名古屋FW永井謙佑がリーグ戦2試合連続の先発出場を飾った。明治安田J1百年構想リーグでは控え中心だったが、37歳になったいま若手への期待を胸に「潤滑油」としてチームの勝利に貢献している。その根底には、自らも先輩たちに「お膳立てしてもらった」経験がある。
■「俺が相手の倍疲れた」最前線からの献身
Jリーグ屈指のスピードスター永井謙佑。韋駄天とも称される元日本代表は「ここから衰えていく一方だからしんどいですね。体力低下は本当に感じている」と苦笑いするが、第10節終了時点のトップスピードランキングで、チーム内1位の34.2km/hという驚異の速さを記録している。来年3月5日に38歳を迎えるが、まだまだ快速は健在だ。
この日はセンターフォワードでリーグ戦2試合連続となる先発出場を果たし、自慢のスピードを披露した。ただ、そのスピードは、多くの観客が期待する“裏抜けからのゴール”のためだけではなかったようだ。永井が口にした“走る理由”は少し意外なものだった。
「相手を疲れさせることだけを考えた。俺が相手の倍疲れたけどね(笑)」
目立ったのは守備時のランニングだった。[3-4-2-1]のミラーゲームとなったなか、永井は柏のCB古賀太陽に狙いを定めて、しつこくプレッシング。「ゆっくり行くと相手が何でもできてしまう。後ろがチャレンジしやすいように、相手に嫌な思いをさせながら、なおかつ限定していた」と、ボランチへのパスコースを防ぎながらのプレーだった。
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「ボランチの(森島)司と(稲垣)祥が上がってこられるタイミングを作って、行けないときは俺が2度追いしていました」
永井は両軍通じて3番目に多い18回のスプリントを記録。たとえヘトヘトになってでも、仲間のために奔走する背番号18の姿があった。
■“らしくない”。最大の武器を封印
一方の攻撃面では、“らしくない”プレーがあった。それこそ、永井といえば切り裂くようなラインブレイクからのチャンスメイクが代名詞。しかし、この日見せたのは武器であるスピードを生かさないポストプレーの数々だった。
もちろん、背後へのランニングから味方の決定機を生み出すシーンもあったが、FW木村勇大へのアシストとなった36分の場面のように、少ないタッチで味方に落とすプレーが増えた印象だ。
プレースタイルの変化について問われた37歳は「それはある」と認める。ベテランはミシャことミハイロ・ペトロヴィッチ監督の下で、新境地を開拓しているようだ。
「ミシャのエッセンスを感じながらですね。だから間にいないといけないときもある。間にいすぎると後ろがパスを出しづらくなるし、相手のDFも強くきやすくなるけど、背後を狙うことで、相手も走られるのを嫌がって間で受けられるようになっている」
チームのためならばと最大の武器を封印し、ファーストディフェンダーとして汗も流す。
「やらないと勝てないので。いろいろな葛藤のなかでやっています」
37歳となった今でもゴールへの欲は尽きない。それでも名古屋がさらに上へ行くために、フォア・ザ・チームに徹する。
■自身が受けた「お膳立て」を若手へ
明治安田J1百年構想リーグでのスタメン起用は1試合のみだった。
攻撃的なポゼッションサッカーを志向するペトロヴィッチ監督の下で出番を増やすには、チームを勝たせるためにはどうすべきか―― 。試行錯誤を重ねたうえで見いだした解の一つは“潤滑油”になることだった。
「自分でも得点も取らないといけないけど、(でも)それこそ勇大にパスを出してあげるとかね。若いアイツらが今後を引っ張っていかないといけないし、(若手が)目覚めるとチーム力はもっと上がる」
「自分も若いときにお膳立てしてもらった。玉さん(玉田圭司名古屋グランパスU−21監督)や上の年代の人にそうやって成長させてもらったから、そういうのが大事だと思う」
自らが「お膳立て」して潤滑油になれば、若手たちがもっと輝きを増していく、そしてその自信もある。「相手を疲れさせることだけを考えた」のも、「できる選手がベンチにたくさんいた」という信頼があるからだろう。
永井が57分にベンチへ下がった後、途中出場組はその期待に応えるように奮起した。79分には右サイドからMF甲田英將が中央へ切り込むと、最後はFW山岸祐也へラストパス。そのまま山岸が冷静に流し込み、途中出場コンビでダメ押し弾を奪った。
「追加点も取れてすごく良かったと思うし、先発だろうが途中でもみんなが頑張っていて、チーム力が上がっている」
ミシャ監督が「クビになるかと思いました」と語る4連敗の屈辱も味わったが、チーム一丸となって公式戦4連勝を飾った。首位撃破によって“ミシャ式”への確かな手ごたえをつかんだように見えたが、フィールドプレーヤー最年長の永井は気を引きしめている。
「最初の出だしでつまずいて、そこからうまくチームとして修正できている。だけど、そんなに簡単じゃないので、Jリーグは。一喜一憂せずに俺たちのスタイルを誰が出てもやっていけるようにしたい。そのためにまずは自分が出ているときに失点しないように、いい守備からいい攻撃につなげて、ミシャのスタイルを出せるようにしたいです」
取材・文=浅野凜太郎



