マンチェスター・ユナイテッドがリーグタイトルを獲るためには何が必要だろうか？
もし、夏の移籍市場の前に元選手や専門家に尋ねたなら、90%は「ワールドクラスのセンターバック」と答えていただろう。
ラファエル・ヴァランがオールド・トラッフォードにやってくることになった今、そのミッションはほぼ達成したように見える。
攻撃陣にタレントを多く抱えていたにも関わらず、チームはセットプレーの守備に課題があり、自分たちの首を締めていた。2月にエヴァートンと3-3で引き分けた際には試合中2度も追いつかれた。昨シーズンのタイトル争いの「終わりの始まり」を意味していたこの試合は、結局ユナイテッドの現状を集約する形になった。
この試合の前半には素晴らしい攻撃力を見せたにも関わらず、終了間際の同点弾を含む枠内シュート3本で3失点を喫し、勝利をふいにしてしまったのだ。
これはチャンピオンの姿ではないだろう。
2013年にアレックス・ファーガソンが監督業を退いて以降、ユナイテッドは厳しいタイトル争いに勝てずに苦しんでいる。その間に宿命のライバルたちがディフェンスの即戦力と契約してタイトルに直行していくのを目撃してきた。
Getty/Goalヴィルヒル・ファン・ダイクはリヴァプールが30年待ち望んだリーグタイトル獲得の立役者に。一方、ルベン・ディアスは昨シーズンのマンチェスター・シティに大きな変化をもたらし、同じくリーグ優勝に貢献した。
だが、この二人の移籍金はそれぞれ7500万ポンド（約114億円）と6200万ポンド（約94億8000万円）。その後高みに到達した二人だったが、移籍までに最高レベルでの成功体験はなかった。
しかし、ヴァランは違う。
■輝かしいキャリア
Getty Imagesスールシャールは勝者のメンタリティを備えた選手をチームに加えたがっていた。ヴァランはそれに値する選手のはずだ。
ユナイテッドは今夏、3400万ポンド（約52億円）を先立って支払う。この選手は4回のビッグイヤー獲得、3回のラ・リーガ制覇、1度のコパ・デル・レイ、ワールドカップ優勝など華々しいキャリアを誇る。3400万ポンドはこれだけの成功体験に十分見合う投資だろう。
同じく新加入のジェイドン・サンチョはスリリングな攻撃をチームに加え、多くのゴールをもたらすだろう。一方のヴァランに求められることは、レッドデビルズがピンチのとき、ここ最近及ばなかった一線を超える力を与えることだ。
ヴァランなら赤いユニフォームを着た瞬間からチームを上向かせてくれるだろう。ヴィクトル・リンデロフがダメなDFというわけでもない。どちらかというと、リンデロフとハリー・マグワイアが互いを引き立て合っていないのだ。だが、ヴァランが加入したことで彼とリンデロフ、彼とマグワイアというコンビを試すことができる。これはリンデロフとマグワイアにとっても朗報となるだろう。
ユナイテッドが昨年喫した失点は44。チャンピオンとなったシティよりも多いだけでなく、ファン・ダイクを欠いたリヴァプールよりも、好不調の波が激しかったチェルシーよりも、苦しいシーズンを送ったアーセナルよりも多かった。
スールシャール監督も「後方を引き締めないといけない。守備面では失点を喫しすぎた」と認める。それだけにヴァランがもたらす影響を期待する人々は多いはずだ。それは守備面だけに限らない。
■攻撃面でも好影響か
GFX Getty Goalヴァランに対してクラブは4100万ポンド（約62億7000万円）の支払いになるが、彼はその額に見合った活躍を見せることだろう。ヴァランはユナイテッドのバックラインに間違いなく変革を起こすはずだ。そしてヴァランが安定性をもたらせば、スールシャールが布陣を変更することも考えられる。
以前、このノルウェー人監督は中盤にダブルボランチを敷く4-2-3-1の陣形を好んでいた。フレッジとスコット・マクトミネイのコンビや、ポール・ポグバとネマニャ・マティッチのコンビが選ばれ、打たれ弱いディフェンス陣の前に盾を作っていた。
だが守備の崩壊が収まれば、スールシャールはさらに一人守備的ミッドフィルダーを置いて、より攻撃的な4-3-3にシフトするだろう。そうすることでポグバのような選手を守備のタスクから開放し、一列前に送ることができるかもしれない。
そういうわけで、ヴァランはユナイテッドが欲してきた守備の要というだけではなく、チームの攻撃陣を形成するために重要な存在になりうるのだ。
3400万ポンドにして、これ以上望めないほどの存在なのだ。