相馬直樹新監督の就任後、初めて手にした勝ち点3。新体制が取り組んできたサッカーが、結果に結びつき始めた。しかし、この歓喜に至る道筋は平坦ではなかった。東京Vを16年ぶりのJ1復帰に導いた城福浩前監督は、10月5日に解任。走力と球際の強さを武器に戦ってきたチームは、なぜ勝てなくなったのか。そして、相馬直樹新監督の下で何が変わり始めているのか。
選手やスタッフの言葉から、城福体制で築いた基盤と相馬体制の現在地を探る。(取材・文=白谷遼)
「走る」から「走らされる」…城福ヴェルディに生じた変化
チームの変化を探るうえで、まずはこれまで築いてきたチームの基盤を振り返りたい。
城福前監督が「われわれが失ってはけないもの」として掲げたのは、走力を生かして攻守にアグレッシブに戦う姿勢と、球際で「靴一足分の寄せ」を徹底する守備のディテールだ。全員がこのベースを徹底し、予算で上回るJ1の強豪に対抗してきた。
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しかし、今季開幕前に、その強みに陰りが見え始めていた。J1百年構想リーグでは、地域リーグラウンド第18節の横浜F・マリノス戦で0-6、ガンバ大阪とのプレーオフラウンド第2戦でも2-4と敗戦。武器だった走力で主導権を握れない試合が続いた。
「危機感を持って次のシーズンに臨まないといけない」
城福前監督はそう警鐘を鳴らしていたが、2026/27シーズンも開幕から勝点を積み上げられなかった。副主将の林尚輝も0-2で敗れた第4節・鹿島アントラーズ戦後、「自分たちの強みとして走っているのか、走らされているのか。今はどちらかと言うと(相手に)走らされている」と危機感を示している。
開幕から負傷者が続出したことも響いた。森田晃樹が二度の負傷で離脱し、序盤には齋藤功佑も戦列を離れた。中盤を経由したビルドアップや崩しが難しくなり、ボールを収めて攻撃につなげる形を作れず、相手に走らされる展開が続いた。
移籍市場の閉幕直前には、一美和成、藤本寛也、チョ・ユミンら実績のある選手を補強した。ただ、藤本はバーミンガム・シティで実戦から遠ざかり、一美とチョ・ユミンも加入前の負傷の影響で、すぐに即戦力として稼働できる状態ではなかった。こうした点も今季の城福ヴェルディが、なかなか浮上できない一つの要因となった。
9月に入り第5節・ヴィッセル神戸戦(0●2)で齋藤が復帰するとシュート数も増え、復調の兆しが見え始めたが、約1カ月後の10月5日に城福前監督の解任が発表された。
前監督の無念と現監督の決意。新体制を支えるもの
Getty Images中村考昭代表取締役社長は「第8節終了時点で19位という現状を重く受け止め、クラブの将来を見据えた総合的な判断としてこの結論に至りました」と説明した。城福前監督は「チーム作りという意味ではこれからと思っていた。このタイミングでチームを離れることは無念で申し訳ない」とコメント。同指揮官の声明は、同じ思いを抱えていた選手やスタッフの心境を映し出していた。
4シーズンをともに戦った林も「もう少し早くどうにかなれば、こういう結果になっていなかったはず。自分は責任を感じていますし、なかなか受け入れるまで時間がかかりました」と胸中を明かした。
そしてクラブは8日に相馬新監督の就任を発表。翌日の記者会見で、相馬監督は目指すサッカーとして「自分たちがボールと一緒にプレスにいくこと」「前へのベクトルをしっかりと持ち続けられること」の二つを挙げた。走力と球際を重視する従来のベースを踏襲しつつ、よりゴールへの意識を明確に打ち出した。
選手から絶大な信頼を得ていた城福前監督の後を引き継ぎ、新たなサッカーを浸透させるのは容易ではない。
新たにチームの指揮を任された相馬監督を支えるのがコーチ陣だ。森下仁志コーチ、和田一郎コーチら既存のスタッフに中村忠コーチが加わり、それぞれの立場から選手を支えている。齋藤は「明確なサッカーを選手に伝えているのは感じています」と話し、選手同士もコミュニケーションを重ねながら新たな戦術の理解を深めている。中村コーチも「選手、他のスタッフが気持ち良く集中してサッカーに臨めるように、僕なりのアプローチでやれたら」と役割を語った。
「網を張る守備」と「前へのベクトル」。初勝利に見えた変化
Getty Images相馬体制でまず変化したのは守備だ。林は、相馬監督が求める守り方について「網を張ってそこに誘い込んで取りに行くイメージ」と表現した。積極的に前へ出るハイプレスを徹底してきた城福体制に対し、新体制では陣形を保って相手を誘い込み、奪いどころを定めて圧力をかける。無理に追い続けるのではなく、味方との距離を保ち、全体で連動してボールを奪う狙いだ。
攻守のリンクマン・齋藤はこの守備を「ミドルハイプレス」と説明する。センターサークル付近でコンパクトな陣形を作ってプレスのスイッチを入れ、サイドで相手を追い込む。ボールサイドの選手が圧力をかけ、逆サイドの選手が中央を締める連動が重要になる。一方、19日の取材では、プレスのタイミングや状況判断は「これから積み上げる場所」とも語っていた。狙いは明確になりつつあるが、試合状況に応じた判断の共有は引き続き課題だ。
攻撃でも前への意識が表れている。相馬監督が就任会見で強調した「前へのベクトル」が、福岡戦で得点につながった。
先制点は齋藤の縦パスを起点に、ゴール前へ飛び出した熊取谷一星が決めた。同点に追いつかれた後も、一美のスルーパスから松橋優安が相手守備陣の背後を突き、勝ち越しに成功。縦への選択肢を持ち、前線の選手がポジションにとらわれずゴールを狙う姿勢が、今季リーグ戦初の3得点を生んだ。
一方、城福体制で築いた基盤も受け継がれている。相馬監督の初陣となった第9節・サンフレッチェ広島戦(0●2)で、プロ入り後初めて左サイドバックを務めた新井悠太は「守備は城福監督の下で落とし込まれた部分がありました」と振り返った。林も「(守備の)表現方法は変わりましたが、そこは継続してやっていかないといけない」と語った。ベースを維持しながら、新たな戦術を上積みすることが求められている。
福岡戦で初勝利を挙げた東京Vは、11月1日に勝点差4で背中を追う14位のV・ファーレン長崎と対戦する。11月は順位の近い相手との直接対決が続く重要な1カ月だ。
城福体制が残したのは、走力や球際の強さだけではない。J1の強豪に対抗するために積み重ねてきた経験もまた、チームの財産だ。その土台の上に何を積み上げられるか。東京ヴェルディの再建はまだ始まったばかり。城福体制で築いたベースを継承しながら、相馬体制の形を確立するーー今こそ新生ヴェルディの真価が問われている。



