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Jose Mourinho Real Madrid Winners Losers GFXGOAL

ブーイングを希望に変えたモウ・マドリーだが…“あの問題”を何とかしなければ最強のスカッドも台無しだ【現地発】

江間慎一郎/Shinichiro Ema
  • 変貌

    「モウリーニョはもう終わった監督だろ? あいつは過去の栄光の前にバスを停めてるんだ」

    「エンバペもヴィニシウスもいい加減にしろよ」

    「またストレスの溜まる日々の始まりだ。バルサを見ろ、ガキどもが笑いながらパス繋いでるぞ。クソッ……」

    レアル・マドリーの試合が終わった後、スペイン首都のバルは不満や自虐の言葉であふれ返っていた。「自分たちこそ世界最高」を自負するマドリディスタにとって、耐えがたい日々は、今季も続いていた。

    そうした空気は、本拠地サンティアゴ・ベルナベウでも同じことだ。13年ぶりにマドリー帰還を果たしたジョゼ・モウリーニョは、歓迎も拒絶もされることなくスタジアムのベンチに再び腰を下ろし、その周囲の予想通りチームに劇的な変化をもたらしていなかった。ゴール裏の応援団席が「ホセ(スペイン語読み)・モウリーニョ!」のチャントを歌っても、ほかのスタンドはなかなか同調せず。3季連続の無冠という悪夢に怯える観客たちは、チームが不安定なプレーを見せるたび、ブーイングの指笛をベルナベウに響かせていた。

    だがアトレティコ・デ・マドリーとのダービーに敗戦した後、10月中旬になって風向きが変わり始めた。モウリーニョは今季ここまでの成功と失敗を糧にチームの最適解を見つけていき、クラシコの勝利で評価を反転させてみせたのだった。またも無冠へ突き進んでいると思われたマドリーは、今や希望を感じさせる集団へ変貌を遂げている。

  • 決断

    vinicius mourinho
    (C)Getty Images

    第二次モウ・マドリーのうだつが上がらず、昨季までの停滞感を引きずっていた要因は、もう散々言われているキリアン・エンバペとヴィニシウス・ジュニオールの併用問題と、中盤の構成だった。ヴィニシウスはいまだ守備の穴になりやすく、攻撃面ではエンバペとの連係はおろか個人プレーも低調。そしてフェデ・バルベルデとエドゥアルド・カマヴィンガ or オーレリアン・チュアメニの2ボランチは守備とフィジカル偏重で、試合で必要とされるだけのゲームメイク力がなかった。今季のマドリーはアルダ・ギュレルに覚醒の感があるが、その明るい材料を帳消しにするほど、攻守の構造的欠陥が目立っていた。

    しかし10月半ばから、状況は変化していく。きっかけは、チャンピオンズリーグのローマ戦だ。ポルトガル人指揮官は57分に1-3とされるゴールを奪われると、ついに吹っ切れた。自陣でのヒールパス失敗により、失点の原因になったヴィニシウスの交代含めて、陣容を大きく変更。バルベルデを右サイドバックとし、ベンチに置いていたギュレル、ベルナルド・シウバを投入する攻撃的采配を見せた。これで一気に攻勢に転じたマドリーは、83~90分にギュレルのCKから3ゴールを決めて、彼ららしい劇的逆転勝利を果たしている。

    そう、モウリーニョはすべての道に通ずるローマから、逆転勝利の鍵を持ち帰ったのだ。以降、バルベルデを先発から右サイドバックに固定し、中盤ではギュレルかベルナルドをビルドアップ要員として起用。そしてラ・リーガでは、4試合出場停止のヴィニシウスに代わりヤン・ディオマンデを左ウィングとして、攻守にわたって献身的にプレーさせている。こうしてマドリーはベルナベウでのセビージャ戦(○4-1)、RBライプツィヒ戦(○4-1)で観客から喝采を受けるパフォーマンスで勝利し、そして、クラシコで勝利の黄金律をつかんだ。

  • 黄金律

    Mbappe Barcellona Real Madrid
    Getty Images

    カンプ・ノウを舞台としたクラシコで、モウリーニョは再び守備的な2ボランチを使うとも噂されたが、チュアメニの相棒にカマヴィンガではなくベルナルドを先発起用。リスクを恐れずに自らの狙いを貫き、ハンジ・フリックのバルセロナを戦術面から上回った。

    マドリーはバルセロナの中盤を機能させなかった。トップ下のジュード・ベリンガムがロドリ、ベルナルドがペドリ、チュアメニがフェルミンをマンマークして自由を許さず。各ラインは非常にコンパクトにまとまって、DFラインからジェラール・マルティンらに運ぶドリブルを見せられても、マンマークから密集の圧力に切り替えてボールを奪って(むしろそれを誘っていた)、自分たちのトランジションを中心とする攻撃につなげている。

    マドリーがボールを奪った後、バルセロナはハイプレスでそれを奪い返そうとしたが、ベルナルド、ベリンガム、ギュレル相手にそうすることは難しかった。41分の先制点の場面がそれを物語る。ボールを手にしたマドリーはベルナルド中心のパスワークでバルセロナを左右に揺さぶり、手薄となった左サイドを突いてエンバペのゴールにつなげた。バルセロナはハイプレスを打ち消され、ボールを持たれると守備の脆弱さを露呈する。モウリーニョはベルナルド起用でそこを突き、また後半にはベルナルドをカマヴィンガに代えて、攻守が激しく入れ替わる展開でも優位に立った。そして87分、ベリンガムの個人技、ギュレルのスルーパス、カマヴィンガの突破からエンバペが2点目を決めて、バルセロナに引導を渡した。

  • 最高のスカッド

    mourinho
    (C)Getty Images

    マドリーはこのクラシコの勝利で、これまで見えていた景色を一変させている。モウリーニョはもちろんのこと、選手たちの評価も見直されなければならない。モウの優れた戦術をベースとしながら、選手たちは全員が卓越したプレーを見せていた。

    クラシコのスタメンについて話せば、風邪のティボー・クルトワに代わり出場したアンドリー・ルニンは自身が最高の第2GKだと改めて誇示し、負傷交代したバルベルデも世界最高レベルの右サイドバックであることを証明。ディーン・ハウセンは守備力が物足りないとの懸念を一蹴し、チュアメニは中盤の底で正確無比なプレーを披露した。ベリンガムは驚異的な運動量とテクニックでピッチ全体を支配し、ギュレルも献身的な守備を忘れず創造性を発揮。そして2得点を決めたエンバペは、モウリーニョの新たな“クリスティアーノ・ロナウド”となった。

    加えて、ワールドクラスの守備を見せたイブラヒマ・コナテ、ラミン・ヤマルを抑え込んだマルク・ククレジャ、チームに長らく欠けていたゲームメーカーとして振る舞ったベルナルド、攻守両面で貢献し続けた怪物ディオマンデ……と、スタメンを張った新加入4選手もチームにとって重要な戦力であることを示した。

    マドリーは上に挙げた選手たちのほか、守護神のクルトワはもちろん、純粋な“9番”タイプのストライカーであるエスピや、カマヴィンガ、トレント・アレクサンダー=アーノルド、デンゼル・ダンフリース、アントニオ・リュディガー、エデル・ミリトン、ラウール・アセンシオ、チアゴ・ピタルチ、エンドリッキ、アルバロ・カレーラス、ブラヒム・ディアス、ロドリゴらも擁している。

    じつは今季のマドリーのスカッドは、近年の中でもかなり充実しているのだ。彼らは2013~2024年の11年間で6回チャンピオンズリーグを制しているが、今季はいくつかの優勝シーズンのスカッドにも比較し得る。この10年間で最高という声さえもあるほどだ。

  • 問題

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    (C)Getty Images

    だからこそ、やはりモウリーニョ次第なのだ。最大の焦点は、エンバペとヴィニシウスの共存問題である。モウ・マドリーが上昇気流に乗ったのは、中盤の構成やバルベルデのコンバートほか、ヴィニシウスの不在とリンクしている。やはり彼らは併用せず、どちらか1人に絞って起用した方がいい。現在の調子を考えても、エンバペを使い続けるべきだろう。

    エンバペとヴィニシウスが2人とも足元でボールを受けようとすれば攻撃は停滞し、2人とも守備に専心できないならば守備ブロックは分断されて各ラインが間延びする。カルロ・アンチェロッティの息子ダビデは「ヴィニをチームに含めるためには、その後方でプレーの構造をつくることが必要だ。もし構造を持てなければ、試合はコントロールがきかなくなる。ヴィニは常に突き進み続けるからね」と話していたが、エンバペとの併用で起こっている現象こそ「試合はコントロールがきかなくなる」だろう。そして、これはヴィニシウス一人の責任ではなく、エース級2人を無理に共存させようとするクラブの方針や、もっと言えば、運や巡り合わせの問題でもある。

    モウリーニョがエース格の選手のプレー意識を変えられるならば、それに越したことはない。が、そうできないのならばしっかり決断すべきだ。いい加減、この共存問題は解決しなければならない。そうでなくては、ここ10年で最高のスカッドも、せっかく感じられた希望も台無しとなってしまうだろう。

    取材・文=江間慎一郎