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レアル・マドリーを死の淵から救った男、ジダン。CL史上最も成功した指揮官の素顔

17:50 JST 2021/04/27
real madrid champions
【欧州・海外サッカー コラム】現役時代から指揮官としての現在に至るまで、偉大な功績を残してきたジネディーヌ・ジダン。煌びやかなトロフィーとは対照的に謙虚な性格ながら、内に秘めた覚悟と信念は揺るぎない。レアル・マドリー(ラ・リーガ)を率いる彼を、マドリード在住ジャーナリストが綴る。

■右端

スペイン首都バラハス空港の近くにあるレアル・マドリーの練習場。2年前、トップチームが使用する建物の玄関には、チャンピオンズリーグ三連覇を果たした際の集合写真が貼られていた。

壁一面を覆う大サイズの写真の中で、ビッグイヤーとともに中心にいるのはセルヒオ・ラモスやクリスティアーノ・ロナウドといった選手たち。監督のジネディーヌ・ジダンはというと、右端で、あのはにかんだ笑みを浮かべていた。顔以外はすべて隠れていて、きちんと探さなければ見つからない。その立ち位置はシャイな性格と、しかし胸に秘める信念が反映されているように思えた。

あの栄光の瞬間から、レアル・マドリーはサイクルを終えた。一度、死んだ。いや、死んだように思えた。ジダンが去って、クリスティアーノが去って、直後のシーズンを無冠で終えることになった。しかし無冠が決定した直後、ジダンは戻ってきた。昨季にはラ・リーガ優勝を果たし、今季はラ・リーガとチャンピオンズリーグで生き残っている……。彼が1シーズンを通してチームを率いるとき、メジャータイトルを獲り逃したことはまだ一度もない。終わったと思われたサイクルは、ジダンとともに続いている。チームは、まだ生きている。

■唯一の裏切り

ジダンは不思議な存在だ。史上最高の選手の一人としてフットボール史に残る存在であるのに、まったくおごりが見えない。自分のことを「フットボール史上で、自分はベスト20に入れるかどうかだと思う」と本気で言ってのける。その一方で確固たる信念があり、そこは何があっても守ろうとする。現役最後のワールドカップ決勝という舞台で、頭突きをすることさえ厭わないほどに……。そんなジダンが自分自身を裏切ったことが一つだけあるとすれば、それは監督になったことなのかもしれない。2006年にスパイクを脱いだときに「監督には絶対にならないね!」と語るなど、指導者の道を進むことだけには一貫して否定的だったのだから。

「監督としての役割を務めるには、とても特別な能力が必要とされる。私にはそれがない。98年ワールドカップのフランス代表メンバーの中で、素晴らしい監督になれるのは2人だけだと思う。それは誰か? ローラン・ブランとディディエ・デシャンだよ」

彼の考えは当たっていたし、ブランとデシャンは監督としてそれぞれ成功をつかんだ。だが自分にも指導者としての才能があることは、まだ気づいていなかったのだろう。ジダンがその道を志したのは、フットボールともう一度、直接的な関わりを持つためだった。レアル・マドリー会長フロレンティーノ・ペレスの相談役を務めたり、ゼネラルディレクターの講習を受けたりした挙句、彼は芝生の匂いを直に嗅げないことの辛さに気が付いた。

「自分の決断が、すぐさまピッチに反映されてほしい」

2011年、この欲求が彼の頭を飲み込み、ついに一歩を踏み出した。過去の功績から監督ライセンスを1年足らずで取得できたにもかかわらず、フランスでみっちり3年間勉強する道を選んだ。それからカルロ・アンチェロッティの助監督を務め、レアル・マドリーのBチームであるカスティージャを率い(必要な監督ライセンスをまだ取得していなかったという騒動もあったが)、レアル・マドリーのトップチーム指揮官に就任。成し遂げた偉業は、誰もが知るところだ。「監督には絶対にならないね!」との考えを曲げた人が、マドリーの過去のどんな監督よりも凄まじい軌跡を描いている。彼が「いつか監督になるよ」と適当に話すタイプの人間だったら、おそらくこうなってはいなかったのではないか。リスクしかなかったマドリー監督復帰といい、覚悟をしっかりと固めるがゆえの強さが、このアルジェリア系フランス人にはあるような気がしてならない。

■価値

ジダンが監督として備える資質は、元世界最高の選手という肩書きに相反するような謙虚な人間性(『レキップ』の記者が外で行ったインタビューで「君はこっちの大きい椅子を使いなよ」と言い、自分はおもちゃみたいなプラスチック製の子供用椅子に座った、というエピソードも)、謙虚ながらも揺るがない覚悟と決断力にある。それがレアル・マドリーを、選手たちを突き動かしてきた。しぶとく、危機的状態を乗り越えさせてきた。

振り返ればチャンピオンズ三連覇にしても、その内2回はコパ・デル・レイ敗退やリーガで早期に優勝が見込めなくなり、ほかの監督ならばお手上げとなるほど批判が集中していた中での達成だった。昨季のラ・リーガ優勝に関してもバルセロナに遅れを取りながら、パンデミックによる中断後に堅守と効率的な得点で10連勝を果たした末の偉業だった。そして新型コロナや負傷による離脱者が続出して、もうこれ以上はない極限状態に陥った今季、ジダンの監督としての資質は何倍もの価値を持つことになった。

■勝利のために

今季のレアル・マドリーもC・ロナウド退団後に抱える得点力不足は変わらず、引いて守る中小チームを相手に何度も不覚を取っている。最大限に批判が集中したのは年末年始の時期である。ラ・リーガではエルチェ、オサスナと引き分け、レバンテに敗戦し、コパでは2部Bのアルコジャーノ相手に敗退……。ジダン解任論が大きく騒がれることになった。しかし、ここでフランス人指揮官が胸に秘めた信念を開放する。会見で、こう言い放ったのだった。

「私たちは昨季のラ・リーガを勝ち取った。今季、最後まで戦うに値するはずなんだ。それこそチームが行っていくことにほかならない。これから、あらゆる出来事が起こり得るが、私たちはそうしていく。このチームがあきらめることなど決してない。それだけは約束できる。選手たちはフットボールをプレーしたいんだ。試合に勝ちたいんだよ」

この発言により、選手たちは間違いなく奮起した。それからここまでの公式戦成績は12勝5分けと負けなし。とりわけ、チームが完全に死んだとの烙印を押されるかもしれないビッグマッチではコーチングスタッフの仕事ぶり、彼らを取りまとめるジダンの決断力が冴え渡り、ポジティブな結果を必ず収めてきた。

チャンピオンズ決勝トーナメント1回戦アタランタ戦のファーストレグ(1-0)ではイスコが偽9番として前線でスペースをつくり、準々決勝リヴァプール戦のファーストレグ(3-1)では相手の高い最終ラインをヴィニシウス・ジュニオール&マルコ・アセンシオで突き、クラシコ(2-1)ではジョルディ・アルバをフェデ・バルベルデで封じつつリヴァプール戦と似たような形の速攻を繰り返し、リヴァプールとのセカンドレグ(0-0)では低い守備ブロックでリヴァプールのポジショナルな攻撃を封じて……と、ジダン・マドリーはカメレオンのように各試合で効果的な戦術を駆使。そしていずれの戦いでもC・ロナウドがいた頃からこのサイクルを保ち続ける黄金の中盤カセミロ、トニ・クロース、ルカ・モドリッチを中心とする多種多様なビルドアップが光っていた。

極上の選手たちは自分たちのフットボールに固執するものだが、ジダンならば彼らを相手にしても柔軟な戦術を駆使でき、守備での献身性も求められる。そもそも、レアル・マドリーはこれまで確固たるプレースタイルを確立したことはなく、スタイルと言えるものは“勝つこと”だけだった。そんなチームにとって勝つためにカメレオンの如く色を変えるジダンのやり方以上の答えは、おそらくないはずだ。

■覚悟

マドリーは今季も、ジダンの覚悟とともに最後まで歩み続ける。ただ彼が来季もチームを率い続けるかは、分からない。

「ある日には選手が負傷し、次の日には個人的事情で違う選手が練習に参加できず、その次の日にはピッチ上で何かが起きる……。監督は主要な仕事以外にも、毎日10~15の案件を処理しなくてはならない。カルロの助手のときにはただアイデアを共有すれば良かったが、今は一番目の人間としてすべてを扱い、すベての責任を負う。すべての最終的な決断を私が下すことになる。自分より先に人はいない」

「監督はすべてを管理しなければならない。選手たちに供するサラダのオリーブオイルからすべてを管理しなければ。それがこのクラブで監督を務め続けるということなんだ」

「この仕事は選手たちが聞きたくないことも言わなければ。私が良い人間か分からなくなる。人の性格は偶然に支配されている。それでも悪い人間ではないのは確かだ。選手たちとはフェアに接していかなければならない」

「監督になるというのは、孤独と向き合うこと」

彼は敬意を寄せられる誠実な性格であるからこそ、監督という職業の重みを痛感している。精神的な消耗には敏感だ。そのためにチャンピオンズ三連覇を果たした後、もう続けられないと、スパッと辞めた。それでも、いや、だからこそ、彼が覚悟を固めている間、マドリーというチームが死ぬことはないのだろう。

「フィジカル的な限界はもちろんあるさ。しかし実際のところ、このチームの選手たちに限界はないのだと思う。今季、最後まで戦い抜くよ。私たちはメンタル的に素晴らしい状態だ。最後まで前へ進んでいきたい」

ジダン・マドリーはそのセオリー通り、今季の終わりに再びトロフィーを掲げているのだろうか。そうなったとき、彼はまた集合写真の右端で、あのはにかんだ笑顔を浮かべているはずだ。

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