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「勝つから愛しているのではない」ラ・リーガを制した“アトレティコ”という一つの生き様

■太陽

「ロヒブランコ(赤白)は二色ではなく一色だ。少なくともサポーターはそう感じているし、それにセンチメントというものは合理化できるものではない。そのために、誇りのために、1位だろうが2位だろうが15位だろうが、かまいやしない。つまり彼らは、勝つから自分のチームを愛しているのではない……。そのために愛しているわけではないが、自分のチームが勝つことは願っている。アトレティコは今回、優勝を果たした。ほかでもなく、リーガに。この物語は、終わりが来るまでは終わりがないように思えた。シメオネの軍隊は、順位表の最も上にいる。勝ち点86は、86の太陽だ」

僕が愛してやまないスペイン『マルカ』のアトレティコ・マドリー番アルベルト・ロメロ・バルベーロは、アトレティコの7シーズンぶり、通算11回目のリーガ優勝に際して、そんなことを記していた。最初から最後まで新型コロナウイルスのパンデミック下で行われたこの困難なシーズンに、いつも苦しみとともにあるチームが、終わりの見えないトンネルを生き延びながら抜けて、太陽を見たのだった。

■条件

アトレティコが、シメオネのチームが再び優勝するのためには、然るべきタイミングだったのかもしれない。シメオネは2013-14シーズンに優勝を果たした経験に鑑みて、優勝を果たす条件として2つのことを挙げていた。一つは「シーズン序盤はチームが自分たちのプレーの完成にだけ夢中で勝ち点を落とす。その間に勝ち点を獲得すること。そしてシーズン後半戦になればどこも、何よりも勝ち点を求めるようになる」で、また一つは「レアル・マドリーとバルセロナがともにつまずくこと」。今季はその二つの条件が当てはまった。

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今季前半戦のアトレティコの勢いは、凄まじかった。昨季リヴァプール戦でアタッカーとしての素質が覚醒したマルコス・ジョレンテ、世界最高の選手の一人として覚醒が待たれるジョアン・フェリックス、そしてバルセロナに見切りをつけられたルイス・スアレスの攻撃陣を生かすためのポゼッションフットボールが機能。システムも4バックから3バックに変えるなど合理化を果たし、昨季に欠けていた決定力、最後にヤン・オブラクという絶対的保険もある相変わらずの堅守によって勝ち点100ペースで勝利を重ねていった。第21節までの成績は、19勝1分け2敗。2強には勝ち点10差をつけて、「アトレティコ独走」を旨とする見出しが紙面に踊り続けた。

■「やばいクラブ」

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だが結局、アトレティコはアトレティコなのだ。2月、レアル・マドリーとバルセロナが調子を上げていく中で、彼らは一気に失速。その理由は多岐にわたる。彼らの新たな戦術が通用しなくなっていったこと(前を向きプレーすることで一層輝いたコケをアンカーとして使い始めた理由は謎として残る)、フィジカルの落ち込み、さらには6選手がほぼ同時に新型コロナウイルスに感染したこと(感染者の一人のJ・フェリックスは以降、負傷もあって存在感を失う)……。さらにはスペインの世紀の大雪フィロメナが試合を延期させるばかりか、練習も取り組めなくさせるアクシデントすらあった(そのおかげでセビージャ戦前の練習は1日しかできず)。第22節から第35節で2連勝したのはわずか1回のみと、むち打ちにもなりそうな急ブレーキぶりで、勝ち点を一気に縮めたレアル・マドリーとバルセロナの逆転優勝の可能性を見出す報道が連日のようになされた。

だが結局、アトレティコはアトレティコなのだ。信じることをやめない彼らは、苦しみの中でこそ生命力を見せつける。9年半にわたってシメオネが率いるアトレティコの変わっていく世代の架け橋、コケはそのことを分かっていた。だからこそ、流出した(誰かが意図的に流出させた)『WhatsApp』の音声メッセージで、こう語っていたのだった。

「俺たちはやばいアトレティ、そうだよな。簡単なことなんて、何一つとして見つけられないんだ」

「14年もマドリーに勝てていない状況で迎えた、ベルナベウでのコパ決勝ダービー。俺たちは最初に負けていたけど、最後には逆転した。(2013-14シーズンに)ラ・リーガ優勝を果たしたときも、俺たちはそれを半分手中に収めていたにもかかわらず、レバンテ戦で負けて、それからマラガと引き分けた。最終節、カンプ・ノウでのバルサとの直接対決だって最初は負けていたんだ。(2017-18シーズン、最後には優勝を果たした)あのヨーロッパリーグ準決勝アーセナル戦でも、俺たちはロンドンでやばい動物みたいに戦ったんだ」

「俺たちはやばいアトレティ、やばいクラブなのさ。最も困難なときにこそ、何かを勝ち取れる。逆に、簡単なときには最悪でしかないんだ。このリーガ、俺たちが勝ち取るぞ。これだけは覚えておいてくれ。誰も俺たちを信じていないときにこそ、俺たちは成し遂げるんだ」

「あまり眠れなかったから声が変だけど、気に入ったかい(笑)? もう、(次の試合の)エルチェ戦のことを考えないとな」

■当たり前の苦しみ

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主将がそう話したのが、第34節アトレティック・クラブ戦の1-2敗戦後のこと。次のエルチェ戦は1-0で勝利。その次の首位の座をかけたバルセロナとの直接対決はスコアレス。これによってレアル・マドリーが自力優勝の可能性を手にしたが、セビージャと2-2引き分け。アトレティコは首位の座を守った。思い出すのは、昨季アンフィールドでのリヴァプール戦だ。リヴァプールに27本(枠内11本)ものシュートを打たれて、オブラクの好守がなければ敗戦も十分あり得たのに、コケを中心とした選手たちは危機を迎えても冷静な顔でプレーを続けていた。危機や苦しみを感じるのは、さも当たり前かのように。

そして最後の3試合。第36節レアル・ソシエダ戦はヤニック・フェレイラ・カラスコ、アンヘル・コレアのゴールで2点を先制しながらも83分に1点を返され、薄氷を踏むような思いの逃げ切り勝ち。第37節オサスナ戦ではマドリーが同時開催のアトレティック戦でナチョが先制点(後の決勝点)を決め、一方で失点していたアトレティコは19分の間、2位に順位を落としていた。それでも82分にレナン・ロディ、そして88分にL・スアレスの9試合ぶりゴールが決まり、スコアでも順位でも逆転。最終節バジャドリー戦でも18分に失点を喫したが、コレア、L・スアレス弾で連続での逆転勝利。ビジャレアルと対戦したマドリーも、1点ビハインドを負っていた終盤にカリム・ベンゼマ、ルカ・モドリッチ弾で逆転勝利と不撓不屈のマドリディスモを発揮していたが、ロヒブランコがブランコ(白)とのハナ差を最後まで維持した。アトレティコが最終節で優勝を決めるのは、11回中10回目のことだった。

■「一つの生き様」

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アトレティコの今季の軌跡は「本当に強かったのか」にケチをつけたかったならば、きっといくらでもつけられる。しかし、無観客などの状況にもケチをつけたかったらいくらでもつけられる。それでもシメオネのチームは何にもケチをつけず、最初から最後までパルティード・ア・パルティード(試合から試合へ、一試合ずつ)で歩み続けた。最後に手にできるものを目標にするのではなく、ただただ次の試合だけを目標として。そうして今、彼らは「でも」などなしの幸せを感じている。そもそも、彼らのサポーターにとっての評価軸は、プレーの完成度などにはない。品評会のために試合を観戦しているわけではない。「勝つから自分のチームを愛しているのではない」のだ。

「アトレティコは一つの生き様」

彼らはいつもそんなことを言う。負けたとしても、また立ち上がればいい。立ち上がることが大切なのだ、と。たとえタイトルに指先で触れるだけに終わったとしたら、大人はマフラーを高々と掲げ、子供たちはユニフォームを着用して学校へと向かい、クラブへの愛情をいつにも増して誇示する。立ち上がることが大切なのだ、と。そして、もし優勝などしようものなら、立ち上がって血と汗を流し続ければ報われることもあるのだと、大粒の涙を流すのだ。バジャドリー戦直後、L・スアレスの涙が止まらなかったように――。

ネプトゥーノ広場で優勝祝賀会を開けなかったアトレティコはその代わり、マドリー中心部の大通りをサポーターが車で走行して優勝を祝うキャラバンを実施。優勝翌日の18~20時に行われたその企画では、ロヒブランコを赤色と白色の二色ではなく、ただの一色と信じてやまない大量の人々が旗を振って、クラクションを鳴らし続けていた。

取材・文=江間慎一郎(マドリード在住ジャーナリスト)

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