因縁のスタジアムで勝利を収めた湘南MF藤井智也の表情は充実感に満ちていた。
シャドーの位置で先発出場し、25分には中央で味方選手が奪ったボールを裏のスペースで受けて、そのままシュートを放った。自慢の快速から生んだ決定機は相手GKに止められたが、こぼれ球をFW太田修介が頭で押し込んで先制した。
この日の試合が行われたニッパツ三ツ沢球技場は、昨年9月28日のJ1第32節で同じく残留争いをしていた横浜FCに0-1で敗れた場所だった。
「ここで負けて、去年はほとんど降格が決まってしまった。人生で味わったことのない絶望みたいなものがありました。しかもその試合で自分は途中出場で、選手としてもチームとしても虚しくてつらかった」
湘南は同シーズンにJ1を19位で終えてJ2に降格。昨季より湘南に加入してリーグ戦30試合を戦った藤井は失意に沈んだ。
今季は自身初となるトップディヴィジョン以外での戦いとなっているが、「目先に浮かれると人生でいいことはないと、プロに入ってからいろいろと感じることが多い。まだまだ途中ですけど、今回の(湘南に残留する)決断のなかで、人との出会いもあって何とか成し遂げたいという想いです。このチームで学んで成長していけたらいいと思っています」と、藤井は緑と青のユニフォームに袖を通している。
湘南2年目。昨季まではサイドが主戦場だったが、シャドーの新境地にも挑戦中。背番号15は「守備で頑張っていると、意外と攻撃でもボールがこぼれてくる。きょうも守備を頑張った結果、裏にいきなりスペースが空いたじゃないですか。これはなるべくしてなっている」と前線から2度追い3度追いを繰り返し、横浜FCのビルドアップを混乱させた。
攻守において足を止めなかった藤井は59分にベンチへ下がり、疲れ果てた様子で腰を下ろした。確かな手ごたえを感じながら。
「スピードって攻撃で生かすもんだとしか思っていませんでしたが、プレスバックしたり、相手に思いっ切りプレスすると、相手は蹴ってくれたりして回収できる。それもスピードの一個の使い方だと思っています」
「攻撃での狭い局面や細かいプレーは得意ではないですし、良さを出すにはまだまだ力不足だと思っています。だけどシャドーでも、(田村)蒼生みたいな細かいプレーが好きな選手もいれば、僕みたいに抜けたり、守備をする選手もいる。人それぞれの良さの出し方でいいと思うようになれて、かなり整理できるようになりました」
相手にプレスを交わされて前進される場面もあったが、チーム全員でカバーしあった。シュートを打たれても体を張った守備を続けた湘南は、後半に2得点を追加。終盤に1失点したが、そのまま3-1で勝利して昨年の雪辱を果たした。
試合後のミックスゾーンで記者からパフォーマンスを称賛された藤井は、「これくらいですよ。これくらいやらないと、またあの舞台で泣くことになると思う」と慢心していない様子だ。
全力疾走のプレッシングは「キツかった」と話すが、どこかうれしそうだった。
取材・文=浅野凜太郎
