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【戦術分析】「肉を切らせて骨を断つ」…現レアル・マドリーの基礎とPSG戦の「これ以上ない方法論」を西紙分析担当が紐解く

チャンピオンズリーグ(CL)はいよいよ決勝トーナメントに突入した。物議を醸した抽選会を経て、このラウンド16で最も注目が集まるカードは(様々な理由から)パリ・サンジェルマン(PSG)対レアル・マドリーと言ってもいいだろう。

今季カルロ・アンチェロッティ監督が再任したレアル・マドリーだが、グループリーグでは5勝1敗の成績で首位突破。ラ・リーガでも第24節終了時点で首位を走るなど、順調な戦いを続けている。そして迎えるラウンド16、世界最高の攻撃陣を誇るPSG相手に、彼らはどのように戦うべきなのだろうか?

以下に続く

スペイン大手紙『as』の試合分析を担当するハビ・シジェス氏は、この大一番でも「ゲームプランが変わることはない」と断言する。では、そのゲームプランとは? アンチェロッティ体制下で積み上げてきた攻守の基礎と最大の武器、不安要素を紐解いていく。

文=ハビ・シジェス/スペイン紙『as』試合分析担当

翻訳=江間慎一郎

現レアル・マドリーの基礎

欧州仕様のレアル・マドリーは、私たちのフットボール的観点や次元を超越していく。たとえ対戦する相手よりチーム状態やパフォーマンスが劣っていても、なぜか最後には勝利をつかみ、トロフィーを掲げるところまでいってしまう。現在カルロ・アンチェロッティが率いているチームについても、マンチェスター・シティ、バイエルン・ミュンヘン、チェルシー、リヴァプール、パリ・サンジェルマン(PSG)と、自分たちよりポテンシャルが上の相手に本来手が届くべきではない。が、それでもマドリーはすべてを否定していい存在ではないのだ。そして、アンチェロッティが今季打ち込んでいる仕事は、まさに今挙げたようなチームたちと競い合うためのものとなっている。

今季が始まった直後、マドリーはいきなり壁にぶつかっている。プレスが安定せず、それに伴い後方の守備も脆くなり、それが全体のパフォーマンスにマイナスの影響を及ぼした。レバンテ&ビジャレアル戦の引き分け、エスパニョール&シェリフ戦の敗北、インテル&バレンシア戦のまったく値しなかった勝利……。これらの結果を受けたアンチェロッティは、プレー構造を大きく変化させる必要性を悟っている。マドリーはそこからハイプレスを仕掛けることをやめて、ピッチ中央からやや下がったところでブロックをつくり、トランジションにプレーの基礎を置いた。イタリア人指揮官は、イニシアチブを取らず引きこもった方が強大な相手とも渡り合えると、考えを改めたわけだ。

確かに、マドリーの陣容を見れば彼の再考は理にかなっている。このチームに絶対に欠かせないルカ・モドリッチとトニ・クロースは、もはやプレスに力を注ぐこともアップダウンを繰り返すこともできない。だからこそ彼ら2人の創造性に加え、カリム・ベンゼマの予見力、ヴィニシウス・ジュニオール(とロドリゴとマルコ・アセンシオ)の突破力をトランジションで生かすことにしたのだ。ピッチ中央よりやや後ろに位置し、そこで攻守の安定を図り、縦に速い攻撃で決定力を発揮……。マドリーはスペイン国内で通用したこのプレー構造を、これからCLのノックアウトダウンで試すことになる。

肉を切らせて骨を断つ

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マドリーは今回のPSG戦、これまで行ってきたプレーを踏襲するだろう。スターティングメンバーは右ウィング(ロドリゴ、アセンシオ、もしくはフェデ・バルベルデかも)を除いて固定されており、GKティボー・クルトワ、DFダニ・カルバハル、エデル・ミリトン、ダヴィド・アラバ、フェルラン・メンディ、MFカセミロ、モドリッチ、クロース、FWベンゼマ、ヴィニシウスという10人の主力は、もう誰もが暗唱することができる。ボールを持っていないときの布陣は1-4-1-4-1で、それを前述のように自陣で展開(ボールを失った直後にすぐ奪い返すことを狙う時間帯を除いて)。今のマドリーはボールを相手に譲ることを問題としていない。が、その守備が完璧な秩序を持っているかといえば、そうでもない。

マドリーの守備はクルトワの好セーブとミリトン&アラバの新センターバックコンビに随分と依存している。自陣に引いたとき、モドリッチ&クロースの背後やサイド(ヴィニシウス)の守備が疎かになることが間々あり、守備組織が完全ではないのは明らかである。しかし、彼らはそうした苦しみをそこまで嫌がっていないようだ。そこからは相手に押し込まれれば「敵陣がもっと開かれ、もっと走ることができる」という肉を切らせて骨を断つのメンタリティーが垣間見える。

モドリッチとクロースは今なお最高の建築家たちだ。彼らは前からプレスを仕掛けられても、1~2タッチで巧みに前を向いてパスを出し、カウンターを成立させる。またテクニックにも優れるアラバが加入したことも、攻撃を展開する上で大きなプラスとなった。そして前線で彼らからボールを引き出すのが、ヴィニシウスとベンゼマのコンビである。彼らの相乗効果はほかに類を見ないレベルまで到達している。ベンゼマがそのインテリジェンスによって後方に下がったりサイドに流れたりしながら相手DF陣を惑わせたかと思えば、ヴィニシウスもサイドバックとセンターバックのスペースを突いたり1対1を攻略したりと守備網をかき乱す。片方が相手の守備に隙を生じさせれば、もう片方が決定力を発揮する。

今のマドリーは縦に速い攻撃を好んでいる。ポジショナルな攻撃もできないことはないが、相手が後方に引いたときにはいつも苦労を強いられ、クロースのサイドチェンジ、モドリッチ&ベンゼマのひらめき、ヴィニシウスの突破力頼りとなってしまう。その点で、PSGのプレースタイルはマドリーにとって悪いものではない。ボールを持たないPSGは全員が働くわけではなく、そのプレスには明らかなムラがある。彼らは撤退守備でも問題を抱えている。

不安要素

Carlo Ancelotti Real MadridGetty

PSGとの大一番でも、アンチェロッティのゲームプランが変わることはない。PSGが大胆にプレーするのならば、マドリーはヴィニシウスが彼らの最たる弱点であるアクラフ・ハキミの背後を突くだろう。それと右ウィングを起用する代わりに、バルベルデを4人目のMFとして出場させるのもありかもしれない。PSGの攻撃の機関部であるマルコ・ヴェッラッティに蓋をするとともに、自分たちの攻撃でサイドで深みを取れるようにするためだ。

アンチェロッティが見出した現在のマドリーのプレー方法には、不安もつきまとう。PSGのポジショナルな攻撃を許したとして、ピッチ中央やや下り目で形成されるマドリーの守備ブロックが耐え切れるのか、速攻まで持ち込むことができるのかは分からない。リオネル・メッシ、ネイマール、キリアン・エンバペには、やはりボールを持たせない方がいいはずだ。肉を切らせるはずが骨まで断たれてしまっては、元も子もないのだから。

しかし現在のマドリーに、これ以上の方法論はないように思える。危険ではあるが、少なくとも一つの確固としたプランは持っているのだ。

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