2019-01-19-hazard

明暗分けた指揮官の采配――大胆不敵なエメリと“消去法”のサッリ…CL権争いは大混戦に

■「ジョルジーニョ番」を完遂したラムジー

前任者のアーセン・ヴェンゲルとは違って、ウナイ・エメリ監督は相手によって明確に策を使い分け、それに応じてシステムや戦い方もどんどん変えていく指揮官だ。そうしてしばしば大胆不敵な采配を打ってきたアーセナルの新監督だが、2-0で勝利したプレミアリーグ第23節チェルシー戦における戦術上のキーマンは、間違いなくアーロン・ラムジーだった。

17歳でアーセナルに加入し、2010年の選手生命を脅かす大ケガを乗り越え、時に温かく、時に厳しくファンに見守られながらアーセナルの主力に成長した28歳のウェールズ代表MFは、持ち前の全力プレーで現地でも絶大な人気を誇る選手だ。ところが、昨年9月にクラブとの契約延長を固辞し、来季からはユヴェントスに移籍することが内定済みとされるラムジーは、そのせいもあってか最近では先発機会が減っていた。だが、チャンピオンズリーグ(CL)出場権を争うこの大一番でスタメンに抜擢されると、持ち味を存分に発揮してマン・オブ・ザ・マッチ級の輝きを見せた。

これまでもチェルシー戦で「ジョルジーニョ番」を置いてビルドアップ封じを試みたチームは数多くいたが、その中でも最もしつこく、手強く、厄介な番人がラムジーだったのではないだろうか。絶えず動き回り、常に戦う姿勢とゴールへの意欲を示し続けるラムジーは、その反面、神出鬼没すぎるポジショニングで“いるべき場所”をぽっかり空けてしまうきらいもある。だが、この日は違った。ジョルジーニョの位置を常に把握してマンマーカーとしてのタスクをまっとうし、出足の速いプレスでチェルシーの司令塔を無効化した。それでいて、仲間がボールを奪えば一目散に前へと駆け出してカウンターの急先鋒にもなり、67分に交代でピッチを退くまでにおそらくピッチ上で最も走っていたのがアーセナルの8番だった。

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そのラムジーを基準点に、アレクサンドル・ラカゼットとピエール=エメリク・オーバメヤンの2トップ、そして4-3-1-2の「3」のインサイドハーフに入ったルーカス・トレイラとマテオ・ゲンドゥージが綺麗に連動したアーセナルのプレッシングは、試合開始直後から見事にはまっていた。この試合に負ければトップ4フィニッシュが苦しくなることをちゃんと理解し、「必勝」の思いがアグレッシブな戦い方に反映されていた。14分にラカゼット、39分にローラン・コシールニーが決めた2ゴールはいずれもセットプレーからだったが、そのチャンスを得るまでの過程を見れば納得のゴールシーンだったのは間違いない。

2点を追うチェルシーが徐々に押し返してきた後半は、前線のメンバーだけでなく、12月にアキレス腱断裂の大ケガから約8カ月ぶりに復活した主将コシールニーを中心とした守備陣の集中力が光った。前述の通りラムジーを早い時間に下げ、ラカゼットも替えてフォアチェックの強度を維持するエメリ監督の采配も冴えていた。

■攻め手に乏しいチェルシーは苦しい時期に

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翻ってジョルジーニョを封じられたチェルシーは、打つ手のなさがどうしても目についた。エメリと違って、マウリツィオ・サッリは4-3-3のシステムもメンバーもほぼ固定で、基本的に戦い方を変えない。それには指揮官なりの理由があって、アーセナル戦前の会見でも「4-3-3の基本スタイルが選手たちに100%浸透するまで戦術の変更は考えない」と当面の“プランB”採用を否定している。だが一方では、連戦の疲労でパスワークのスピードは確実に落ちてきたこと、そして対戦2周目に入った相手チームの慣れもあって、徐々に苦戦が増えてきている。

特に気になるのが、攻め手の乏しさだ。アーセナル戦を振り返っても、ボール支配率こそ「64%」だったが、パスやビルドアップにスピード感がなく、素早く敵陣ボックス内へと侵入していくシーンは少なかった。枠内シュートは82分にマルコス・アロンソが角度のない位置から狙った1本のみ。それ以外でオープンプレーから決定機を作ったのも、ダヴィド・ルイスのロングフィードにペドロが抜け出し、ループシュートがわずかに枠を外れた前半18分のシーンくらいだった。

アルバロ・モラタ、オリヴィエ・ジルーに全幅の信頼を置けないサッリ監督にとって、エデン・アザールの最前線起用も、第16節マンチェスター・シティ戦(2-0○)のように明確な意図があったゲームを除いては“消去法”にしか見えない。遅攻になった際、アザールがボールを求めて深い位置まで下りてくると、ボックス内に誰もいなくなるという現象は頻繁に見られるし、それに何より単純に“高さ”やポストワークという打ち手がないのは痛い。

現にアーセナルは、それを見越した上でプレッシングを構築していた感がある。中盤で大きな存在感を見せていたトレイラ、ゲンドゥージの両インサイドハーフだが、中央を最優先にするシステムの形式上、チェルシーの両SBに対してはスライドが間に合わない場面もあった。だが、エメリはオーバーラップしたSBからハイボールがほぼ入らないことを織り込んでこの守り方を選んだように思える。実際、チェルシーのサイドからの折り返しは大半がグラウンダーの速いボールで、これを読んでいたコシールニーにくまなくカットされ、決定機には結びつかなかった。

■ケイン離脱のスパーズ、心機一転のユナイテッド含め、トップ4争いは大混戦に

2019-01-21-sarri-emery-poche-soj(C)Getty Images

アーセナルは12月の第17節サウサンプトン戦(2-3)で公式戦の連続無敗記録が「22」でストップして以降、リーグ戦6試合で3敗と急ブレーキがかかっていただけに、会心のパフォーマンスで4位争いのライバルに完勝したこの一戦が持つ意味は非常に大きい。

対するチェルシーは、開幕から11試合で27ゴールを挙げて首位を争っていたものの、その後のここ12試合でわずか13ゴールと攻撃の火力不足が最近の大きな課題となっており、ゴール数の減少とともにチーム全体の調子も下降気味だ。

今回の“シックスポインター”の結果によって、4位チェルシーと5位アーセナルとの勝ち点は「3」に縮まった。この2チームに加えて、3位トッテナムはエースのハリー・ケインとデレ・アリの負傷、ソン・フンミンのアジアカップ参加に伴う離脱もあって今後の苦戦が予想さる。反対に、アーセナルと同勝ち点の6位マンチェスター・ユナイテッドは、オーレ・グンナー・スールシャール暫定監督が指揮するようになってからリーグ6連勝と心機一転の快進撃が続いている。この4チームが、2つの枠を争うであろうCL出場権争いの行方は、まったく分からなくなったと言っていい。

アーセナルは課題とされる守備が、チェルシー戦のような安定感と集中力を維持できるか。逆にチェルシーは、間近と言われるゴンサロ・イグアインの獲得を含めて攻撃陣が奮闘できるかがカギだろう。いずれにせよ、実力伯仲の激しい順位争いは、ここからシーズン最終盤まで続くことになりそうだ。

文=大谷駿

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