Takehiro Tomiyasu Ronaldo

【独占】「冨安健洋にはC・ロナウドのメンタリティがある」アーセナル“Newヒーロー”成長の秘密をSTVV幹部が語る

3試合、3勝、失点1。

移籍市場最終日にボローニャからやってきたこの日本代表DFは、これ以上のスタートを夢見ることはできなかっただろう。冨安健洋はアーセナルでの最初の数週間で強烈なインパクトを残しており、「土壇場のパニック・バイ」と嘲笑した人々を逆にあざ笑うかのようなパフォーマンスだ。

彼が加入した当時、アーセナルはプレミアリーグ開幕3連敗&9失点で、最下位に沈んでいた。それから1カ月弱が経過し、順位は10位まで浮上。ノリッジ(1-0)、バーンリー(1-0)、トッテナム(3-1)との試合で獲得し得る最大の勝ち点を掴み、2度もクリーンシートを達成している。

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ミケル・アルテタのチームは目覚ましい成長を見せている。その中心に、この新加入の右サイドバックがいる。堂々たるプレーで3試合を戦い、ノースロンドン・ダービーではファンの選ぶマン・オブ・ザ・マッチにも輝いた。空中戦は16回中14回を制し、10回のクリア、3回のタックル、2回のインターセプトを記録。デュエル勝率は「76%」にも上る。彼がアーセナル9月の月間最優秀選手にノミネートされたのは、何ら不思議ではない。

■「クリスティアーノ・ロナウドのメンタリティ」

2018-10-30-sint-tomiyasu(C)STVV

彼がノースロンドンにもたらした即効性あるインパクトは、イングランドの人々を驚かせただろう。だが、2018年に冨安を初めて欧州へ連れてきたシント=トロイデンのスポーツディレクター、アンドレ・ピントにとっては何の衝撃もない。

「トミの素晴らしいところは、成功につながらないものは何1つ受け入れないことだ」。『Goal』の独占インタビューで語ってくれた。「運が良いわけでもないし、そうだからといって彼に何かが起こるわけでもない。彼はただ、一生懸命に働く男なんだ」

「献身的な選手はたくさんいるよ。でも、彼はクリスティアーノ・ロナウドのメンタリティに少し似ている。決断力や努力、健康的な食生活もね。決して現状に満足しないタイプだ。常に自分を成長させるために努力し続けるだろう」

故郷のアビスパ福岡で10代から活躍していながら、自分の進みたい道は決まっていた。彼の野心はプレミアリーグにあった。そしてそれは、2016年にマンチェスターで行われたU-19イングランド代表との試合(1-5)で膨らんでいった。

「あの試合は、僕がプレミアリーグでプレーしたいと思った大きな理由の1つです」。冨安はアーセナル公式HPで語る。「僕はほとんど何もできませんでした。あの時、『いつかイングランドでプレーできるレベルにならないと』と確信しました」

当時、冨安は17歳。それからわずか5年後、まさに自分の理想とする場所にいる。そしてアーセナルでの生活と同じように、イングランドへ向かう旅はあっという間だった。

彼がシント=トロイデンに加入したのは2018年1月、日本企業『DMM』が経営権を取得した直後のことだった。ピントはFC東京での経験からSDに就任したばかりだったが、獲得すべき最初の選手はすぐに思い浮かんでいたという。

「FC東京で立石敬之CEOと働いていたから、トミのことは知っていた。当時19歳だったが、そのポテンシャルの高さに注目したよ。188cmの身長で、スピード、フィジカル、テクニックを兼ね備えた選手はめったにいない」

「加入したときは足首を痛めてリハビリに努めていたが、我々は信じていた。ドクターに『ケガをしているから契約はできないよ』と言われたけどね。そこにCEOが出てきて、『彼を獲得してもいい。私が保証する』と言ったんだ。それくらい、トミには自信があった」

■「だって、アーセナルなんだから」

20210911_Takehiro Tomiyasu_Arsenal(C)Getty Images

最初の半年間は1分しかプレーできなかったが、夏の監督交代の後、2018-19シーズンには目覚ましい活躍を披露。サポーターの選ぶシーズン最優秀選手に輝いた。だがこのシーズンが、彼にとって唯一のベルギーでのフルシーズンとなる。

「トミはそのシーズンを支配し、何度も素晴らしい試合を見せた。あのシーズンの最初の3~4ヶ月で、彼を引き留めるのは難しいとわかっていたよ。もちろんベルギーは非常に興味深い市場であり、全てのスカウトが若手選手を視察に来る。だから彼はあらゆるクラブの関心を集めた」

2019年に退団することは明らか。ヨーロッパ中のクラブが関心を持っていたが、行き先は決まっていたという。プレミアリーグが目標であることは変わらないが、その前に1つ行きたい場所があったようだ。ピントは振り返る。

「カギは、トミが常に自分が何をしたいか理解していたこと。次のステップはイタリアへ行って最高のディフェンススタイルを学び、(パオロ)マルディーニを輩出したような国でプレーしたかったんだ」

「彼を追っていたクラブの中でボローニャは一歩先を行き、本人も望んでいた。移籍金はクラブ史上最高額だ。ベルギーリーグとしてもその1つになるね」

2019年7月に600万ポンド超えで移籍した冨安は、イタリアでもすぐにインパクトを残す。すぐに言語を覚え始め、セリエAの要求に素早く適応し、4バックのあらゆるポジションで多才ぶりを発揮する。イタリアでの1シーズン目に29試合、2シーズン目は31試合もピッチに立った。

その活躍にアタランタがすぐさまアプローチしてきたが、イングランド移籍の夢は膨らんでいた。今夏の初めにはトッテナムが興味を示したが、最終的にはアーセナルが移籍市場最後の48時間で勝負を決めたのである。

「(関心を)知った瞬間、本当に興奮しました。誰かに電話したり、アドバイスを求めたりする必要はなかったですね。簡単な決断でしたよ。だって、アーセナルなんだから」

■夢の舞台

tomiyasu-arsenal(C)Getty Images

冨安は、ほんの数週間前までは退屈でアイディアもなかったアーセナルに新たな息吹を吹き込んだ。彼が来たことでアーセナルは大きく調子を上げ、夏に加入した6選手が新鮮さをもたらした。クラブ内では、正しい道を歩んでいるという確信が広がっている。

彼が今すべきことは向上心を持ち続け、世界で最も厳しいリーグでのファーストシーズンに向けて最善の準備をすることだけである。

この若きディフェンダーは、そうできるのだろうか?ピントは語る。

「私が学んだのは、トミを安売りしてはいけないということ。彼は我々を驚かせ続けてくれるんだ」

「プレミアリーグで最も大きな課題は、世界最速のウインガーたちと対峙すること。だから適応には少し時間がかかる」

「でも、トミはあっという間に適応するよ。改善する必要があることは何でもやるからね。いや、もう取り組んでいるか。そういう男だよ」

取材・文=チャールズ・ワッツ/『Goal』アーセナル番記者

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