Getty/GOALなぜソボスライは遠くから狙うのか?データ時代に抗う“ロングシュートの美学”
今季から新体制がスタートしたリヴァプールだが、プレミアリーグ開幕から4試合でわずか1勝にとどまるなど、スロースタートを切っていた。第4節アンフィールドでのフラム戦が精彩を欠くスコアレスドローに終わり、ファンは士気を高める何かを切望していたが、続くカラバオカップ3回戦のトッテナム戦も再び冷や汗をかく展開となった。
アレクシス・マック・アリスターとコーディ・ガクポのゴールで2-0とリードしたが、69分に1点を返され、さらに同点ゴールを狙うトッテナムの猛攻に苦しんでいた。しかし粘り強く守り続ける中で、ある1人の選手が見せた天才的なプレーが試合を決めてしまっている。
左サイドでボールを持ったガクポがDFの頭上を越すふわりとしたパスを送る。これを受けたドミニク・ソボスライは、胸でボールをコントロールすると、右足を一閃。目一杯に体を伸ばしたトッテナムGKマルティン・ドゥブラフカも届かず、強烈なシュートがゴール右上隅へと突き刺さった。約32メートルの距離から放たれたこの強烈な一撃が決まると、スタンドの観客は熱狂。ブラッドリー・バルコラも思わず頭を抱えている。
だが、このハンガリー代表MFがボックス外からスーパーゴールを叩き込む光景は、すでにリヴァプールファンは何度も目にしているはずだ。2023年夏に加入して以降、ソボスライほどボックス外からゴールを叩き込んだプレミアリーグの選手はいない(13ゴール)。本人はこう振り返る。
「僕のベスト5には入るね。良いシュートが打てた時は、自分でも感触でわかるものなんだ。最初は中央に向かうかと思ったけど、右に曲がっていくのが見えた。すべてが完璧だったよ」
ジョゼップ・グアルディオラが到着して以降、プレミアリーグには彼の“模造品”が溢れかえり、どのチームも複雑にショートパスをつなぐスタイルを目指した。その結果、イングランドのファンが愛する「スクリーマー(思わず叫んでしまうような強烈なロングシュート)」は絶滅に迎えっている。だがしかし、ソボスライだけは、この「失われつつある芸術」を愛し続けているのだ。
文=James Westwood
日常的なスーパーゴール
Getty Images Sport1990年代~2000年代初頭にかけて、ロングシュートは試合の重要な要素だった。当時の守備は現在ほどコンパクトではなく、多くのチームが自陣ゴールを守るためにペナルティエリア付近まで引いて守っていたこともあり、相手選手が強烈なシュートを放つための広大なスペースと時間が生まれていたからである。
当時はファンだけでなく、監督も「とりあえず打ってみる」「GKを試してみる」といった姿勢を積極的に推奨していた。枠を大きく外したり、高くふかしたりするシュートも散見されたが、同時に驚異的なゴールももっと日常的に生まれていた。今でも、「真のスーパーゴール」を聞かれた際、1994年にサウサンプトンMFマット・ル・ティシエがブラックバーン戦で決めた約32メートルのロングシュート、1995年8月にリーズFWトニー・イエボアがリヴァプール戦で決めたボレーシュートを挙げるプレミアリーグファンは多いはずだ。また1996年には、デイヴィッド・ベッカムがウィンブルドン戦で自陣から決めた超ロングシュートが生まれ、その4年後にもポール・スコールズがブラッドフォード戦で衝撃的なダイレクトシュートを突き刺している。
スコールズは2006年12月のアストン・ヴィラ戦でも同じようなゴールを決め、BBC『マッチ・オブ・ザ・デイ』の月間最優秀ゴールに選ばれた。そしてその時の候補は、いずれも「スクリーマー」ばかりである。ポーツマスのマット・テイラー(vsエヴァートン)、チェルシーのマイケル・エッシェン(vsアーセナル)、ブラックバーンのモアテン・ガムスト・ペデルセン(vsニューカッスル)と、すべてがエリア外からの強烈な一撃だった。
この他にも、ファンの数だけ忘れられないスーパーゴールがあるだろう。そして、それこそが重要なのだ。我々はそうしたゴールを日常的に目にする恵まれた時代にいたのだ。しかし残念ながら、フットボールが進化するにつれて、2010年代以降はこうしたゴールが極めて珍しいものとなってしまった。
データ主導のフットボール

2025年12月に『Opta』が公表したデータによると、プレミアリーグでは(2003-04シーズン以降)全ゴールの平均「85.7%」がペナルティエリア内から生まれており、その平均決定率は「15%」となっている。データの導入は、イングランドのみならずヨーロッパ全体のフットボールのあり方を一変させた。
グアルディオラのような緻密な戦術家たちは、より価値の高い、ゴールに近い位置でのチャンスを作り出すことを優先した。得点機会の質を測る指標として「ゴール期待値(xG)」が定着し、すべてのシュートに対して、それがゴールにつながる確率を示す0から1の数値が割り当てられるようになった。データアナリストや科学者たちの分析により、約27メートル(30ヤード)の距離から放たれるシュートの決定率は通常3%未満であることが判明し、多くのチームがそうしたシュートを「無駄」とみなすようになっていった。
自陣深くに引いて守る戦術も時代遅れとなり、ハイライン戦術に取って代わられた。現代フットボールにおいては、激しいプレッシングとトランジションの重要性がますます増している。この戦術が機能すればするほど、シュートの機会はボックス内に限定され、遠距離からシュートを放つ必要性が大幅に減少していくのである。
「そこに愛はあるのか?」
Getty Images Sportこうした変化は、必ずしも歓迎されたわけではない。特に、かつて驚異的なシュートでファンを魅了した往年の名選手たちには受け入れがたいもだった。リヴァプールやイングランド代表で活躍したジェイミー・レドナップもその一人であり、2024年にはこの問題について『iPaper』で次のように語っている。
「今の選手たちは徹底的に管理された指導を受けている。まるで自分たちで考えることをやめてしまったかのようだね」
「もし学者や統計の専門家に試合を支配させてしまったら、競技本来の純粋さはどこへ行ってしまうのだろうか? そこに『愛』はあるのだろうか? 歴史に残るような名場面は生まれるのだろうか? ボビー・チャールトンに向かって『xGが0.1しかないから25ヤードの距離からは撃つな』と言うのだろうか? 『君は世界最高のシュート技術の持ち主だが、成功率が低い。そこからは撃つな』とね」
「私はよくロングシュートの練習をした。しかし、今ではあまり見られなくなったね。おそらく選手たちが十分に練習していないからだろう。こういう時こそ『感覚』が重要になる。学者やコーチ、統計といった要素を一旦脇に置いて、『よし、ここで撃ってみよう』と判断するんだ。スタッツがプレーヤーの『感覚』を邪魔してはいけないよ」
2005-06シーズン、プレミアリーグにおける全シュートの「48.2%」がペナルティエリア外から放たれており、これは史上最高の数値となっている。しかし2011-12シーズンにはその割合が「44%」に低下し、2020年代に入ってからは平均「31.7%~33.1%」の間で推移している。
これをレドナップの主張に合わせるならば、選手たちが「感覚」よりも機械的な判断でプレーし、「愛」が薄れていることになるのだろう。
ジェラードのように
Getty Imagesリヴァプールでも同じ現象は起きている。クラブの象徴であるスティーブン・ジェラードが去って以来、彼らにはロングシュートの名手が不在だった。ジェラードは現役時代、ペナルティエリア外からプレミアリーグで33ゴールを記録しており、この数字を上回るのはフランク・ランパードとベッカムの2人だけである。
ジェラードがゴールを狙える位置にボールを置くと、たとえどれほど距離があっても、リヴァプールのファンは一斉に「シュート!」とスタンドから叫んでいた。大砲のような右足から放たれる強烈なシュートを誰もが望んでおり、その期待に応えるように彼も2001年のマンチェスター・ユナイテッド戦やチャンピオンズリーグのオリンピアコス戦、2006年のFAカップ決勝ウェストハム戦のハーフボレーなど、信じられないようなゴールの数々をファンの記憶に刻んでいる。
そんなレジェンドと、ソボスライはアンフィールドに到着した瞬間から比較されてきた。それは彼が背番号8を受け継いだだけでなく、彼自身もジェラードにインスパイアされたタトゥーを入れていることを公言しているからだ。そして今の彼は、「スクリーマー」においてはジェラードに匹敵する存在となっている。個の力に頼るよりも、戦術に忠実な選手が重宝される現在のプレミアリーグという環境にいながらにして、である。彼はジェラードに劣らないシュート力を見せ、意のままにボールを操る。そして、大胆な角度や距離からでもゴールを狙う自信を常に持っているのだ。
実際、ソボスライがリヴァプールでこれまでに決めた31ゴールのうち、「42%」が長距離からのものだ。彼の初ゴールは2023年9月のアストン・ヴィラ戦、見事なハーフボレーを突き刺したが、あれは今後の活躍の予兆でも合った。彼は無難な選択肢を選ぶようなタイプではない。チャンスがあればどんな位置からでも決定的な仕事ができると理解しており、それこそが彼を唯一無二の存在にしている。
FKのスペシャリスト
Getty Images Sportそしてソボスライの揺るぎない自信がなければ、リヴァプールは今季チャンピオンズリーグにも出場できていなかったかもしれない。アルネ・スロット体制の最終年はあっさりとタイトルを明け渡し、プレミアリーグでは5位に滑り込むのがやっとだった。その中でソボスライは公式戦13ゴールマーク、そのうち8ゴールはボックス外からのものだった。
さらに、この年のソボスライはプレミアリーグでFKから4ゴールを奪い、クラブのシーズン最多記録を更新。最初のゴールは9月のアーセナル戦、後に王者となる相手に対して約30メートルの距離から驚異的なシュートを突き刺した。このシュートはリーグのシーズン・ベストゴール候補にも選ばれ、プレミアリーグ史に残る最高のFKの1つとして記憶されるだろう。
そんなソボスライは今年5月、『スカイスポーツ』の企画でレドナップとFKの技術解説を行った。その際、彼は「ボールだけに集中する」こと、そしてボールのバルブ(空気注入口)を捉えることを意識していると明かした。この技術は、クリスティアーノ・ロナウドがマンチェスター・ユナイテッドで在籍期間中に披露し、広く知られるようになったものである。ソボスライは、オープンプレーでわずかなスペースができた際にも同じアプローチをとることが多く、ボールの真芯を捉えて回転を抑え、フォロースルーを短く止めることで空中で変化する軌道を生み出している。
ロマン
Gettyイラオラ監督は今シーズン、リヴァプールに対し、より積極的に遠距離からのシュートを放つよう促しており、ソボスライの才能をさらに活かそうとしているようだ。先週のスパーズ戦での勝利後、マクアリスターはクラブ公式メディアチャンネルに対し、「僕らはシュートの練習をたくさんしているんだ。ドム(ソボスライ)にはその才能があるし、彼にとっては自然なことなんだよ」と語っている。
そして今季のプレミアリーグでは、彼に追随する動きが出始めている。『ガーディアン』によると、昨季生まれた総得点のうち、ペナルティエリア外からのゴールはわずか「13.9%」だったが、今季開幕5節を終えた段階では「17.2%」にまで上昇している。一方で、エリア内からのゴールは「25.1%→18.7%」へと減少した。
それには躍進を続けるブライトンも大きな役割を果たしている。ルイス・ダンクが約27メートルの距離から強烈なシュートを叩き込み、ヤシン・アヤリもコヴェントリー戦(5-0)でエリア外からネットを揺らした。土曜日に行われたアーセナル戦(3-0)では、パスカル・グロスとチャラランポス・コストゥラスが同様のゴールを決めている。またアストン・ヴィラでも、エミリアーノ・ブエンディアがトッテナム戦で約23メートルの距離からシュートを突き刺していた。
相手をリスペクトする形で自陣低い位置にブロックを敷くクラブが再び現れた一方で、より大胆なプレーを見せるクラブも増えている。その結果、遠目からシュートを狙う傾向が再び強まっているのだ。一時代を築いたグアルディオラがプレミアリーグを離れたことで、質の悪い“模造品”が減ったこともその一因かもしれない。
こうした「ロマン」を追い求める変化は、すべてのファンが歓迎すべきことだろう。そしてこの変化において、ソボスライの功績は大きい。彼は自己表現や適切なリスクテイクの余地が常に存在すべきであることを証明してみせた。純粋な直感は今でもアルゴリズムに打ち勝つことができ、人々がなぜこの「美しいゲーム」に魅了されたのかを思い出させてくれるのだ。
