約2500枚の青いポリ袋を歌いながら配り、試合中はシンプルに『ニッポン』コールと『バモニッポン』のチャントをやり続けることで応援を覚えてもらおうと試みた。
試合中の応援にも工夫がなされていた。ピッチ内でオランダにボールを持たれる時間が長くなり、0-0で時間を経過させながら“ひと刺し”を狙いたい展開になった前半は、チームと同様に流れを見ながら落ち着かせつつ、応援も後半勝負を仕掛けようと判断。あえて“イケイケ”の状態は作らず、守備で奮闘する選手たちを支えるような応援を選択した。そして選手交代を経るごとにボルテージを上げていき、様々な仕掛けを経た終盤に『バモニッポン』の歌に合わせてスタジアムが力強いホームとなって同点ゴールを呼び起こすことにつながった。
オランダ戦を翌日に控えた公式会見、「逆境に立ち向かうメンタル」について聞かれた森保一監督が、ピッチ内のプレーだけでなく、日本代表サポーターの応援について言及していた。
「試合の流れが悪くなったら集中が切れてしまうことは、世界のサッカーを見ていてよくあること。でも、日本人はピッチ内、そしてスタンドで一緒に戦ってくれているサポーターも、試合内容に関わらず粘り強くプレーをし続けられる。戦い続けられる。戦い抜くことができる。先人、先輩からの歴史を受け継いで、ワールドカップに出ようというフェーズからワールドカップ優勝という目標に向かっていくところにある。そういうバトンを自分だけじゃなくて、歴史をつないでいく力があるのは日本人だと思う」
◾️ジョホールバルから続く青のサポート
Getty Images思えば日本が初のワールドカップ出場を決めた1997年の“ジョホールバルの奇跡”でも、『ドラえもん』のビッグフラッグと青い風船をマレーシアに持ち込んで、中立地でのイラン戦をホームに変えていた。翌年のフランス大会からは青いポリ袋を持ち込んでスタンドを青く染めるムーブメントがスタートし、その後もどうやってスタジアムを巻き込むかを地道に取り組んできた経緯がある。
チームがワールドカップの戦い方を積み上げてきたように、サポーターも試行錯誤しながらスタジアムの巻き込み力をつけてきた。板倉が話していたとおり、カタール大会のドイツ戦、スペイン戦、今回のオランダ戦と強国相手に結果を出してきた裏側にはサポーターが伝統的に取り組んできた雰囲気づくりがあったというわけだ。
今大会の青いポリ袋は、決勝進出を視野に入れて15,000枚を準備。回収しながら最高の景色を目指す。これは日本サッカー協会(JFA)のパートナーでもあるアパホテルが提供しているが、JFAを介さずにサポーター有志からの提案で実現。「JAPAN PRIDE」という標語だけを記載し、ロゴを入れずにマーケティング目的ではない純粋な裏側でのサポートだという。
試合後、今回も青いポリ袋でスタンドのゴミ拾いをする日本サポーターがSNSで世界中から称賛された。ロッカールームを綺麗に整えてスタジアムを出る日本代表チームと合わせて世界に誇るマナーとなっている。だが、歴史と想いを積み上げてきたサポーターの取り組みが真の意味でチームと共闘していることもまた、自信を持って世界に誇れるものだと思う。
大会はここからが本番。ゴール裏サポーターの中心メンバーは、「日本代表を応援するムーブメントをアメリカ、メキシコ、カナダの開催地すべてで大きくさせていって、みんなが日本を応援するような流れを作りたい」と意欲を見せる。
日本代表が見せる入魂の戦いとサポーターの盛り上げが北中米エリア全体を席巻していく。それこそが“最高の景色”につながっていくはずだ。森保監督が重視してきた歴史と共闘──。それを結果につなげるために、ピッチでプレーする選手たちとともに、サポーターもスタンドで戦っている。
文=青山知雄


