Richard Arnold Ed Woodward GFXGetty/GOAL

マン・U新CEOに求められる「ウッドワードではない」証明…改革の中で迎える失敗できぬ最初の移籍市場

「ウッドワードではない」という証明

2月にマンチェスター・ユナイテッドの新CEOに就任したばかりのリチャード・アーノルドだが、乗り越えなければならない課題は山積みだ。

その中で最大のものは、サポーターに前任者「エド・ウッドワードではない」と証明することだろう。この51歳が新CEOに就任するにあたり、絶望感を募らせたファンの間では常にこのことが懸念されていた。

ブリストル大学卒業後にプライスウォーターハウスクーパースで務めたアーノルドは、ウッドワードの9年間の間に彼の右腕として働いた人物である。オーナーであるグレイザー一家にとっては、最も波風立たない方法で簡単に後任として任命された。だからこそ、ユナイテッドの栄光を取り戻すこととは別に、前任者と同じではないことを証明しなければならないのである。

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この2つの課題は、本質的にリンクしているかもしれない。だが長年の低迷に終止符を打つための第一歩として、彼がウッドワードと違うことを示さなければならないのだ。

流出したファンとの会話

先日流失したチェシャー州でのファンとの会話が、アーノルドの評判を落とすことはないだろう。彼は過去の失敗について、「選手獲得に10億ポンド(約1650億円)を費やしてきた。ヨーロッパのどのクラブよりも金を使った。今の状況には満足できない。将来に向けてどう解決していくのか心配だ。このままでは資金を使い果たしてしまう。私は会長(ジョエル・グレイザー)を擁護するためにいるわけじゃない」と真摯に向き合い、語っている。

問題は、ウッドワードがいい加減なことをし続けてきたこと。共に仕事をした人物からは「カリスマがある」と評価されてきた一方で、いつまでも楽観的であり、そして彼が主導した移籍は失敗の連続だった。欧州スーパーリーグ参加を宣言するずっと前から、すでにファンの信頼は失っていたのだ。

しかし、アーノルドがファンの訴えに真摯に向き合ったことは称賛に値する。さらに「監督とフットボールディレクターが望む資金がある。将来のため、新スタジアムや最新のトレーニング場へ投資するため、何かをしなければ」と、彼が実権を握る初めてのウインドウでエリック・テン・ハーグ新監督へのサポートを約束。サポーターへ楽観的な見方を与えた。

そして今、彼の挑戦はそれを実現することである。

アーノルドは、ユナイテッドの歴史で類を見ないフットボール・ディレクターを任命。ジョン・マータフにリクルート部門を任せることにした。これは自身の移籍に対する批判を遠ざけるだけでなく、「フットボールに関することをフットボール専門家の手に委ねる」という前任者と全く異なるアプローチを採用したことになる。ウッドワードの右腕時代にもディレクターの採用を訴えていた彼だが、今回CEO就任でそれを実現した形になる。また彼自身もフットボールに対する知識を深めるため、ラルフ・ラングニックのコンサルタント就任を求めていたのである(ラングニック退団により失敗)。

カギを握るディレクター

John MurtoughManchester United

アーノルドのテーマは「フットボールに関することには手を出さない」であり、だからこそマータフとダレン・フレッチャー(テクニカル・ディレクター)を任命、オーレ・グンナー・スールシャール以降の指揮官探しを任せていた。

昨年11月の時点では、ウッドワードの長年のお気に入りであるマウリシオ・ポチェッティーノが最も可能性が高かった。だがテン・ハーグの就任は、新時代のユナイテッドにおけるマータフの影響力の高さを示すものとなる。

これまでクラブと密接に働いてきた情報筋によれば、(オーナー)グレイザーが本当の意味で誰にクラブ運営を任せていたのかは不透明だった。ジョゼ・モウリーニョ時代に指揮官がアントニー・マルシャルの放出を望んでいたが、「ジョエル・グレイザーのお気に入り」というだけで無駄に終わったのも良い例だ。

だがこの夏、オールド・トラッフォードは大きく変わった。マータフの力は日を追うごとに明白になっている。現在は彼がユナイテッドの移籍戦略をリードし、ウッドワード時代に悪評を買った移籍責任者マット・ジャッジから交渉の主導権を奪ったのである。そしてサー・アレックス・ファーガソン以降、批判を浴び続けてきたスカウト部門も一新している。

こうしたことから推測できるクラブ内部のメッセージは、「いよいよ賢明な支出を進めなければならない」である。

アーノルドはマータフを非常に信頼しており、だからこそテン・ハーグの招聘を許可した。そして今夏、獲得を狙うターゲットは指揮官の希望に沿ったものになっている。

フレンキー・デ・ヨング(バルセロナ)はテン・ハーグのシステムにおいて非常に重要であり、クリスティアン・エリクセンも同じだ。さらに彼はフリーでもある。そしてアヤックスで指揮官の指導を受けたFWアントニーも、前線に新たな一面をもたらすだろう。

トップターゲットは指揮官の望む選手たち。そしてその土台ができたのも、マータフらの影響が大きい。

マータフはここ数週間の間、ポール・ポグバ、ジェシー・リンガード、フアン・マタ、ネマニャ・マティッチの退団を監督していた。特に前体制がオファーした新契約を断ったポグバとリンガードは、マータフとテン・ハーグの方針によって放出が決定。長年の懸案であったチームのリフレッシュが極めて重要なこととみなされたのだ。彼らだけでなく、マルシャルやディーン・ヘンダーソン、アーロン・ワン=ビサカ、フィル・ジョーンズ、エリック・バイリーの将来も不透明になっている。

最初の移籍市場

Erik ten Hag Manchester United GFXGetty Images

こうした改革は、時代に取り残されていた前体制とは違い、間違いなく良い兆候と言える。とはいえファンが納得するのは、結果を出してからだろう。

これまでのマーチャンダイジング、スポンサーシップ、ライセンシングなどの経歴がグレイザーを魅了しているのは疑いようがない。だが彼は、試合を実際に観戦するサポーターが重要であることもわかっている。その証拠が、過去10年間シーズンチケットの値上げをしないという決定に深く関わっていること。さらにオールド・トラッフォードに「アトモスフィア・セクション」の設置を推し進め、ファン諮問委員会やスキームにも関与している。

だがやはり、最も重要なのはピッチで何が起こるかだ。そして、彼にとっての最初のマーケットでチャンスを逃してはならない。

前任者ウッドワードの最初の移籍市場は、クリスティアーノ・ロナウド、ギャレス・ベイル、セスク・ファブレガス獲得に失敗し、高額でマルアン・フェライニを連れてきた。そしてそれ以来、彼は遅れを取り戻すことにやっ気になったが、これが10年近い失敗の始まりだった。

2022年夏は、アーノルドにとっての最初の移籍市場だ。この賭けは壮大なものであり、失敗は許されない。さて、どうなるか見てみようじゃないか。

取材・文=ジェームズ・ロブソン(『GOAL』マンチェスター・ユナイテッド番記者)

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