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優勝のためにFC東京に必要なものとはーー仲川輝人✕石川直宏【特別対談/前編】

 2023シーズンの明治安田生命J1リーグがいよいよ開幕する。FC東京は2月18日、浦和レッズをホーム・味の素スタジアムに迎える。アルベル監督2年目の今季、目指すフットボールをさらに進化させ、悲願である「リーグ制覇」を目指す。

 FC東京は12人の選手を補強。若手選手中心のなか、横浜F・マリノスから即戦力として加入したのが仲川輝人だ。シーズン開幕を前にして、仲川と石川直宏クラブコミュニケーターが対談を行った。1981年5月生まれの石川CCと1992年7月生まれの仲川は11歳の差があるが、ともにサイドアタッカーであり、トリコロールから青赤に戦いの場を移している。そして、前十字靭帯の大けがを乗り越えたという共通点がある。前編では、そんな二人の共通点とチームの仕上がりについてお届けする。(聞き手=吉村美千代/GOAL編集部)

■「僕とテルじゃ全然違う」

――お二人は横浜FMからFC東京に移籍されました。その理由を教えてください。

以下に続く

石川:僕とテルじゃ全然違いますよ。僕はもうプレーする場所がなくなってしまうギリギリの移籍だったので、即戦力というよりは自分がチャンスをいただいてその中で結果を残さなくてはいけないという立場でした。当時とはチームの規模感も違いますし、レベルの差もあります。21歳になる年で、ある意味失う物もありませんでした。

 きっかけはみんな知っているとおり、当時マリノスで試合に出ていないときに原さん(原博実元監督)から声をかけていただいた。FC東京はJ1に上がって3年目くらいで、自分の成長とともにチームの成長を一緒に作り上げることができるのではと思って決めました。先ほども言いましたが、生き残っていかなくちゃいけなかった。藁にもすがる思いでここに来たという背景があります。

仲川:僕個人としては、新しいチャレンジをしたい気持ちが一番大きかった。そして、FC東京の強化部の方から熱い思い、「まだJ1で優勝できていない、そこに力を貸してほしい」という熱い言葉をいただいたので、決心しました。

■練習の強度は変わらない。あとは「質」

fctokyo-nakagawa-teruhitoF.C.TOKYO

――仲川選手はここまでキャンプを経て来ましたが、対戦相手として見るFC東京と実際に中に入って感じるFC東京との違いはありましたか?

仲川:球際がバチバチの激しい試合をするチームだと感じていました。去年対戦したときはアルベル監督1年目で、ポジショナルサッカーにトライし始めたばかりでした。未完成な部分も多かったと思うんですけど、その中でも後ろから繋がれて崩されてゴール前までチャンスを作られた。「これが浸透していけば面白いんじゃないかな」という印象は持っていました。

 実際中に入って、バチバチに体をぶつけ合う激しい球際は想定していたので、すごくいい練習強度と内容でできていると思います。イメージ通りでした。あとは長友佑都選手がいるおかげでグラウンドの雰囲気が違う。佑都くんが合流する前と後で全然違いました。もちろん、来る前も声掛けはあってアップからいい雰囲気でできていたんですけど、佑都くんが加わって、もっと質の部分だったり声掛けの部分だったりで一段、二段上がったという印象はあります。

――石川CCはキャンプをご覧になりましたか?

石川:YouTubeで(笑)。僕もファン、サポーターの方と一緒です。今日、久しぶりに選手とも話をしたんですけど、思っていた通りというか、手応えを掴んでいますね。新加入選手の刺激や佑都も合流して、本当に充実したキャンプだったんだなという印象を受けました。あとけが人も少ないですしね。スタッフも含めて一体感を今日小平に来ても感じました。

仲川:もう何年かいるかのような。僕はそれぐらい馴染んでいます。

――仲良くなった選手はいますか?

石川:確かに、テルは誰かとつるむイメージないよね?

仲川:誰でしょう。一次キャンプの沖縄の最初はコロナの関係で一人部屋だったんですけど、3日目から二人部屋になって、小泉慶選手と一緒になりました。そこからずっと一緒にいる感じですね。あとは佑都くんが来てから、だいぶ深い話、サッカーの話もそうですけどいろいろしました。今、練習を終えたら20分ジョグをしているんですけど、それも佑都くんの影響が大きいです。

石川:もともとやっていたのではなく?

仲川:来てからです。ローパワーを取り入れたほうがいいという話を聞いて、それを今実行しています。そういったいろんな経験がある選手の話を聞けるのは非常にいいことなので、吸収しながら自分に合ったものを選んでいこうと思っています。全体的に仲はいいですよ。

――横浜FMは練習の強度がすごく高いと聞きました。

仲川:マリノスの強度や質も経験したうえで、FC東京もほぼ変わらないと思います。まだまだ最後の質やパスの速さという部分では足りていない部分はありますが。今季、高卒で新加入選手が複数人入りましたが、まだそのレベルを経験していない選手が多いので、そこをチーム全体として質を上げていければ、もっと良くなるし、もっと強くなると思います。

 みんなの意識付け、例えばパス一つにしてもどちらの足に付けるかとか、結構そういうこともキャンプで監督は言っていたので。それを高い意識を持ってやっていければいいと感じています。

■先発争い、競争が刺激になる

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――今、スタメン争いが激しいと聞いています。仲川選手は以前インタビューで「優勝した時のマリノスはスタメンがあまり決まっていなかった」とおっしゃっていました。そのメリットと今の東京に反映させたときに、どういう違いがあるか、あるいは似ているか教えてください。

仲川:難しい質問ですね。選手としてはもちろんスタメンで出ることが一番いいですし、そのほうが気持ちよくプレーできるとは思います。結構メディアでも言っているんですけど、マリノスは誰が出てもマリノスのプレーができるというか、マリノスのためにプレーするという気持ちをみんなが持っていました。10分だろうが15分だろうが、5分だけでもマリノスのために身を犠牲にして走り抜く、戦うという姿勢を一人ひとりが持っていました。だから誰がスタメンだろうが結果がついてきたんだと思います。

 みんな一人ひとりチームのために戦う共通理解があった。僕個人の意見としては、毎回毎回競争して、そういった刺激をし合いながらそれぞれがレベルを高め合いスタメンをつかむことで、(結果として)チームが強くなるのだと思います。それが今のFC東京には必要なんじゃないかと僕は思っています。

石川:競争は必ず必要です。例えば週中の紅白戦で、サブ組がいい試合をすると、スタメン組の刺激になって週末いい試合ができることもある。同じ熱量で組織の中でどれだけ高め合えるか。それをする意味でもフラットな競争と、あとは監督がどのようなサッカーを描いていてそこに向かって選手たちがイメージを共有できるか。同じ競争意識の中で同じものを目指すことで、一体感が生まれると思います。それを続けることによって結果が出て、自分たちのクラブへの意識も高まる。

 競争は個人ですけど、その先の世界を組織の中で描けると、チームとして強いと思います。多分そこがウチには少し足りない部分だったのかもしれない。テルは多分気づいていて、そういうアプローチや姿勢で示してくれている。非常にありがたいですね。僕自身もFC東京に長くいますがリーグ優勝はしていません。優勝を経験している選手がチームに不足していることを感じて、伝えたり表現してくれたりする。そのエネルギーを無駄にしないように、よいシーズンを過ごせるように僕らはサポートしたいし、同じ景色を見ながら、その先の景色を見たいと思っています。

 テルは、(FC東京の強みとして)球際や激しさを言ってくれているんですけど、優勝のためには僕は、やはり最後の最後が足りないのかなと感じています。その「最後」とは、決定力もそうですし、「クラブのために」という思い。マリノスではそれが一体感を生んで勝負を引き寄せてきた。それだけの気持ちをどれだけの選手がFC東京に持てるかだと思います。選手それぞれのストーリーはもちろんありますが、クラブのためにやり切る、走り切る。長くいる選手もそうですけど、テルが来て一年目でそんな姿を示してくれることは非常に価値があります。そういう姿に僕は期待しています。

■「スピードスター」=ナオさん

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――新体制発表の際に、仲川選手が目指す選手として石川CCを挙げていらっしゃいました。その理由を改めて教えてください。

仲川:プレースタイルは似ているようで似ていないのですが、自分の中でイメージしている「スピードスター」にナオさんがバチっとハマっていたんです。あと同じ境遇といいますか、けがをしても復帰して活躍してまたけがをして、その繰り返しの中でも長く現役を続けてこられた。尊敬、リスペクトする部分もあります。見習わなきゃいけないところです。そういったところがナオさんを目標に挙げた理由です。

――それを聞いた石川CCはどう思われました?

石川:正直うれしいんですけど、もう全然、僕より先を上を行っているので。JリーグMVPもそうですし、優勝もして僕が欲しかったものをすべて持っている。でも、そういうふうに言ってもらえるのは非常にありがたいです。

 僕自身は、どれだけチャレンジができるか、仕掛ける姿勢を見せられるか、インパクトを与えられるか、記憶に残るプレーができるか。見に来てくださる方たちに感動してもらい喜んでもらう。そういうエネルギーを誰よりも持ってプレーしていたし、そのプライドもありました。結果云々でいうとなかなかそこに結び付かなかった部分もあるのですが、でも自分がプレーする意味や価値はそこにあって。そういう姿勢もテルは感じてくれているんじゃないかと思います。

 これだけ結果を残してきて優勝もした中で、もう一回チャレンジする姿勢自体が価値に値すると思うので、FC東京のエンブレムをつけてその姿を示し続けてほしい。あと僕から一つ言うとすれば、今30歳だと思うのだけど、揺れ動くんです30歳過ぎると。チームと個人のエネルギー、すみ分けのバランスといった部分で。チームのためにという部分もあれば、自分のためにという部分もある。今回はもう一度、自分のチャレンジを選んで、そのチャレンジがチームに結びつくことを求めて移籍して来てくれたと思います。そのチャレンジを僕はサポートしたいし、一緒にその景色を見たい。

 自分を重ね合わせられる存在でもあるから。自分ができなかったことを託すじゃないですけど、そういうふうに思わせてくれる選手です。あと、けがだけはしないようにね(笑)。そこだけは心配なので。とはいえけがはサッカーには付き物だし、それもサッカー人生だとは思うのだけれど。(後編:浦和戦展望に続く)

【試合情報】

2023明治安田生命J1リーグ第1節
FC東京vs 浦和レッズ(味の素スタジアム)
2023年2月18日(土)14時キックオフ
TV放送:DAZN/NHK総合

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