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Harry Kane Ballon d'Or 1:1Getty/GOAL

【現地発】バロンドールが本当に“世界最高の選手”を選ぶのであれば、ケイン以外あり得ない

Tom Maston
翻訳者:
  • 現地時間26日(月)、ロンドンで初めてバロンドール授賞式が開催される。フットボール界の著名人たちがイングランドの首都に集い、この12カ月間で最高の選手を盛大に称える予定だ。

    司会を務めるティエリ・アンリとケイト・スコットが授与する賞は毎年のように増え続けている。それでも、やはり最大の注目は男子バロンドール賞だ。だが、これほど議論が白熱する年もないだろう。候補者30人のうち、5人~10人が「受賞にふさわしい」と評価されても不思議ではない。2025-26シーズン、そして今夏のワールドカップと、数多くの選手が「世界一」の称号に値する実績を残してきたのだ。

    一方で、ここ数十年で最も予測が難しい理由は、明確な候補者がいないことも挙げられるだろう。リオネル・メッシとクリスティアーノ・ロナウドが賞を二分した時代はとうに終わり、今では誰しもに開かれたレースとなっている。

    そしてもちろん、ハリー・ケインは有力な候補の1人だろう。しかし、彼の受賞には反発する声も聞こえている。その理由はおそらく、このバロンドールという賞自体が「世界最高の選手」に贈られるものではなくなってきているからだ。

  • バロンドールの変化

    TOPSHOT-FBL-AWARD-BALLON D'OR-2024
    AFP

    2019年、『GIVEMESPORT』でバロンドールについて意見を求められた元イングランド代表FWゲーリー・リネカーは、個人賞は結局のところ「チームスポーツでは価値がない」と語った。しかしそのインタビューの中で、彼は同年の受賞者としてメッシがいかにふさわしいかを力説する中で、重要な指摘を行っている。

    「年間最優秀選手に選ばれることが、ばかばかしいほど重視されるようになったね。行き過ぎているよ。なぜなら、本当にその年の最高の選手を選ぶ賞なら、彼(メッシ)が毎年受賞するはずだからだ……。シーズン最終盤、バルセロナが少し疲れを見せ始めた時期を除けば、昨季のメッシのプレーは信じられないほどだった。数字も驚異的だったよ」

    彼の指摘に、バロンドールの変化の核心がある。今日のバロンドールは、実績や獲得したタイトルに関係なく“世界最高の選手”を選ぶのではない。そのシーズンに個人として活躍を見せ、その活躍によってチームをタイトルに導いた一流選手に贈られるのだ。

    主催者『フランス・フットボール』は近年、華やかな実績に目を奪われがちな審査員たちが、そのシーズンに選手が獲得したタイトルの数だけで決めるわけではないと強調してきた。しかし、実際には2021年にジョルジーニョが表彰台に立った(3位)ことが物語っている。彼はチェルシーのチャンピオンズリーグ制覇とイタリア代表のEURO優勝に欠かせない選手だったが、では「“世界最高の選手”だったか」というと疑問符がつく。それでも大一番で活躍し、最も大きな舞台でタイトル獲得に貢献した選手が高く評価される傾向は、近年さらに加速しているのだ。

  • 65試合、73ゴール

    FC Bayern München v VfB Stuttgart - DFB Cup Final 2026
    Getty Images Sport

    そうした観点から見ると、ケインは受賞を逃す可能性がある。彼はチャンピオンズリーグでも、ワールドカップでも、トロフィーを掲げることはなかったからだ。だがしかし、彼個人が見せたパフォーマンスを軽視するのは難しい。


    目を閉じて、クラブと代表で1シーズンに65試合で73ゴールを挙げた選手を想像してほしい。そのうちブンデスリーガで奪った36ゴール(31試合)は、66分に1点という驚異的なペースで生まれている。DFBポカールでも出場した全ラウンドでネットを揺らし、6試合で10ゴールを記録。決勝ではハットトリックも達成した。さらにチャンピオンズリーグでは、13試合で14ゴール。ノックアウトステージの5試合すべてで得点している。ワールドカップでは主将として母国を、国外開催大会では過去最高となる3位に導いた。自身も6ゴールを記録し、これを上回った選手はわずか4人。ノックアウトステージの2試合では決勝点を挙げていた。

    この成績だけでも、バロンドールを巡る議論に決着をつけるには十分なはずだ。21世紀に入ってから、1シーズンで昨季のケインより多くのゴールを挙げたのは、2011-12シーズンのメッシただ1人である。

    現在、試合全体を通じた影響力でケインを上回る選手はいない。彼のゴールは2つの最大のタイトルには繋がらなかったものの、バイエルンとイングランドは彼なしでは優勝争いに加わることはなかったはずだ。

  • 完璧なフットボーラー

    Norway v England: Quarter Final - FIFA World Cup 2026
    Getty Images Sport

    そしてケインは、見方のお膳立てをボックス内でただ待つだけの選手ではない。世界最高のフィニッシャーであると同時に、世界最高レベルの総合力を有しているのだ。

    彼のスタートポジションは最前線ではあるが、何度もDFラインの近くまで降りてボールを受け、ケヴィン・デ・ブライネ顔負けの展開力で状況を一気に打開する美しいパスをチームメイトに届けることも可能だ。さらに細かいパスワークでチーム全体を押し上げるだけでなく、繰り返すフリーランでサポートし、守備時には猛然と相手を追って最終ラインまで下がってくることもある。まさに完璧なフットボーラーだ。

    確かに昨季のアシスト数は「8」で、ケインの基準では物足りないかもしれない。だが、決定機創出数は「26」。いかにチームにとって重要かを物語っている。味方のためにスペースを生み出すケインの能力は、ヴァンサン・コンパニとトーマス・トゥヘルの双方が目指すプレーの鍵となっている。バイエルンとイングランド代表は近年、サイドプレイヤーやトップ下の選手の活躍が目立ち、彼らが大きく評価されている。そのそばにこの33歳FWがいることは忘れてはならない。

  • 何を重視するか

    England v Argentina: Semi Final - FIFA World Cup 2026
    Getty Images Sport

    この1年間の個人の活躍を正当に評価すれば、ケインの受賞は当然だと思われる。しかし、そうはいかないのが今年のバロンドールだ。大きな要因として、近年稀に見るほど評価が割れる可能性が高いことが挙げられる

    スペインがワールドカップを制したことで、ラミン・ヤマルを推す投票者は多いだろう。同じ理由で、大会最優秀選手に輝いたロドリも票を集めるかもしれない。一方で、レアル・マドリーとフランス代表で合計60ゴール近くを奪い、ワールドカップ歴代最多得点記録を更新したキリアン・エンバペも有力な候補だ(彼本人が明言するように)。

    さらにワールドカップを経て、メッシが歴代最多受賞回数を更新すべきとの声も根強く聞こえる。またチャンピオンズリーグを評価するならば、16試合10ゴール7アシスト、史上初めてノックアウトステージ7試合連続でゴールに関与したパリ・サンジェルマンFWフヴィチャ・クヴァラツヘリアも候補に入ってくる。

    ここで挙げた候補者でも5人。他にも様々な意見があるだろう。2026年のバロンドールは、何を重視するかで投票先が変わってしまう可能性があるのだ。

  • 露骨なPR合戦の中で

    FBL-WC-2026-MATCH101-FRA-ESP
    AFP

    さらにケイン受賞の妨げになりそうなのは、バロンドールを巡る激しいPR合戦だ。特にバルセロナとレアル・マドリーは、それぞれヤマルとエンバペの受賞に向けて盛んに働きかけてきた。両選手も事あるごとに、自らの受賞にふさわしい理由を訴えている。メッシに関してはアルゼンチン代表のチームメイトが、クヴァラツヘリアに関してはパリ・サンジェルマンの同僚からそうした声はが聞こえてくる。

    しかし、ケインを推す声が公の場で上がることは、はるかに少ない。先週、コンパニ監督は「ケインとマイケル・オリーセのどちらが受賞すべきか」と問われると、「バロンドールのことを毎日考えているわけではないよ。バイエルンの選手が受賞することを願っているが、もちろん、私にとってもっと重要なのはタイトルを獲得することだ」と答えた。この発言は、その状況を端的に示している。

    ケイン自身も、他のライバルたちと比べれば、ピッチ外で自らの受賞に向けて積極的に発言してきたわけではない。この件に関する発言で最も目を引くものを挙げるなら、9月の『マルカ』のインタビューで語った次の言葉だ。

    「僕は自分について話すのがあまり好きじゃないんだ。ただ言えるのは、昨季は個人としてもチームとしても素晴らしかったということ。間違いなく、人生で最高のシーズンだった」

    「73ゴールで終えたことは、それが史上2番目に多い記録であることも含め、すべてを物語っている。とても誇りに思っているよ。それを可能にしてくれたチームメイトと、助けてくれたすべての人に感謝するばかりだね」

  • 正当に評価されないレジェンド

    FBL-GER-SUPERCUP-DORTMUND-BAYERN MUNICH
    AFP

    ケインの謙虚さは、バロンドールを争うライバルたちほど商業的な存在になっていない理由の1つかもしれない。広告契約やブランディングで、エンバペ、メッシ、アーリング・ハーランド、そして最近ではヤマルと肩を並べるのは誰にとっても難しい。もっと言えば、ケインはイングランド人選手の中でもすでにジュード・ベリンガムの後塵を拝している。バイエルンでも、商業的な存在感を増すオリーセの陰に急速に隠れつつある。

    ブンデスリーガでの得点を、プレミアリーグやラ・リーガと同等ではないと考える人は未だにいるし、得点のうち19点がPKによるものであることを疑問視する人間もいる。おそらく無理もないことだが、この約12カ月間にピッチ上でどれほどの結果を残しても、ケインを真に評価しない人々は存在し続けるだろう。

    そして、近年のバロンドールが“世界最高の選手”を選ぶよりも、その1年でタイトルを獲得した選手を選ぶ傾向を考えると、チャンピオンズリーグとワールドカップを手にしていないケインが受賞を逃す可能性は十分に考えられるのだ。

    そんな批判者に対してケインができることは、ネットを揺らし続けることだけだ。そして昨季は、73回もそれを成し遂げた。歴史に残る結果である。それでも彼が生まれ故郷で受賞を逃すことになってしまったら、「これ以上何ができたのか」と問わずにはいられないだろう。