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「元気で、フェルナンド。愛おしいフェルナンド…」【アトレティコ記者が送る愛の手紙】

ついに、フェルナンド・トーレスとアトレティコ・マドリーの愛の物語は終わりを迎えた。

11歳で下部組織に入団。その6年後にトップチームデビュー。瞬く間にエースに成長。そして23歳の時にリヴァプールへと移籍――。一度目の別れを迎えた。

それから、2011年に移籍したチェルシーでは、その翌年にチャンピオンズリーグ(CL)を制し、さらにその翌年にはヨーロッパリーグ優勝を経験。スペイン代表としても、2010年にワールドカップ、2008年と2012年にEUROを制覇した。そして2015年、すべてを勝ち取り、愛する古巣へと戻ってきた。

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しかし、2度目の愛も長続きはしなかった。

彼が去った後の2011年、ディエゴ・シメオネが就任。トーレス在籍時は低迷し、すべてを彼に頼っていたクラブだったが、闘将のもとでチームは生まれ変わった。世界の名だたるストライカーがプレーし、毎年のようにリーガ、そしてCL優勝を狙い世界のトップクラブへと成長した。

そこには、リヴァプール時代の大ケガによってすでにキャリアのピークを過ぎていたトーレスにピッチ上での居場所はなく、最後まで戦い続けたが、核となる選手に離れなかった。

こうして、トーレスとアトレティコは2度目の別れを迎えることとなった。34歳のトーレスは、もはや選手としてアトレティコでプレーすることはないだろう。今回の別れは、トーレス、そしてアトレティコスにとってこれまで以上に辛いものになる。

それは、彼を長年追い続ける記者も同じだ。スペイン最大紙『マルカ』アトレティコ・セクションのチーフ、アルベルト・ロメロ・バルベーロ氏もまた、大きな悲しみを感じている1人だ。約10年に渡る愛の物語が終りを迎えた数日後、自らの思いの丈を手紙として記している。

一大ビジネスと化した欧州フットボール界で、これほどまでに選手とクラブ、そして記者が愛によって結びつくことはそうないだろう。今回は彼の愛情のこもった書簡を特別に公開する。遠いスペインの地で生まれた「センチメント」に、思いを馳せてみるのも良いのではないだろうか。(文=Goal編集部)

■愛おしいフェルナンド……

2018-05-22-torres(C)Getty Images

今日はしんどかったな。明日、クルセス公園でアトレティコ・デ・マドリーの入団テストを受けることを考えて、とても緊張しながら過ごしていた。でも、ようやく眠ってくれた。明日、君をテストする人たちが、11歳の君が抱く信念を知っていたらいいのだが。毎週月曜にロヒブランコ(赤白)のユニフォームを着て登校し、もしチームが負ければ、勝ったときよりも断固としてそうする君の信念を。

目をつぶる、そばかすだらけの君が気づかない内に、私たちが未来のことを語ってあげよう。なぜ、知っているのかって? 魔法は存在するんだよ、フェルナンド。

そうなるまでにはまだまだ時間がかかるが、しかし君はある日、クラブの一部になるように持ちかけられる。そう、もちろん君はクラブの一部になるんだ。なぜなら、そのほかのすべてを差し置くとしても、何より君は素晴らし過ぎる選手なんだから。最高の一人。選ばれた、一人。その日、君はすべての苦労が報われたのだと気づくだろう。君は泣く。泣くことになるんだ。そして、皆が君と一緒になって泣くんだよ。君は自分が世界で最も愛されている人間だと感じることになるのさ、フェルナンド。たとえ、誰もが愛するわけではなくても、君を愛する人々は、君にこれ以上ないほどの愛を感じさせてくれる。

もし、目を覚ましている君にそうなると誓っても、信じてはくれないだろうね。だけど1年以内に、アトレティコはドブレテ(96年に達成したリーガ・エスパニョーラとコパ・デル・レイの二冠)を達成して、君はネプトゥーノ広場(アトレティコの優勝祝賀会場)の舞台の下に、一ファンとして立っていることになる……。さらに23年が経てば、その舞台の上は、君が泣く場所となる。けれども、その二つの出来事の間には完全なる暗黒期、誰もアトレティコの旗手になりたがらない時期が存在しているんだ。

その時期にトップチームの選手となり、誇らしげに旗を持つのが、君。そうさフェルナンド、君はアトレティコの選手になる。そうなれるんだよ。とはいえ最初のうちは、本来の場所に戻る力を持たない、瑣末なアトレティコの選手だ。だから100年のクラブ史を、一人のニーニョ(子供、F・トーレスの愛称でもある)の双肩に担わせることは簡単となってしまう。

そして君は、心にあらゆる痛みを感じながら、こう考えるときがやって来るんだ。アトレティコを退団した方がいい……クラブのためにも、と。君はリヴァプールでプレーすることになる。あとチェルシーで。少しだけ、ミランで。それともちろん、スペイン代表でも。君はEURO決勝という舞台で、唯一のゴールを記録する。それは君をつらい目に遭わせてきた老監督(ルイス・アラゴネス、アトレティコ、その後にスペイン代表でトーレスを指導)の正しさを、彼が君を愛していたことを証明するものになるだろう。

もう一つのEUROで、君はゴールデンブーツ(得点王)となる。またワールドカップを勝ち取るため、負傷からの復帰に選手生命をかけることになる。そのほかチャンピオンズリーグ、ヨーロッパリーグ……と、君の獲得タイトルは途方もないものになっていく。でもアトレティコで、君のアトレティコとともにタイトルを勝ち取っていないことを思い出す度に、憂鬱な苛立ちを感じることになる。

そうしてある日、戻ってくるんだ。君の祖父エウラリオが君の手を引きながら通った、ビセンテ・カルデロンで行われるアトレティコ帰還セレモニー。君が4万5000人を寒さに立ち向かわせるため、不足するものはない。君は、自分がなぜそうした扱いを受けるのかを疑問に感じるだろう。そう問いかける君は、君自身が答えであることを知らない。

旗をつかんだじゃないか、フェルナンド、君はその手で旗をつかんだんだよ。

君が復帰を果たすチームは、もはや違うアトレティコとなっている。ディエゴ・パブロ・シメオネが率いるチームであり、歴史に刻まれるアトレティコだ。ほかでもないチャンピオンズリーグの決勝で、フットボールは残酷なものになってしまうが、あきらめることだけが失敗であるかのように、誰もが信じることを止めないだろう。エル・チョロ(シメオネの愛称)が言うには、困難をチャンスに変えられるかどうか、という話なんだ。

君は今度こそここを出て行くと、前もって発表することになる。別れがひそやかなものとならぬように。けれども、君は最後の戦いに参加する。そうだフェルナンド、それはいいものになるぞ。リヨンの忘れられない夜に、アトレティコとともにタイトルを勝ち取るのさ。すべてを数量化してしまう連中がどんな形容をしたとしても、センチメントの勝利以上に大きな勝利はない。それを即座に実感することになるんだよ。

フェルナンド、君はついにネプトゥーノの舞台に上がって、そして君は泣くんだ。その数日後には、結果など取るに足らない試合で、アトレティコの新スタジアムが大きなハンカチに形を変えることになるだろう。君との別れのために流れる、すべての涙を拭うために。

なぜなら、君の笑顔が私たちのものであるように、君のものは私たちのものになるからだ。

なぜなら、君の色はいついかなるときにも私たちの色になるからだ。

君は魔法が存在することを感じているかい?

結局のところ、私たちはいつの日か、君が未来に口にする言葉をそっくりそのまま返すんだ。「たくさんありがとう、少なくてごめん」という言葉を。

今は眠ろう、フェルナンド。夢を見ていよう、トーレス。君は明日、運命が君をどう導びいていくか知らないままに目を覚ます。しかし、不可能など何もないんだと確信している。アトレティコの人間ならば、なおさらだと。

追伸:これからの長い年月、君は重苦しい一記者のメッセージを受け取っていくことになるだろう。その記者は、君のことを高潔な人間だと言っている。しかしニーニョ、君は気にも留めていないね。お世辞が人をぐらつかすことを知っているからだ。元気で、フェルナンド。愛おしいフェルナンド……。

文=アルベルト・ロメロ・バルベーロ(マルカ紙)
翻訳=江間慎一郎

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