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Thomas Tuchel England 1:1Getty/GOAL

「イングランドの“DNA”」という言い訳は通用しない:世界最高の選手層を輝かせるために…トゥヘルに残された2年間

【欧州・海外サッカー 特集】60年ぶりの悲願を狙った今夏のワールドカップで、3位に終わったイングランド代表。あの失望から約2カ月、トーマス・トゥヘルの前には未だ課題が山積みである。

James Westwood
翻訳者:
  • イングランドサッカー協会(FA)は、どうやら失敗から学んでいないようだ。2010年ワールドカップでは、開幕直前にファビオ・カペッロと新契約を結んだ末にラウンド16で敗退。カペッロはその19カ月後に辞任したが、その時点ではすでにサポーターの信頼も熱も完全に失っていた。

    そんなカペッロと同じく、トーマス・トゥヘル体制の船出も順調だった。2026年ワールドカップ予選を全勝で終えると、FAは2月に契約を2028年まで延長している。その背景には、マンチェスター・ユナイテッドなど強豪クラブへ引き抜かれる可能性を恐れたことがあったとみられる。その決断に一定の理屈はあった。しかし、彼はその新契約を自ら「勝ち取った」とは言えなかった。イングランド代表監督は、当然ながら主要大会で何を成し遂げたかだけで評価されるべきだからだ。

    イングランドは最終的にワールドカップを3位で終え、1966年以降では最高成績の結果を残した。それでも、国全体を覆った感情は「失望」だった。宿敵アルゼンチンとの準決勝で喫した1-2の敗戦は、何としてでも避けなければいけなかった。しかし大会後初のメンバー発表の場で、トゥヘルはこう語っている。

    「私は一度も大きな成功だったとは言っていない。ポジティブな点がたくさんあったと言っただけだ。不完全燃焼だった。だが、なぜ期待値はそんなに高いのか……最後に優勝したのは一体いつだ? そもそも、これまでにいつ優勝した? なぜ期待値がそこまで高く、メダルを持ち帰ったことすら認めてもらえないのか」

    この発言は、イングランドサポーターの信頼を取り戻す助けにはならないだろう。アルゼンチンという相手に敗れたこと、その責任を引き受けて教訓を得なければ、自国開催のEURO2028を前に、カペッロと同じ運命を辿ってしまうかもしれない。

  • 絶好のチャンス

    England v Argentina: Semi Final - FIFA World Cup 2026
    Getty Images Sport

    前任者であるガレス・サウスゲートの下、イングランドはEUROで2大会連続の決勝進出を果たした。しかし、3年前にはイタリアにPK戦で敗れ、2024年はスペインに敗れた。それを見ていたトゥヘルは、2024年大会について「負けないためのプレーだった。優勝への飢えや高揚感を持つよりも、大会敗退を恐れていた」と分析している。

    だが、このコメントは完全に裏目に出てしまったようだ。7月15日にアトランタで行われたあの大一番、あれほど臆病なパフォーマンスはイングランド史上でもそう多くない。55分までは優勢に進め、アンソニー・ゴードンのゴールで先制。そこからとどめを刺しにいっていれば、前回王者を下す可能性は十分にあっただろう。しかし、トゥヘルはゴードンに代えてエズリ・コンサを投入し、5バックへ変更。ズルズルと引き下がった結果、誰しもが予想した通りアルゼンチンが決死の猛攻を仕掛け続け、最終的に後半アディショナルタイムに逆転を許している。

    65分からは2本のパスを繋ぐことすらほとんどできず、無惨にも敗れ去った。トゥヘルは就任時に貫くと誓った理念に反し、選手たちを全面的には信じていないことを示してしまった。確かに、一部の選手は大一番の重圧にのみ込まれ、明らかに恐怖で動けなくなっていただろう。だが、そういう時こそ指揮官が顔を上げさせ、勝利への「飢え」を取り戻させるべきだった。ただでさえチーム内に広がっていた疑念を、トゥヘルはさらに助長したにすぎない。彼は絶好のチャンスを逃してしまったのだ。

  • “DNA”

    England v Argentina: Semi Final - FIFA World Cup 2026
    Getty Images Sport

    非常に厳しい試合展開、そして敗れた相手を考えると、即座に謝罪すべきだった。しかしトゥヘルは、優勝するためにはイングランドの“DNA”を変える必要があると主張している。

    「組織の中で受け身になりすぎた。5バックにしてさらに受け身になるのではなく、もっとアクティブに、ウイングに素早く出ていき、最終ライン4枚の間にギャップを開けないようにしようとしたんだ」

    「全員に前へ出て、組織の中でもっとアクティブになるよう促したが、うまくいかなかった。もはやデュエルを見つけることができず、それがどんどん深く下がった理由だ。それは決してプランではなかったが、実際にそうなってしまった」

    「ボールを取り戻す必要があった。そうでなければプレッシャーを打開できないし、流れも取り戻せない。ボール保持は決定的な役割を果たすと思う。ボールを受け、試合とボールをコントロールするということは、スペインやアルゼンチン、ブラジルのDNAにはあるのかもしれないが、自分たちのDNAにはないのかもしれない。そこもまた大きな問題だ」

    トゥヘルは攻撃に出る必要があることを理解しながらも、後半アディショナルタイムまでアイヴァン・トニーやマーカス・ラッシュフォードを投入しなかった。ブカヨ・サカも起用しなかった。彼はその3日後の3位決定戦ではフル出場、ハットトリックも達成している。全く出場できないコンディションだったとは思えない。イングランドが受け身になったのは、コンサ、ダン・バーン、ニコ・オライリーと次々に守備的カードを切ったことも大きな要因だ。これは両チームの間に生じていたボール保持の差を埋めるための交代ではなく、かろうじて得ていたリードを守ろうとするものにすぎなかった。

    彼の言う“DNA”という言い訳は通用しないだろう。一流の監督は、ワールドクラスの才能が集まったグループにプレーパターンを落とし込めるはずだ。ハリー・ケイン、ジュード・ベリンガム、モーガン・ロジャーズ、デクラン・ライス、エリオット・アンダーソンは、82分間も同時にピッチに立っていたのだ。

  • 妄想

    England Men Press Conference
    Getty Images Sport

    そしてあれから約2カ月が経過した後、トゥヘルは先週、自身の発言をあらためて強調した。「彼らに(ボール保持を)指導する時間が自分にあるのか、確信が持てない」と語っている。

    「この点については自分自身でも葛藤している。なぜなら、たとえプレミアリーグで試合を支配するチームがあったとしても、そうしたチームにイングランド人選手が何人いるのか、という話だからだ」

    「これは我々のDNAにあるものなのだろうか? 本当に我々は試合をコントロールすることを重視しているのか? それは試合の中で心地よさを感じるものなのか? 我々にとって自然にできることなのか? イングランド人選手は根底の部分では、観客も含めて、前へ出ていきたがっているのだと思う。『6-3で勝つような試合をしよう』、『4-3で勝つような試合をしよう』、『1-0の試合はやめよう』とね」

    「あの大会を経験したことで、このチームは戦う準備ができていて、常に前へ出ていく準備ができていると感じている。これこそが美しさだ。プレッシャーの高い場面になれば、我々はもっと良いフットボールができるし、もしかすると少しの勇気やこのエネルギーが足りないのかもしれない……。おそらく、よりそちらの方向へ進むべきなのだろう」

    あのアルゼンチンは、多くのイングランドファンの失望を生んだ。そして、「勇気の欠如」を何よりも訴えていたのはトゥヘルである。この彼の発言に、皮肉はまったくなかった。そして彼は、すでにファンの気持ちが切り替わったと思っているようだ。

    「ファンの99.9%は、交代策や戦術的な修正、戦術の細部について話してはいない。彼らが話すのは、コンゴ戦を見てどれだけ神経をすり減らしたか、そしてどこで祝ったかということだ。これが私に届く反応だ。これこそが我々の生み出したものであり、そうあるべきものだ。ワールドカップとは人々とつながり、忘れられない体験を与えるためのものなのだからめ」

    「それは私を誇らしい気持ちにさせるし、嬉しくもさせる。たとえタクシーの中でも、コーヒーショップでも、スーパーでも、そうした小さな瞬間を分かち合い、それが実際に何か意味のあることだったのだと理解できる」

    だが、彼の発言に真正面から頷くイングランドサポーターは多くないだろう。2026年大会で鮮明に覚えていることと言えば、アルゼンチン戦の失望に他ならない。

  • パーマーとの問題

    Arsenal FC v Chelsea FC - Premier League 2026/27
    Getty Images Sport

    アルゼンチン戦での戦術的な選択は複数の選手を困惑させていた。そして、メンバーにすら入れなかった選手の中に、指揮官への不満を抱く者がいたとしても不思議ではない。おそらく、コール・パーマーはその1人だろう。彼は昨季素晴らしいシーズンを過ごしたわけではなかったが、彼のように常に試合を変えられる存在は、イングランドが大会を通じて欲していた選手である。

    長い夏休みを経て、パーマーはシーズンスタートは好調だ。チェルシーでプレミアリーグ5試合に出場して4ゴールに関与。その結果、トゥヘルは再び彼を招集した。ただ、その招集には警告も伴っていた。

    「招集されてチームに戻ることと、実際に結果を出すことは別の話だ。コールは自分のポジションをつかみ、招集が正当だったと示すために、こうした数字とパフォーマンスを見せ続ける必要がある」

    もう少し言葉を選ぶこともできたはずだろう。トゥヘルのパーマーに対する発言は、彼のワールドカップ招集を望んでいた多くのファンから否定的な感情を引き起こした。最終的に筋肉系のトラブルで離脱を余儀なくされたが、国内で最も才能ある選手の1人に対する指揮官の対応は懸念すべきかもしれない。次のEUROで中心になることが期待されるパーマーだが、トゥヘルの下でプレーした代表戦はわずか3試合のみ。度重なるコンディションの問題が代表を遠ざけているが、だからこそ、トゥヘルが手を差し伸べる必要があるかもしれない。

  • 一貫性

    Liverpool v Nottingham Forest FC - Premier League 2026/27
    Getty Images Sport

    そんなトゥヘルが目下の焦点としているのはUEFAネーションズリーグであり、イングランドは最上位リーグに復帰、ウェンブリーで世界王者かつ欧州王者のスペインとの初戦に向けて準備を進めている。その後、チェコとクロアチアに遠征し、最後は再びウェンブリーでチェコと対戦して、この非常に長い代表ウィークを締めくくる。

    しかし、代表から離脱したのはパーマーだけではない。ライス、コビー・メイヌー、ラッシュフォード、ティノ・リブラメントも負傷により辞退している。詳細は明かされていないが、シーズン序盤ということもあり、各クラブが大事な戦力を守るため普段以上に慎重になっているようで、これはトゥヘルにとって理想的な状況ではない。

    これを受け、トゥヘルは中盤でライスとメイヌーの不在を埋めるためもエヴァートンMFジェームズ・ガーナーを招集。さらに、ノッティンガム・フォレストからモーガン・ギブス=ホワイトも加えた。トゥヘルは当初、ベリンガム、ロジャーズ、エゼに加えてさらに10番タイプを入れても「誰の助けにもならない」と感じ、再びギブス=ホワイトを見送っていた。しかし彼が偽9番、両ウイング、さらにはより低い位置でもプレーできる多様性を持っていることを、どうやら認識できていなかったようだ。選手としての影響力で言えば、大会中にアクシデント的に骨折した36歳のジョーダン・ヘンダーソンより、間違いなく上である。彼がパートナーとの休暇を切り上げ、電話を叩き切るのではなく今回のキャンプに合流してくれたことを幸運に思うべきだろう。

    トゥヘルは今後、代表選考の基準をより実力本位にしていくべきである。ヘンダーソンは今回ケガのため選考対象ではなかったが、そもそも候補に入っていたという事実自体が不安を抱かせる。トゥヘルはピッチ全体にわたって、より一貫した考え方を示さなければならない。

  • 未来を見据えて

    Rio Ngumoha Liverpool 2026 pre-season
    Getty

    トレント・アレクサンダー=アーノルドは、パーマーやギブス=ホワイトと並んで過小評価された戦力だ。あの驚異的なパスレンジはワールドカップでも武器になったはずであり、アルゼンチン戦で一気に状況を打開できたかもしれない。レアル・マドリーでは難しい時期を過ごす彼だが、トゥヘルは条件付きで彼を再び呼んでいる。

    「必要なのは結果を出すこと。それに尽きる。これは競争であり、我々はほかの選手たちを信頼した。私は今でもその決断を支持しているし、今は彼が自分のポジションを懸けて戦う時だ」

    「彼はいつも戦う覚悟があると言っていたし、自分の居場所を懸けて戦うつもりだと、特にイングランドのためにそう言っていた。だから証明するのは彼自身だし、キャンプで彼を迎えることは大歓迎だよ。長いキャンプになるし、きっと存在感を示してくれるだろう」

    また、最終ラインの不安も尽きない。キャリア終盤に差し掛かるジョン・ストーンズの明確な後継者は存在せず、マーク・グエイとコンビを組むタイプの選手が見当たらない。ジャラッド・ブランスウェイトは今季上々のスタートを切ったが、いきなり先発に定着することはないだろう。

    さらにトゥヘルは、ケインの控えという大きな問題を抱え続けている。今回はドミニク・カルヴァート=ルーウィンが最初の交代カードになるだろうが、トニーのいるサウジアラビアへ旅立ったオリー・ワトキンスは完全に構想外となる可能性がある。ケインは34歳でも驚異的な活躍を続けているが、全試合フル出場を求めるのはあまりに酷である。

    そうした意味でも、指揮官はアストン・ヴィラの17歳、ブライアン・マジョの抜擢を早めなければならないかもしれない。すでにルクセンブルク代表デビューを飾っている逸材だが、出場は国際親善試合のみ。ケインの長期的な後継者として、早めに試しておく価値は十分にあるはずだ。トゥヘルが評価できるのは、すでに多くの若手選手にチャンスを与えていること。今回で言えば、リオ・エングモアにアレックス・スコットだ。若手の抜擢に意欲的な指揮官であるからこそ、早急な動きが求められる。

    さらに、すでにトゥヘルのお気に入りになりつつあるマイルズ・ルイス=スケリーは今回で代表キャップを伸ばすだろうし、ルイス・ホールもそうなるだろう。そしてアーセナルの神童マックス・ダウマンも、現在の成長曲線を維持し続けるのであれば、近い将来確実に候補に入ってくるだろう。

    トゥヘルは、今後2年間のサイクルでこうした若手を継続的な戦力にできれば、多くの懐疑派を納得させられるだろう。適切な指導を施し、数年後を見据えた成長プランを見せることができれば、間違いなくイングランドはさらに強力なスカッドを手にできるはずだ。イングランドには、スペインと同じフットボールレベルに到達するために必要な選手層がある。

    だからこそ、トゥヘルは“DNA”的な言い訳に囚われるのではなく、今の才能に目を向けて、彼らに適したプランを組まなければならない。さもなければ2年後のEUROで歴史は繰り返され、カペッロと同じ運命を辿ってしまうかもしれない。