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なぜ優勝にたどりつけなかったのか。アジア杯を戦う日本代表にあった2つの“問題”

■冨安が指摘し続けた“熱量”問題

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中東勢の躍進に盛り上がるカタールで、日本代表のアジアカップは静かに幕を下ろした。2011年以来の優勝を目標に掲げながら挑んだ大会で、結果は準々決勝でイランに敗れて敗退。世界のトップリーグで活躍する選手を揃え、今大会の優勝候補と目された中、日本はあっけなく大会を去ることになった。

なぜ日本は優勝へとたどり着けなかったのか。そこには様々な要因が考えられる中、今回は二つの目線で考えてみたい。

一つは、冨安健洋が最後まで指摘し続けた“熱量”問題だ。大会前から選手たちは口を揃えて「慢心はない」、「油断はない」と語っていたが、例えば昨年のドイツ戦のようなテンションは、初戦のベトナム戦から全く感じることができなかった。

以下に続く

グループステージからエンジン全開で行けとは言わないが、後々、堂安律らから「アジアをなめている」という発言が出てきたように、これまでできていたことをピッチで表現できなかったのは明らか。それをアジアの難しさというのは簡単だが、結局のところ、アジアカップに対するプライオリティが低下したと表現していいだろう。各自のクラブレベルが上がったことで、代表における“アジアとの戦い”に対するモチベーションにギャップが生まれたことは否定できない。

そういったモチベーションの難しさに付随しつつ、明るみになったのがピッチで誰がチームに対して発信できていたかということ。「悪い時の日本が出て、その状況を変えようとする選手が何人いるかというところで、正直、熱量を感じられなかったというか、物足りなさを感じた」とは冨安の言葉。近年、苦しい時にチームの雰囲気を変えられる選手であったり、周りを引っ張れる選手がいなかったことは明白で、今大会でもそれがあと一歩のところでチームを前進させられない要因となった。

この改善方法は選手個々が意識を変えていくか、今大会におけるソン・フンミンではないが冨安が言うように「良くないときに1人で守る、良くないときに勝手に1人で点を取ってしまうような超越した選手になること」のどちらかだろう。

特に前者に関しては日常のところから意識していかないと変えられるものではなく、選手個々の成長が求められる部分となる。W杯は当然モチベーションの上がる大会となるが、それ以外、特にアジアと戦う時の姿勢は、今後の最終予選等にも関わってくるだけにマインドを変えていく必要があるだろう。

■守田が意見したベンチサイドの問題

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もう一つは、守田英正がイラン戦後に意見したベンチサイドの問題だ。これは今に始まったことではない。指揮官やスタッフの意見を聞きながら、選手同士がコミュニケーションを取りつつ自分たちの戦い方を構築しているのは周知の事実で、これまでも相手の対策であったり、試合中に相手がやり方を変えてきた時にピッチ内で修正し切れない試合は少なからずあった。

それが今回は、優勝候補の日本に対してより相手が綿密に策を練ってきたことでピッチ内での修正に限界が訪れ、その結果、守田の「外からこうした方がいいとか、チームとしてこういうことを徹底しようとかが欲しい」という発言につながることになった。

守田は今回の発言の際、非常に言葉を選びながら絞り出すように思いを口にしていたが、森保一監督を始めベンチ側から「もっと提示して欲しい」というのはこれまでもよく話題に上がっていたこと。例えばプランAからDまでを全て選手たちだけで構築することは難しいため、ベンチサイドから解決策を提示してもらったり、時には試合中に変更することを求めているのだ。

もちろん選手たちがさらにレベルアップし、自分たちで全て解決できるようになればいいが、それはそう簡単な話ではない。そういう意味では、今回の大会に関しては指揮官やスタッフが対応策等をもっと提示することができれば、違った結果になっていた可能性は否定しきれない。

ただ一方で、そういった状況を分かった上で指揮官が”動かない”ことを選択している節もある。「勝つことを目的にやっていますけど、同時に自分たちの力を測るという目的ではいつもいる」と以前話していたが、目の前の勝利とともに日本サッカーの発展を考えるが故に、何もしないことで選手たちがどう反応し、どういった解決を図るかを見守っているところがある。そこは森保監督の”ズルさ”と表現していい。東京五輪世代を率いている時から感じられたことだが、二兎を得るための方法として、果たしてそれが正解なのかは疑問が残る。これは各自で見方が変わるポイントと言っていいだろう。

いずれにしろ今大会の敗因は、選手、指揮官、スタッフの全員にある。何かしら一つがダメだったから負けたというわけではなく、どこも足りなかったと言うのが正しい。

「常に今の自分たちよりレベルアップできるようにと、一歩一歩成長できるようにしていきたい」(森保監督)

失敗に終わったアジアカップを意味のあるものとするためにも、この経験を糧にチームが新たな方向へと進んでいくことを期待したい。

現地取材・文=林遼平

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