■守備の練習はほとんどなし
「ハッキリ言いますけど、守備に関してはほとんどやっていません」
森保ジャパンの初戦となるコスタリカ戦の前日、ミックスゾーンで興味深いコメントが発せられた。言葉の主は槙野智章。9月3日の集合から森保一新監督がチームに落とし込んできたトレーニングは、基本的にすべて攻撃に関するものだったという。槙野の話を受けて、札幌合宿からのトレーニングと選手コメントを振り返ってみると、確かに攻撃に関する話が多く出て来ていることに気付かされた。
では、果たして新しい日本代表はどんなコンセプトで、どんな攻撃を見せるのだろうか。ここまでに公開されたトレーニング内容や指揮官や選手たちの言葉から、コスタリカ戦で見るべきポイントを読み解いていこう。
森保監督が選手たちに求めている基本的な考え方は、サッカーの原理原則に基づいた非常にシンプルなもの。決して執着するスタイルやシステムがあるわけではない。球際は激しく、選手個々がチームのために戦う。そして全員で臨機応変に戦いながら、ゴールを陥れるための最短ルートを目指すというものだ。
「柔軟に臨機応変に対応力を持ってやっていきたい。もちろん攻撃的にいきたい部分はありますが、守備をしなければいけないときは守備をする。速い攻撃をしなければいけないときは速い攻撃をする。相手に守られたらボールを握りながら戦う」(森保監督)
札幌での練習初日は回復トレーニングのみで終わったため、本格的な練習は2日目から。その選手たちに対してのファーストアプローチで指揮官が選択したのは、ボールを素早くゴールに近付けるための判断と手段の意識付けだった。
それが細かい縦方向のパス交換から、一気にグラウンダーの長いスルーパスや大きなサイドチェンジで裏のスペースを突くメニューだ。森保監督は、大きな声で「視野を広く持って!」、「見えたと思ったら狙おう!」と要求していた。
これは単なるパターン練習ではなく、DF役を置きながら、ボールを出す側に中央とサイドの選択肢を設定。出す側には受け手とのタイミング、相手DFとの関係性、スペース把握などの状況判断が求められた。今から振り返ってみると、指揮官が求める攻撃コンセプトのベースがこの練習にあったようにも思う。
ボールを奪った際のファーストチョイスは縦に速く。それが難しければ、くさびのパスを入れて相手の守備網に綻びを生み出そうとする。ダメなら横パスを使いながらのビルドアップで縦に仕掛ける機会をうかがう。そして受け手にはボールを引き出す動きを求めたわけだ。このスタイルを浸透させるため、森保監督はポジションごとにテーマを設けて練習に臨ませていた。
■ロシアW杯からの継続、日本人らしさ
これをポジションごとに槙野が説明する。
◎DF
くさびとか裏へのパスだけじゃなくて、ドリブルで運ぶことも求められています。空いているスペースがあれば、どんどん顔を出して要求していこうと。
◎MF
ワンタッチで縦に出す意識。とにかく前につける意識ですね。状況によってはボールを引き出すために、最終ラインまで下がって受けることも良しとしています。
◎FW
選手たちのコンビネーションを深めるために、前に入ったボールをワンタッチでパス交換をするという、かなり難しい状況を設定しています。
指揮官が求める攻撃パターンに関しては、1トップでのスタメン起用が濃厚と見られている小林悠も「2列目の選手がすごくいい距離感にいてくれるので、ダイレクトという制限がある中でもすごくいい崩しができたりして、選手間の距離はすごく良かった。(ポストに入って)落として裏のスペースを狙ったり、他の選手が作っている間に背後を狙う形もある」とコンビネーションに手応えを感じている模様だ。
そして槙野は指揮官のコンセプトとして、「体よりも頭が疲れるくらいの賢いサッカーをしないといけない。ボールを引き出すために人が臨機応変に動く形になると思う。森保監督はあまりポジションにも、(選手に)並びに関してもこだわりはない」とも明かしてくれた。
並びにこだわりはない――。今回のコスタリカ戦では、森保監督が3度のリーグ優勝を達成したサンフレッチェ広島やU-21日本代表で主に用いてきた3バックではなく、ロシア大会まで日本代表が採用してきた4バックでスタートすることが濃厚となっている。
これは積極的なコミュニケーションと柔軟な対応力をベースに決勝トーナメントに進出したロシア・ワールドカップからの継続性を重視したものだが、選手たちの言葉を借りれば、試合展開に応じてポジションチェンジすることで3バックにもなる。戦い方のポイントは、とにかく状況判断と臨機応変な対応にあるわけだ。
そして森保新監督は西野ジャパンをコーチとして支え、そこで得た経験――世界で戦うための日本人らしさを新チームに受け継ごうとしている。
■プロサッカー選手として勇気と元気を与えること
(C)JFA▲7日の紅白戦後、札幌の練習場に駆け付けたファンたちと記念撮影(写真提供=日本サッカー協会)
「“日本人らしく”というのは感覚で分かる。試合を通じてひたむきに戦う、タフに粘り強く、最後まで戦い抜くところはやっていきたい。そこがサッカー、そしてスポーツからいろいろなメッセージを届けるのに一番必要な部分ですし、ロシアW杯でチームとしてできていた部分でもある。選手個々が引き出しを持てるように、チームとしてもいろいろな戦いができる力を付けるようにしていきたい。そして規律、攻守に連係、連動して戦っていく部分を大切にしながら、日本人の持っている技術に自信を持って勇気を持ってトライしていくことを求めていきたい」
チリ戦が行われる予定だった札幌では大地震が発生し、日本代表チームも被災する形となってしまった。コスタリカ戦が開催される大阪も直前の台風21号で甚大な被害が出た。その事実に直面した選手たちには、プロサッカー選手として日本中に勇気と元気を与えることも求められる。
今回の招集メンバーで唯一、ロシアのピッチに立った経験を持つ槙野は言う。
「ロシアW杯が終わって、日本代表が次にどういう戦いをするかが注目されていますし、台風や地震で被災された方への思いもあります。コスタリカ戦では選手一人ひとりがいろいろな考えと気持ちを持ってプレーしなければならない。実際にコンビネーションのところでミスは起こるだろうし、まだまだできないところもしれない。でも、大事なのはミスをしたあとのプレーと気持ち。より責任と覚悟を持って戦いたい」
ようやく迎える初陣。選手たちの躍動が森保ジャパンの今後にも、そして日本中にメッセージを伝えることにもなる。攻撃中心のメニューを組んだ結果がピッチで披露されれば、自然と皆を笑顔にするはずだ。
「今までの代表にはないやり方、面白さが見られるんじゃないか」
こう話してくれた槙野の言葉がコスタリカ戦への楽しみを大きくさせる。森保ジャパンが見せる臨機応変なサッカー、そして被災地への思いとアグレッシブな姿勢をしっかり見届けたい。
文=青山知雄
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