世界各国で止まっていたサッカーが戻って来た2020年初夏。Goal UK版のチェルシー担当記者からGoal日本版にヴィッセル神戸DF酒井高徳へ話を聞けないかという打診があった。イニエスタ、そしてドイツでの経験を聞きたいとのことだった。連戦の中Webインタビューを実施。ここでは、真摯に発せられた酒井の言葉をお届けする。(聞き手:ニザール・キンセラ/Goal UKチェルシー担当)
■イニエスタのリーダーシップ
Jリーグは2月22、23日の開幕節を終えて以降4カ月中断した。酒井のチームメート、アンドレス・イニエスタはこの期間を日本で過ごしている。コロナ・パンデミックの中でイニエスタはどんな存在だったのか。
オフ・ザ・ピッチではキャプテンとして、より強固なリーダーシップを発揮していたと酒井は発言する。
「今回のコロナに関してもそうですが、キャプテンとしてチームのことを思って発言してくれます。外国籍選手にもかかわらず、よりチームをまとめよう、よりチームのリーダーになろうとする姿勢を見せてくれている。すごく尊敬します」
何より、酒井自身がキャプテンとしての重圧をよく知っている。ハンブルガーSV時代、ブンデスリーガで日本人初のキャプテンに任命された。その中で降格も経験した。
「自分も他のチームでキャプテンをやっていたから、その難しさや勇気がすごく分かるんです。一流の人格を持っていないとなかなかうまく振る舞えないです」
メンタル面だけではない。イニエスタはピッチ上でも別格で、チームに大きな影響を与えているという。
「アンドレスと一緒にやっていて一番いいのは、やはり日々学べるところ。技術はもちろん、プレーでリードする姿勢。世界一流の選手と毎日一緒にプレーできる。一瞬一瞬が学びです。得点につながるパスはもちろん、大事なところでしっかり結果も出せる。去年の天皇杯準決勝といった大事な試合で得点を取る。彼の経験は、ヴィッセル神戸にとってすごく大きなものだと思います」
🄫J.LEAGUE■欧州を離れる決断の理由
イニエスタが日本で外国籍選手であるように、酒井も21歳のときに日本を離れ、ドイツ・ブンデスリーガで8年プレーした。シュツットガルトとハンブルガーSV。ハンブルガーSVでは降格を経験し、トラブルの中で日本復帰を選択した。
Jリーグに戻るにあたり、彼はカタルーニャ出身の元バルセロナのスーパースターの存在が選択の助けになったと認めている。セルジ・サンペールやトーマス・フェルマーレンがそうであったように。
「欧州を離れることを決断した理由を簡潔に二つ言うと、一つは家族のことです。ドイツで最後の2年ぐらいは離れ離れで暮らしていましたから。家族の元に戻ってサッカーがしたかった。もう一つは、ハンブルクではあまり良い環境でサッカーができる状態じゃなくなったからです。降格もあって自分のパフォーマンスもなかなか上がらなくて」
「クラブを探すときに、神戸が一番熱心に誘ってくれました。そして神戸にはイニエスタや(山口)蛍といった選手がいました。蛍はとても仲の良い友人でクオリティーの高いプレーヤーです。彼らの存在は自分が新たなチャレンジをする上で必要なものでした。何かを得られるチームというポテンシャルを感じて神戸を選んだんです」
■シュツットガルトの異能たち
🄫Getty Images(写真)ドイツ代表でのヴェルナー(左)とリュディガー(C)Getty Images
少し時代をさかのぼる。酒井はシュツットガルト時代、来季チェルシーに加入するライプツィヒのFWティモ・ヴェルナー、そして2017年からチェルシーでプレーするDFアントニオ・リュディガーという二人の現ドイツ代表とチームメートだった。酒井にとってドイツでの経験は、自身のワールドカップ出場と並んで間違いなく彼のキャリアの中でも最大の挑戦だったと言えるだろう。
「一番タフだったチームはバイエルン・ミュンヘン。嫌だった選手はリベリーとロッベン。ロッベンは左のカットインがあるからそれをなるべくケアして縦に行かせるように守備をしていました。リベリーは何でもできる選手。とりあえずボールが入った時に距離を詰めてスピードに乗らせないことを意識していました」
一番エキサイティングだった試合は、2011-12シーズン、ドルトムントとの対戦だと振り返る。
「4-4の試合です。アウェイで引き分けたんですけど、それはもう本当にクレイジーな試合ですごく楽しかった。ドルトムントはそのシーズン優勝しています。僕がブンデスに移籍したシーズンで、(加入した12月シュツットガルトは)13位だったけど、自分が出て最終的に6位でフィニッシュしてヨーロッパリーグにも行けた。誇りに思えるシーズンでした。若かったし『ここでやっていくんだ』というモチベーションにもなりました」
前述したように、シュツットガルトでは、現・ドイツ代表の二人のタレントともプレーしている。一人は、チェルシーが今夏、移籍金64億円、週給約2280万円の5年契約でライプツィヒから獲得したというティモ・ヴェルナーだ。
「ティモは17歳でした。シュツットガルトのユースでプレーしていた時のトーマス・シュナイダー監督がトップチームの監督に就任して、そのタイミングでユースから引っ張ってきたんです。すごくシャイでおとなしかったけど、スピードがあってガンガンドリブルを仕掛ける。ドリブルやシュートテクニックは当時からかなりのクオリティーがありました」
もう一人は、2017年からチェルシーに所属するDFアントニオ・リュディガー。
「18歳ぐらいだったかな。ティモよりちょっと早くユースから来ました。大きさもあって体も出来上がっていて、本当に18歳? って思うくらい。守備は人に強くてスピードがあたけど、ポジショニングがあまり良くなかったり、足元もあまり上手じゃなかった。ローマに移籍して守備のやり方や経験値を高めて、今はドイツ代表にも定着しています。チェルシーでも素晴らしい守備をしている。当時は結構いろんなところが粗削りだったのに、本当に成長したなって思います」
実際、ドイツの経験は酒井にとってどういったものだったのだろうか。
「ドイツに行った当初、迫力やスピードのレベルがJリーグとは比べものにならなくてビックリしました。でも、まだ若かったから何とかなると思って、アグレッシブにダイナミックにやったら、意外とうまくいきました。思っていたレベル通りではあったけど、それ以上に自分が結構できたというのが最初に行った印象です。でも何より自分自身がそのリーグで長くプレーできたこと、それ自体がうれしい驚きでした」
■神戸はまだ完成していない
🄫J.LEAGUEウィズ・コロナの時代。サッカーのルールも変化している。国際サッカー評議会(IFAB)は過密日程を考慮し、交代枠の一時的な規則改正を認めた。Jリーグも交代人数は3人から5人となった。これらの変化は選手側から見てどういう影響があるのだろうか。
「VARもそうですが、近年いろいろ変わってきていましたからね。選手の立場をより考慮したルールに変わってきている。交代枠の変更にしても、近未来的に考えれば5人枠は十分あり得ます。そういった変更は違った角度でサッカーに幅がもたらされるということで、サッカーを楽しむ一つの要素だとも思います。選手の疲労が考慮されていくことは大事。自分自身はまず柔軟に適応していくことだと考えています」
今季、Jリーグは全試合を消化できない可能性から順位決定方法を変更。降格なしも決定した。そんなシーズン、酒井は神戸のためにいかにプレーするのか。
「今季はコロナもあって難しくなっていますが、その中でチームの完成度をどんどん高めて、一つでも多くのタイトルを獲れるように自分のすべてを注ぎたい。僕らは王者になれる素質はあるけれど、結果を出せるほど完成されたチームではまだないです。だから、それを完成させるピースの一つになりたい。自分の経験を伝えて、一番はリーグを獲りたい。そのための手助けをしたい、そう思っています」
「サッカーができる喜びを毎日毎日噛みしめています。Jリーグに限らずヨーロッパのサッカーを見られること、世界中でサッカーが行われていることへの喜びもあります。選手なら世界共通で言えることですが、僕らが与えられる勇気や楽しさは計り知れないものがある。元気を失っている世界に対してサッカーで元気を送り続けられるんです。これはやる側としてもすごく大切なことで、それができる自分の職業に誇りを持っています。少しでも早くこの状況が回復することを願いながら、しっかりプレーし続けます」
神戸は18日、ノエスタに清水エスパルスを迎える。今季ここまで1勝2分1敗12位の神戸はここ2節無敗。ホームでの最初の「有観客試合」でもある。そんなノエスタのピッチには、見る者に元気を与えるため全力で、そして、サッカーができる喜びを全身で表現する酒井の熱き姿があることだろう。▶Jリーグ観るならDAZNで。1ヶ月間無料トライアルを今すぐ始めよう
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